失敗に学ぶ
~専門家に聞きました!現地で役立つ人間関係のコツ

今月のテーマ:プライベートの保ち方

今月のお悩み

▶ホームステイ先でも子どもたちに囲まれたりして一人になれる時間が持てず、イライラが態度に出てしまうことがあります。(大洋州/女性)

   活動先でも住まいのある地域でも、日本人に友好的でいい人たちばかりですが、外国人が少ないこともあってか、常に言動を見張られていたり、好奇の目にさらされているような気がします。

   住まいがホームステイということもあって、常に気を使っているつもりですが、ホームステイ先の子どもたちがちょっかいを出してきたり、勝手に私のものを触ったりするのが気になり、ちょっときつめに叱ってしまうこともあります。活動以外の時間も心が休まらず、2年間これで持つのか心配です。

今月の教える人

 白川千尋さん
白川千尋さん
バヌアツ/マラリア風土病(感染症対策)/1990年度3次隊・東京都出身

文化人類学者。大阪大学大学院人間科学研究科教授。総合研究大学院大学文化科学研究科博士課程修了「博士(文学)」。国立民族学博物館助教授などを経て、2016年より現職。JICA海外協力隊コミュニティ開発の派遣前訓練の技術専門委員も務める。

白川先生からのアドバイス

▶外国人であることを盾に、意思表示を。
ときには任地を離れる機会を作りましょう。

    ホームステイであったり、外国人がいない地域に派遣されたりした隊員から、よく聞く悩みの一つですね。

   日本では家族と同居していても自分の部屋があることも多いでしょうから、赤の他人の家でプライベートな空間が全くない生活は、かなり息苦しいと思います。特に大洋州は壁のない伝統的な家屋に住むこともありますから、プライバシーがないこともあるでしょう。

   私のバヌアツでの協力隊時代は、一人暮らしだったのでプライバシーにそこまで悩むことはありませんでした。しかし帰国後、文化人類学者になるためにバヌアツでフィールドワークを行った際は、まさにこの問題にぶつかりました。

   電気、ガス、水道が通っていない島で、民家に同居させてもらったのですが、個室がなく、仕切りのない大部屋に10人以上が暮らしていました。大部屋にある私のベッドの周りについたてはあったのですが、それだけでは気休めにしかなりません。離れにあるトイレや水浴びに行くときにも、子どもたちがずらずらとついてきました。

   この肌の色が違う外国人は、どんな体をしているのか、どこからどんなものが出てくるのか、自分たちと同じなのか、違うのか――好奇心いっぱいの目が常に向けられていました。

   居候の身ですから、最初は皆と仲良くやっていこうと思ったものの、「これでは精神的に行き詰まって、おかしくなってしまう」と、危機感を抱きました。

   そこで、「一人になりたいからそっとしておいてほしい」と伝えたり、「勉強しているから」と、ノートを広げて近寄りがたいオーラを醸し出したりしました。意思表示をしたことで嫌な空気になることもなく、大人は理解してくれたので、伝えてよかったと思います。子どもたちも、3カ月もすれば私のいる生活に慣れて好奇心も薄れてきたように記憶しています。

   ほかの地域の隊員の例もお話しましょう。イスラム教徒の多い地域に赴任し、苦労していた隊員は複数いました。 

   外国人女性を迎えることに大変気を使い、外出時には必ず男性家族がついてくるという家庭にホームステイした女性隊員は、「ありがたいものの息が詰まる」と嘆いていました。

   お酒好きの隊員が禁酒の国に派遣された際には、一人暮らしでも近所の目を気にして、窓際から離れて家のなかでこっそり飲酒をしたそうです。お酒の空き瓶を処分するにも気を遣ったことでしょう。

    こういった場合には、外国人であることを盾にしていいと思います。「自分は外国人なので、一人になれる空間がないと生活ができない」と主張するのです。個室がなくても、少なくともトイレや水浴び時はのぞかないことを約束してもらったり、勉強や考え事をしているときには話しかけないでと伝えましょう。

   2年間活動するためには、自分を守らないといけません。いかなるときにも「にこやか」を目指さなくていいと思います。

    イライラするくらいなら、SNSで気の置けない友達とコミュニケーションを取る時間を設けてもいいでしょう。隊員総会などで首都に出る際、少し長めに滞在して気分転換を図るのもいい。首都なら外国人向けにお酒を出している店もあり、ほかの隊員とも会いやすいので、活動の情報収集や勉強会を活用し、任地を離れている間にセルフコントロールする隊員もいました。

     ひたすら我慢し、その国のすべてが嫌になって任期短縮するよりも、つらいときにはその場を離れること。自分で調整していきましょう。

Text=ホシカワミナコ(本誌) 写真提供=白川千尋さん
※質問は現役隊員やOVから聞いた活動中の悩み

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