[特集] 令和版   隊員活動のトラブル脱出法
活動期~開花期編

1996年10月号の丹羽さんの体験記より※部分抜粋

言葉がネックになっている人に

   (前文略)

   インドネシア語の本当の意味での勉強は、早ければ早いほどあなたの活動を助けます。自腹を切ってでも、継続的に行いましょう。目指すは、「仕事上の書類を読み書きできる」、「仕事上の会議で意味が分かり、自分の意見が述べられる」の二つです。

   (中略)

   活動をするにあたって大切なのは語学ですが、さらに必要なのは技術的なパフォーマンスです。

   (中略)

   みんながもたもたとやっている時に、横からあなたがサッときれいにやってしまう。あるいは、何人かかってもどうにもならないものを、あなたが一人で簡単に仕上げてしまう。こういった技術は、あなたの実力をまわりに示すいい機会なので有効に使いましょう。

   しかし、そういう技術を乱発すると「尊敬されるエキスパート」から、「都合のいい技術者」になってしまうおそれがあるので、注意が必要です。

   (中略)

   また、活動が順調にいっていると思っていても、ある時気が付いてみれば自分はマンパワーにしかなっていない。「一体どこで技術移転を行なっているのだろう?」。この落し穴にはまっている人は大勢います。確かに「仲間と同じ仕事を一緒にやっていれば、いつかその中から自分のやり方を学んでくれるだろう」という考え方もあるでしょう。

   しかし、あなたは今までのインドネシアの仕事の流れの中に入って、ようやく仕事の内容を覚え、みんなの足を引っぱらないようになっただけで、ベテランの職員から見れば、見習い状態でしかないのではないでしょうか。

   (以下略)


マンパワーか技術移転か?
どうしてもつらいときは?

丸田:確かに丹羽さんが言うように、語学がネックになるケースはあるでしょう。正直、半年を過ぎれば、現地語は通じるようになります。ただ、それは同じ単語を使い回しているだけで、名詞も形容詞も増えない。私自身、スペイン語はしゃべれるけれど、仕事に全然つながっていないと気づいたのが1年ほどしてからです。ラジオを聴く、新聞を読む、いろいろな人と会話をするなどして、勉強をし続けないと身につきません。

前原:「自腹を切ってでも、継続的に勉強しましょう」とありますが、私はそこまではやらなくてもいいと思います。ネイティブではないので限界はありますし、ある程度までいけたらよしとしました。語学を勉強する時間があるなら、活動に力を入れたほうがいいと思います。ほかの環境教育隊員とスリランカ各地へ環境問題対策の視察に行ったのは、いい勉強になりました。

酒井:私はネパール語を話すのは得意でしたがほとんど書けませんでした。英語は読むことはできても、書くのは苦手でした。そこで、研究の報告書を書くときには、私がネパール語で話して、同僚に英語で書いてもらって、それを私が読んで確認して……という感じで進めました。

編集室:丹羽さんの記事に「技術を乱発すると『尊敬されるエキスパート』から、『都合のいい技術者』になってしまうおそれがある」とあり、マンパワーはダメという考え方もあります。どう考えますか。

下松:マンパワーの部分があってもいいと思います。私自身、舞台の大道具づくりなど、ほかの人ができないことをやっていたので、マンパワーとしても求められていると感じました。もともとものづくりは得意でしたので、相手のニーズには応えられた気がします。

前原:私は、マンパワーにならないよう、データの取り方や調査・分析の仕方などを若手に教えました。それまで感覚的に話していた若手が、会議でデータを交えて話すようになり、「数字がこうなっているからこうしたらいいと思う」と発言内容が変わったときには、うまく技術移転できたと嬉しくなりました。

編集室:同僚隊員らの活動が本格化するなかで、なかには道筋が見えなくて悩む隊員もいると思います。何かアドバイスはありますか?

前原:抱えている課題をなんとかしたいという思いは、どこの配属先にもあると思います。隊員はその問題を一緒に考えていくわけですから、うまくいかないながらも努力して、配属先とお互いに尊敬し合いながらやっていけば、何かしらの道が見えてくると思います。一方、配属先の状況が要請時とは変わっていて、「なぜ来たんだ」といった冷たい対応をされてしまうと、精神的にきついと思います。個人的には、自分がどう努力しても配属先の対応が変わらないのであれば、VC(現、企画調査員[ボランティア事業]。以下同)に相談したほうがいいと思います。

丸田:私もVC時代、要望書に基づき要請したにもかかわらず、その後の選挙で国の方針が変わり、要請元の状況が一変したことがありました。自分では解決の糸口が見つからない問題に直面したときには、早めにVCに相談することをお勧めします。安易にはできませんが、精神的におかしくなってしまうくらいなら、任地替えを含めて考える必要もあるかもしれません。

桑山:「たった2年間」と覚悟を決めて自分が配属先に合わせる方法もありますが、精神的につらいときは周囲に相談したほうがいいでしょうね。また、最近はなくなる傾向にあるようですが、私のときには隊員連絡所がありました。ここに数日間泊まって、ほかの隊員たちと話をして、気持ちをリセットしてから配属先に戻る隊員は多かったです。

丸田:真面目な人ほど思い詰めてしまうので、隊員連絡所を活用するのは手です。どうにもならないときは、VCに相談して、少しの間活動のことを忘れて、好きな本や映画でリフレッシュする時間をつくってもいいと思います。

酒井マリさん
酒井マリさん
知識や経験がなくても自分でできることを見つけて
とりあえずやってみる!
                                                                                     
酒井マリさん

Text=池田純子 Photo=ホシカワミナコ(本誌)

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