この職種の先輩隊員に注目!   ~現場で見つけた仕事図鑑

青少年活動

  • 分類:人的資源
  • 派遣中:29人(累計:1,617人)
  • 類似職種:小学校教育、幼児教育、ソーシャルワーカー

※人数は2022年3月末現在。

CASE1

細川由衣さん
細川由衣さん
モザンビーク/2017年度3次隊・千葉県出身

PROFILE

東洋大学国際地域学部卒業後、同大大学院の「JICAボランティア派遣者用プログラム」を使って参加。協力隊派遣中の2年間と帰国後の1年間を博士前期課程で学んだのち、NGOを経て、現在、大学受験塾に勤務。


配属先:ナンプラ州モザンビーク島6月25日小学校

要請内容:6、7年生に対して実技を中心とした音楽と美術の授業の実施、校内音楽クラブの立ち上げと伝統音楽の演習・実演の支援

CASE2

清水 啓さん
清水 啓さん
ミャンマー/2017年度4次隊・埼玉県出身

PROFILE

大学卒業後、法務省矯正局に入省し、法務教官として少年院に7年間勤務。休職して協力隊に参加。帰国後は復職し、日本で犯罪を犯した受刑者の本国などへの移送事務や成人の矯正などに携わる。


配属先:マンダレー少年訓練学校

要請内容:レクリエーションの導入と充実に向けた取り組み、現地リソースを活用した充実した職業訓練の実施支援、配属先が地域を対象に実施する少年非行防止の啓発活動の内容を充実させるための支援

   子どもや若者の健全な育成と自立を支援する「青少年活動」。

   分野は、①困難を抱える青少年の生活や自立支援、②非行少年の更生・保護・社会復帰の支援、③家庭や学校(授業)では学ぶことができない体験学習、④進学や就職を有利にする知識や技術の指導、の大きく4つに分けられる。活動場所は、児童養護施設、難民キャンプ、少年鑑別所、学校、図書館、青少年活動団体などさまざまで、具体的な活動も、音楽、美術といった情操教育、心のケア、課外活動、IT教育、職業教育など多岐にわたる。

   共通して求められるのは、途上国の子どもや若者を支援したいという共感と熱意、そして、子どもや若者の心理を理解し、やる気を引き出して目標に導く力だ。

CASE1

授業科目として定着していないなかでの指導

   細川由衣さんの任地・モザンビーク島は、全長3㎞ほどの小さな島だが、約1万4000人もの島民が生活している。島内に3校ある小学校の一つが細川さんの配属先だ。細川さんはこの学校3代目の隊員で、要請は6、7年生の音楽と美術の授業などを行うことだった。

ソーラン節やエイサーなど日本の踊りを指導した「日本ダンス」クラブの生徒たちと細川さん。

ソーラン節やエイサーなど日本の踊りを指導した「日本ダンス」クラブの生徒たちと細川さん。お祭りや島のイベントなどで毎月のように踊ることが生徒たちの楽しみになっていた

「しかし、赴任してみると「体育の授業も行いたいが、教えられる教員がいないから、あなたが受け持って」と頼まれ、体育も担当することになった。

   生徒は6年生が36人、7年生は52人もおり、一人で大勢を相手に、慣れないポルトガル語を使って初めて体育の授業をすることにしばらく苦労したが、細川さんが特に苦労したのは、音楽の授業コントロールだった。屋外で行う体育は生徒が大声を出してもあまり問題にはならず、美術は生徒が絵や工作に夢中で取り組んでくれた。しかし、音楽の授業では、歌を歌ってもバラバラになったり、勝手に歌いだしたり、机をたたいたり。生徒たちを静かにさせるだけで授業時間が終わったり、あまりのうるささにたまりかねたほかのクラスの教員が、注意をしに教室に入ってくることもあった。「子どもの頃からピアノを習い、学生時代は図工や日本語を教えるボランティアをしていたので、問題なく授業ができると思っていたのですが……」。音楽の授業の受け方を知らない生徒たちの指導に苦戦を強いられた。

   しかし、転機は派遣5カ月を過ぎた頃に訪れた。教員養成学校で教える音楽隊員やモザンビーク人の音楽教師の授業を見る機会が得られ、生徒のやる気を高める方法を教わることができたのだ。

「生徒が注目してくれる現地のマクア語の言葉や歌、生徒一人ひとりが歌いながらリレーするゲームと、それらを授業のどの段階で使えば効果的なのかを学びました。自分の授業に取り入れると、初めてきちんと授業を進められている実感を持てました。生徒も授業を楽しみにしてくれるようになっていきました」

   マクア語でもコミュニケーションできるようになると、生徒の理解度に配慮しながら授業を円滑に進められるようになった。授業以外にも、先輩隊員が教えていたソーラン節を中心とした「日本ダンス」クラブに加え、新たに「ピアニカ」、「日本語」クラブも立ち上げて指導を行った。こうした努力の甲斐あって、島のコミュティに溶け込むことができ、2年の活動を終えた。

CASE2

訓練校の子どもたちへ~心を育て、社会復帰を目指す

   清水啓さんの配属先は、犯罪を犯し裁判の判決を待つ少年、ストリートチルドレンなど、多種多様な18歳までの少年を収容するミャンマーの少年訓練学校だ。清水さんが赴任した時点で、定員200名の施設に約330名の少年が収容されていた。

「定員オーバーの少年たちの数に対して、職員はたったの22人。教育活動を充実させるという要請内容以前に、少年たちを収容するだけで精いっぱいという過酷な状況でした。教育活動も行われず、ほとんどの少年たちは一日中暇で、部屋のなかにいて、食事以外の時間はボーッとしていました」

少年たちとセメントをこねる作業をする清水さん

少年たちとセメントをこねる作業をする清水さん

   日本の少年院で働いていた清水さんは、超過勤務の多いほかの職員に負担をかけないよう、一人で行える教育活動に取り組むことにした。毎日行ったのは体育で、筋力トレーニングやサッカーなどを指導した。

「外に出られないため、足腰が弱っている少年もいました。ケンカも絶えないため、少年たちの健康状態の改善とストレス発散を兼ねたのです」

   さらに、老朽化した校舎を少年たち自身でセメントやペンキを使って補修する作業も指導した。「少年たちの生活環境を良くするために行いましたが、建築現場などで働いた経験のある子が得意げに作業してくれたりして、やってよかったことの一つです」

「小さなハートプロジェクト」を通じて、埼玉県協力隊を育てる会、全国電力関連産業労働組合総連合から寄付を受け、設置できた浄水器

「小さなハートプロジェクト※」を通じて、埼玉県協力隊を育てる会、全国電力関連産業労働組合総連合から寄付を受け、設置できた浄水器

   そんなとき、校長から相談されたのが新しい浄水器の設置だった。既存のものでは量が追いつかず、近くの王宮のお堀からくんだ水を煮沸もせずに飲み水に使っていたことから、下痢をする少年が多かったためだ。

   そこで清水さんは「小さなハートプロジェクト※」で資金を調達し、浄水器設置を進めた。また学校や業者と相談し、建設工事には少年たちに協力してもらうことにした。「土台の建設だけで半月かかると思っていたのですが、少年たちのおかげで、2週間ほどで設置小屋も完成し浄水器が使えるまでになりました」

   ところが、浄水器が完成した頃にはミャンマーで法改正があり、訓練学校の収容人数は520人にふくれあがってしまった。新しい浄水器で賄えたのは収容人数の半分ほどだった。しかし、清水さんは言う。「浄水器の設置をきっかけに、マンダレー市の予算でもう一基が建設されることになりました。まだまだ環境は良いとはいえませんが、政府や学校に少しでも変化をもたらすことができてよかったと思います。おなかを壊したり、病気になる子どもの数が減っていったらいいなと思います」。

活動の基本

子どもや若者が抱える課題の背景を知り、やる気を引き出し目標に導いていく

※「小さなハートプロジェクト」……(一社)協力隊を育てる会による、活動中の協力隊員と日本の支援者の方々をつなぎ、協力隊員の「地域貢献」を支援する募集型支援金プロジェクト

Text=工藤美和 写真提供=細川由衣さん、清水 啓さん

知られざるストーリー