先輩隊員のシューカツ記

【今月の先輩】就職先 - ロンドンの日系幼稚園

帰国後、内定までの就職活動の方法を聞きました。

文化に合った保育環境をどのようにつくるか日々考えています

武元理子さん
武元理子さん(エジプト/幼児教育2017年度4次隊・京都府出身)

就職先:ロンドンの日系幼稚園
※英国教育省認可を受けた日系の全日制私立幼稚園
事業概要:在英邦人子女を対象に、日本語の習得を大前提として国際語である英語を習得する環境も整える

武元理子さんの略歴

  • ▶1991年        京都府生まれ
  • ▶2011年4月   短大卒業後、京都府精華町役場入職。公立保育園の保育士として勤務
  • ▶2018年3月   青年海外協力隊員としてエジプトに赴任
  • ▶2020年3月   帰国
  • ▶2021年4月   ロンドンの日系幼稚園に入職。2歳児クラス担任

   保育士としての経験を途上国の子どもたちのために生かしたいと協力隊に参加した武元理子さん。それまでの勤務先は、休職してボランティアに参加する「現職参加」が可能だったが、任期終了後は海外で子どもに関わる仕事をしたいという思いもあり、退職して協力隊に参加することを決めた。

   任地は、紅海に面したエジプトの都市ハルガダ。イスラムの国での活動は、文化に合った保育を考えるきっかけになったという。例えば、エジプトでは保育士が全身を覆うアバヤと呼ばれるワンピースタイプの衣装を着ているため、日本のように保育士が園児と一緒に運動遊びをすることが難しい。また、イスラム教徒には1日5回、礼拝の義務があり、アザーン(礼拝への呼びかけ)が響き渡ると、園児も遊びをやめて、みんなで静かに過ごす。

「日本式の保育をそのまま伝えるのではなく、その国の文化に合わせて〝遊びを通した学び〟ができる環境をつくることが大切だと感じました」

   就職について考え始めたのは、任期終了の半年くらい前から。再び日本で働くという選択肢はなかったが、保育士の経験を生かせる海外の就職先に、どのようなところがあるかも、よくわかっていなかったという。そこで、幼児教育や小学校教育のOVたちに話を聞き、先輩隊員がどんなところに就職したのか情報を収集した。

「そのなかで、ドバイの日系幼稚園に就職した先輩がいるという話を聞き、そういう道もあるのかと思うようになりました」

   ロンドンの日系幼稚園の求人情報を見つけたのは、ネットで見つけた教育関係専門の求人サイトだった。

「国にこだわりはありませんでしたが、日本とエジプトで保育を体験したので、次はヨーロッパのイギリスの保育を見てみるのも面白いかもしれないと思って」と武元さん。

   現在は2歳の園児たちを相手に、奮闘の毎日を送っている。

1.協力隊時代   2018年3月~

段ボールなどを材料にした手作りおもちゃ

どこでも手に入る段ボールなどを材料にした手作りおもちゃ

配属先は、全国の障害者施設、孤児院、保育園などを管理する社会連帯省のハルガダ支局です。NGOが運営する公立保育園13園を巡回し、「遊びを通した学び」の実践と定着に向け、保育現場の改善、保育士能力の向上を図るというのが要請内容でした。配属先にはこれまでも幼児教育隊員が何人か赴任しており、前任者の活動を引き継ぐ形で赴任したので、カウンターパートや保育士、園児たちもスムーズに私を受け入れてくれました。活動で意識したのは、おもちゃ作り、遊びなどの過程で現場の保育士を巻き込むことです。ワークショップを提案し、保育士同士の交流や技術向上の機会も設けました。

2.帰国   2020年3月

「海外」「幼稚園」「保育士」「資格」「日本人学校」などをキーワードにネット検索し、保育士資格・幼稚園教諭免許があれば海外で働ける場所を探しました。ホームページを見て気になったところには、求人の有無に関係なく問い合わせのメールを送りました。また、海外の教育関係の求人が掲載されている「JEGS International」というサイトも小まめにチェックをしました。現在、勤務している日系幼稚園の求人情報もここで見つけました。ホームページを確認し、日本の文化、幼児教育を大切にしながら、イギリスの教育も取り入れ保育をしているところに引かれ、応募することにしました。

3.書類提出   9月中旬

提出書類 ▶履歴書、職務経歴書

日系の幼稚園なので、日本人駐在員の子どもが多いのですが、初めて海外で生活をするご家族は、不安も大きいと思います。私自身、協力隊員として初めて海外で生活するにあたっては不安も感じました。その経験は、駐在員の家族にも通じると思っています。志望動機欄にはそのことを踏まえ、保護者と園児に寄り添って保育できることが自分の強みであると書きました。

4.オンライン面接&設定保育   10月下旬

イギリスにいる園長先生と採用担当の職員とのオンラインによる面接では、協力隊の経験から得たことで、幼稚園教育に生かせることについて聞かれました。設定保育とは、幼稚園の職員2人を相手に絵本の読み聞かせやカード遊びなどをする模擬保育です。大人を相手に、しかも画面越しに保育をするのは初めてのことで緊張もしましたが、とても面白い経験でした。

5.内定   11月末

内定はもらいましたが、まだ採用は正式決定ではありません。イギリスでの就労ビザを取得するために、英語検定のIELTS(International English Language Testing System)(※)スコアが必要になります。そのスコアがないとビザが取得できず、内定も取り消しになります。1月初旬が試験だったので、内定が出てから1カ月は、英語の勉強に集中しました。

採用決定、2021年4月入職

渡英の当日、空港で書類に不備が見つかり出国できずにがく然。航空券や書類の再手続きなど想像以上に大変で、忘れられない思い出になりました。

現在の仕事

武元理子さん

勤務先の全日制幼稚園では、2歳~5歳まで約70人のお子さんを預かっており、私は2歳児クラス(14人)の担任をしています。日系の幼稚園なので、日本人駐在員のお子さんが多いのですが、なかには、日本の文化や言語に興味を持って子どもを入園させる外国籍の方もいます。いろいろな国籍の子どもたちが一緒になって学び、生活することは、日本ではなかなかないことなので、私にとっても貴重な経験になっています。

後輩へメッセージ

どこに就職したらよいのか悩んだら、就職活動からちょっと離れてみるのもいいと思います。私の場合、東京2020オリンピック・パラリンピックでエジプトの柔道選手を受け入れることになっていた自治体から、市民の方向けにエジプトを知ってもらうための講演依頼を受けたことが、いい機会になりました。帰国直後は新型コロナウイルスの感染拡大もあり、海外に就職すべきか悩むこともありましたが、2年間の活動や、そこでの文化や生活を振り返ることで、次に何をしたいのか整理できた気がします。先輩隊員を頼って、いろいろと話を聞くのもお薦めです。

※IELTS…英語運用能力評価試験。海外での就職・移住の要件を満たしていることを証明する試験

Text=油科真弓 写真提供=武元理子さん

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