[特集] 令和版   隊員活動のトラブル脱出法
活動期~開花期編

1996年10月号の丹羽さんの体験記より※部分抜粋

JICAを利用してますか

   活動を進める上で大切なことは職場の同僚とのチームワークですが、もう一方で大切なものがJICA事務所との連携です。

   (中略)

   活動がうまく行っている時は問題はないのですが、うまく行っていない時には、職場から孤立し、事務所にも相談できず、一人で悩むことになってしまいます。

   (中略)

   こうならないためにも、事務所との連絡はまめにとっておくことです。

   生活面についての話は事務所からよく手紙や電話があるので、そうした機会を利用して、活動の表面的な話だけでなくもっと突っ込んだ話をするようにして下さい。

   勘違いしてはいけないのは、調整員はあなたの管理者ではないということです。実際にはあなたの活動がうまく行くように、関係機関との調整をとったり、機材の準備や生活面の面倒を見たりする存在です。いわば、あなたが本来の活動に全力を注ぐことができるようにするためのサポーターなのです。

   (以下略)


心強い存在のVC

編集室:VCに相談してよかったことはありますか?

下松:私がVCの力を借りたのは、現地業務費を申請したときです。劇の発表会で、会場が広くて声が届きにくかったので、ミュージカル用のマイクがほしいと相談しました。VCが実際に劇を見に来てくれて、状況を把握したうえで申請を通してくれました。

酒井:私の場合、失敗もありました。私の任期後半に、私の出身の鹿児島県が主催する日本での研修に、現地の職員のうち一人だけ送り出せることになりました。私が配属先にできる唯一のギフトだと思い、職員の能力を見比べて推薦する人を選びました。ところが、私の推薦したい人と職場の上長の推薦したい人が違ったんです。私なりにその人を推す理由を説明したものの、職場では人間関係のほうが重視され、納得してもらえませんでした。募集や受け入れの手続きをJICAが行う事業だったこともあり、VCに相談して、JICA側から私の推薦する人が研修を受けられるように働きかけてもらいました。結果、私が推薦した職員が研修に参加し、成果を出すことができたものの、円満だった職場の一部の人との関係がうまくいかなくなってしまいました。もう少しうまく立ち回って、みんなの意見を聞いたうえで私が推薦したい人を推せるように持っていければよかったと反省しました。

丸田:私もVCに相談しました。当時、妻に子どもと実家の両親を任せて協力隊に参加していました。妻は一人で子育てしながら看護師もしていたので、大変だったと思います。妻に負担をかけながら協力隊に参加したにもかかわらず、活動がうまくいかなくて。「俺は、何やっているんだろう」と落ち込みました。それが続いていたとき、見かねたVCが「奥さんを呼んでみたら」と言ってくれました。配偶者及び子女の一時呼び寄せ制度が無かった当時、妻はなんとか休みを工面して、幼子を連れて来てくれました。数日でも家族と会うことができて、ずいぶん気持ちが前向きになりました。

編集室:メールですぐにやりとりをしたり、ビデオ通話で顔を見て話をしたりといったことができない時代は、ご家族と会うことで大きな精神面のケアになったでしょうね。また、今は緊急連絡用に携帯電話が支給されていると思いますから、VCとの連絡も取りやすくなったのではないでしょうか。

前原:丹羽さんや丸田さんの時代と決定的に違うのは、この連絡手段です。今はSNSが発達しているので、直接面識がなくても、各種アプリで同じ職種の隊員やOVと知り合うこともできますし、連絡し合えます。

編集室:都道府県別や国別、職種別のOV会でも先輩隊員とつながれますし、技術顧問や技術専門委員にメールで質問することもできますね。

前原:私が帰国してからも後輩隊員から「前原さんのときはどうでしたか」といった連絡がきて、やりとりしていました。

桑山:活動や生活面で煮詰まってしまったときも、SNSを使うことで、うまく息抜きができるのではないでしょうか。

桑山昌洋さん
桑山昌洋さん
配属先の人たちはこちらが見ている以上に
こちらをよく見ています
                                                                                     
桑山昌洋さん
下松裕和さん
下松裕和さん
最初は現地のやり方を尊重し
徐々に自分の目的を見いだしていきました
                                                                                     
下松裕和さん

Text=池田純子 Photo=ホシカワミナコ(本誌)

知られざるストーリー