※人数は2022年2月末現在。
PROFILE
大学院卒業後、中学校の非常勤講師を経て協力隊に参加。帰国後は開発コンサルティング会社「アスカ・ワールド・コンサルタント株式会社」に入社。JICAの「みんなの学校」プロジェクトに携わる。
配属先:国民教育省アナラマンガ県事務所
要請内容:学校運営委員会の活動のモニタリング、「学校活動計画書」の作成と実施への側面支援、学習環境の改善に向けた活動
PROFILE
大学卒業後、不動産業や旅行業でカウンター営業に従事。帰国後は日本語講師の資格を取得し、日本での生活を目指す国内外の外国人を対象にオンラインで日本語を指導している。
配属先:ウドムサイ県産業商業局販売促進課
要請内容:特産品の販路拡大と新規顧客獲得の支援、既存製品の品質向上と新製品開発の支援、特産品展示販売センターの運営管理支援
コミュニティ開発の活動は、地域住民の生活改善や収入向上、地域活性化などに貢献することが目的だ。活動分野は、教育や地場産業振興、農業普及、保健医療など多岐にわたるが、ベースにあるのは、地域を取り巻く状況、地域の課題を理解し、住民と共に課題解決に取り組むこと。そのため、コミュニケーション能力や人と人をつなぐ調整能力、ワークショップやイベントの企画・運営能力などが求められている。
地域協働型の学校経営に関心があった福長輝倖さんは、JICAがアフリカで実施している「みんなの学校」プロジェクトに関わることができると知って、協力隊に応募した。
「大学院で教育学や学校経営について研究し、子どもの学力、社会性を育てるためには地域の力が重要だと考えていました。教員免許はありますが、地域の人たちと学校の活動計画を考えたいと思い、小学校教育ではなくコミュニティ開発を選びました」
任地のアナラマンガ県は、2016年に始まった「みんなの学校:住民参加による教育開発プロジェクト」(※)のパイロット県だ。初代隊員の福長さんへの要請は、管轄する小学校321校の学校運営委員会を巡回し、課題を見つけ、学習環境を改善するための活動を行うこと。20校程の学校を視察した福長さんは、カウンターパートと相談しながら、具体的な活動を決めた。
当初失敗した学校菜園だが、その後地元の方や同期の農業隊員の協力も得ながら、現地の環境に合った野菜作りに挑戦
「課題の一つが、補習授業の改善です。学力改善のために、教師と地域住民が計画した補習授業ですが、何を、どのように教えてよいか困っている状況でした。そのため、補習授業で使える指導技術の研修会を実施しました」
プロジェクト本体やカウンターパートによる国語の音読と算数の研修会には、計100校の教師が参加し、指導技術の改善だけでなく、テスト結果にも改善が見られた。
ほかに、学校と地域住民による住民会議を活発化するための改善案の提示、学校で使用されている調理場への改良かまどの設置や学校菜園づくりなどにも取り組んだ。
学校菜園では失敗も経験した。マダガスカルの一部の地域では学校菜園が義務づけられているが、畑が放置されたままのところも少なくなかった。そこで、福長さんは栄養摂取の視点から、学校の予算で大豆を栽培することを決めたが、虫に食べられて全滅するという結果になった。「実は、学校菜園を行った三つの学校の土壌はもともと大豆が育ちづらかったようです。当初は一人で始めたので、そうしたこともわからず、日本のやり方で植えてしまったのです」。
だがその失敗を糧に、その後、住民のなかから野菜作りが得意な人を技術支援のリーダーとして学校菜園の計画に巻き込み、学校菜園の活動も軌道に乗せた。
「コミュニティ開発の基本は住民に参加してもらうことと、改めて実感しました。住民に地域の課題を自分のこととして認識してもらうため、テスト結果などを数字やグラフで〝見える化〟することも大切だと思います」
葛生産者への技術研修。参加した生産者が作った葛のバッグが、オーダー表に沿って作られているかをチェック
伊藤愛奈さんの配属先は、伝統的な織物や葛で作ったバッグやポーチといった特産品の販促活動を行っている販売促進課だ。任地のウドムサイ県は、かつて、麻薬を密造するゴールデン・トライアングルと呼ばれた山岳地帯に位置する。特産品の生産は、住民のケシ栽培の代替収入源を確保するために国連機関が始めたものだ。販売促進課はその活動を引き継ぎ、生産者の現金収入向上を目的に、特産品の買い取り、生産指導などを行っている。
最初の1年、伊藤さんは販売促進課が出展するイベントに1スタッフとして参加するほか、他県で活動する同職種の隊員と共に、販促のためのイベントを企画・実施した。また商品の発注・品質チェックなどを同僚と行いながら、特産品についての知識を蓄え、同僚や生産者との関係性を深めた。
2年目になると、品質向上のための技術研修の実現に向けて動き始めた。生産者によって技術に大きな差があり、同じ品質の商品を数多く生産するのが難しいことが、課題となっていたからだ。ベトナムに出張した際、ラオスの葛製品への関心が非常に高いことを知り、特産品としてのポテンシャルの高さを実感したことも、伊藤さんの原動力となっていた。
ラオスでは、地域の特産品を選定する「一村一品運動」が展開されている。しかし、県内の葛製品で認定されているのはマーン村のみ。ほかの村は技術力が足りず認定には至っていなかった。村同士には交流がなく技術の移転もなかった。そこで、伊藤さんはマーン村の生産者リーダーを講師として招き、近隣の村に技術指導をしてもらうことを提案し、実施にこぎ着けた。
「研修では、取引先が希望する商品のデザインや規格を記載したオーダー表を導入しました。生産者がオーダー表に沿って作った商品の仕上がりを講師が採点することで、自分がどのレベルにあるのか、どこを改善すればよいのかがわかります」
心残りは、7月までの予定だった活動が、新型コロナウイルス感染拡大により、残り2回の研修を終えられないまま3月に急きょ帰国となったこと。
「コミュニティ開発は、任地で見つけた課題をどう解決するか。決まった方法はなく、そこが面白い部分です。一方で、いい方法を考えているだけでは何も進まないことを実感しました。後輩の皆さんには、これだと決めた課題に少しずつでもアクションを起こし続けてほしいです。自分のできることが必ず見えてきますから」
「対住民」コミュニティに入り込み、
積極的に住民と関わっていくこと
※みんなの学校:JICAが支援する住民参加による教育開発プロジェクト。子どもの学習環境の改善を図るため、参加型・分権型の学校運営の改善モデルを開発・検証し、質の高い基礎教育の普及を目指す
Text=油科真弓 写真提供=福長輝倖さん、伊藤愛奈さん