失敗に学ぶ
~専門家に聞きました!現地で役立つ人間関係のコツ

今月のテーマ:物をねだられたときの対応

今月のお悩み

▶活動地域の子どもたちに会うと駆け寄って来て「お菓子をちょうだい」とねだられます。
毎日はあげられないので、いい断り方はありませんか。(青少年活動/女性)

   地域の小学校を巡回して活動しています。どの町・村の人々も優しく、温かく迎えてくれるので差別を受けるといった嫌な思いをしたことはありません。ただし、外国人はお金持ちといった感覚があり、子どもたちが駆け寄って来て、笑顔でお菓子や物をねだられることが多々あります。

   どの子もおなかをすかしているのはわかるのであげたい気持ちはあるものの、毎日全員にあげることはできません。上手な断り方や逃げ方など、いい対処法があれば教えてください。

今月の教える人

 太田美帆さん
太田美帆さん
ガーナ/村落開発普及員/1996年度1次隊・茨城県出身

JICA国際協力専門員(農村開発分野)。玉川大学リベラルアーツ学部教授。2021年度までコミュニティ開発職種の技術顧問。世界各国の農村でお母さんを元気にする生活改善活動に携わる。共著書『世界に広がる農村生活改善:日本から中国・アフリカ・中南米へ』(晃洋書房)、共訳書『貧しい人を助ける理由』(日本評論社)など。

太田先生からのアドバイス

▶物以外で、あなたがあげられるモノはありませんか?
掛け合いのコミュニケーションと捉えて楽しんでみましょう。

   すごくよくわかります! 任地で物をねだられるのは日常茶飯事ですよね。私も村落開発普及員(現コミュニティ開発)としてガーナのガ族の村に赴任したばかりの頃はこれにうんざりしていました。   

   ガ語では大人同士でも、「こんにちは」などの挨拶に続いて、「で、今日あなたは何を持ってきたの?」と必ず聞かれたからです。子どもたちに至っては、一度キャンディをあげたら最後、次から顔を見るなり「キャンディちょうだい!」と囲まれ、いつの間にか私のあだ名は「キャンディ」になっていました。

「対等な関係になりたいのに、物をあげないと仲良くしてもらえないのか」と悩みましたし、「支援慣れをしていて、大人まで私が物を配って当然と思っている。それにしても顔を見るなり『何を持ってきたの?』はないんじゃないか」と苦々しくも感じていました。「キャンディ」と寄ってくる子どもたちに、「私はキャンディじゃない。美帆よ!」と追い返したりと、イライラが募っていました。

   ところが、そんな私の上から目線の思いを覆す出来事が起こったのです。

   ある日、いつも「キャンディ」と言ってくる女の子が、たまたまキャンディを一つだけ手にしているのに気づきました。そこでその日は私から「ちょうだい」と手を出してみたのです。

   どんな反応をするだろう、それくらいの軽い気持ちでした。でも、言われた女の子は真剣に悩み始めました。そして顔を上げると、キャンディを自分の口に放り込んだのです。

   そして次の瞬間、女の子は半分に割ったキャンディを口から出し、私に差し出しました。

   女の子が悩んでいたのは、どうしたら独り占めできるかではなく、どうやったら分けられるかだった――。子どもでさえ、持っていない相手と分かち合う行動をすると知り、衝撃を受けました。イライラしていた自分に恥じ入り、反省しました。

   この一件から、改めて人々を観察したところ、ガーナの人たちは分け合い助け合いの精神を当たり前に持っていることや、「今日は何を持ってきたの?」は、地元の人同士でも一般的に使われている単なる挨拶言葉だと気づきました。

   ガーナでは、会話によるコミュニケーションを大事にする文化があります。知り合いを見つけたとき、急いでいても、遠くから手を振って通り過ぎるような行為は許されません。「なぜここまで来て話していかないの?」と叱られます。だから、出会った人に期待する「今日持ってきたモノ」とは、形ある物に限らず、会話の「タネ」でよく、ある意味、そうした会話の掛け合いを楽しんでいたのです。

   例えば、「市場でトマトがこの値段で売っていたよ。お母さんはいくらで売ったの?」とか、「ラジオの天気予報で、来週は雨が降るって言ってたよ」といった実用的な情報から、「昨日こんな面白いことがあってね」といったくだけた話まで、どんな「タネ」でも盛り上がります。

   村の人々は物への期待以上に、私とのコミュニケーションを楽しもうとしていたのです。お菓子をねだる子どもたちにも、「キャンディはないけど、これをやって遊ぼう」とか、「一緒に歌おう」と言えば、大喜びでさらに多くの子が寄ってきました。彼らも私と仲良くなるきっかけを探していたんです。

   以降、手ぶらでも臆せず地域に入り、会話を積極的に楽しめるようになり、村人から多くを学びました。皆さんも物をねだられたときは、物以外で何が提供できるかを考えてみてはどうでしょう? きっと仲良くなるチャンスですよ。

Text=ホシカワミナコ(本誌) 写真提供=太田美帆さん
※質問は現役隊員やOVから聞いた活動中の悩み

知られざるストーリー