この職種の先輩隊員に注目!   ~現場で見つけた仕事図鑑

野菜栽培

  • 分類:農林水産
  • 派遣中:4人(累計:1,594人)
  • 類似職種:食用作物・稲作栽培、花卉栽培、病虫害対策、土壌肥料など

※人数は2022年4月末現在。

CASE1

立崎安寿香さん
立崎安寿香さん
インドネシア/2017年度2次隊・青森県出身

PROFILE
大学で開発学を学び、途上国の農業に関心を持つ。留学を機にインドネシアと関わる仕事がしたいと考え、農業でインドネシアでの地域発展を目指す株式会社農園たやに就職。現職参加制度で協力隊に参加。

配属先:タンジュンサリ農業高校

要請内容:農業高校で日本の野菜の栽培技術指導、生産管理方法のアドバイス、学生の実技授業を行うための栽培歴に合わせた圃場管理方法のアドバイス

CASE2

木村純平さん
木村純平さん
コロンビア/2016年度1次隊・群馬県出身

PROFILE
大学、大学院でミミズなどの土壌生態系を生かした土壌改良を研究。帰国後、大学の研究員を経て、現在はアウトドア企業に勤務。環境・社会部門の担当者として、環境再生型の食と農業の事業に携わっている。

配属先:NGOコンプロミソ

要請内容:地域に適した野菜の選定と適切な栽培方法の指導。ミミズコンポストなど堆肥の作り方、野菜の採種方法などを、NGO職員に対して助言

「野菜栽培」の職種の要請内容は多岐にわたる。農家や農業高校、職業訓練校の生徒に対する実習指導、学校や医療施設における家庭菜園での技術指導など、栽培技術を直接指導する活動のほか、研究機関での育種・品種改良の支援、病害虫対策、土壌改善、環境循環型農業や有機農業の普及、さらに、所得向上につながる農家の経営支援、栄養改善や料理法の普及活動などの要請もある。

CASE1

農業高校の講師として日本の農業を伝える

クラブ活動の昼休み。バナナの葉っぱの上にご飯とおかずを広げて、生徒たちと一緒に昼食を取る(立崎さん提供)

クラブ活動の昼休み。バナナの葉っぱの上にご飯とおかずを広げて、生徒たちと一緒に昼食を取る(立崎さん提供)

   学生時代に留学した経験から、インドネシアに関わる仕事をしたいと考えた立崎安寿香さんは、福井県の株式会社農園たやに就職した。代表の田谷 徹さんは青年海外協力隊員としてインドネシアで活動した経験(食用作物・稲作/1997年度2次隊)を持ち、2008年から農園たやではタンジュンサリ農業高校の卒業生を農業支援プログラムの実習生として受け入れていた。同社で約2年、野菜の栽培や販売の経験を積んだ立崎さんは、現職参加制度を利用して、タンジュンサリ農業高校に赴任した。要請は日本の野菜の栽培技術指導だったが、最初の半年間は授業や校内活動を見学し、農業高校で自分が生徒たちに何を伝えられるかを考えた。

「授業を見学していると、生徒たちは、日本では機械化が進んだ先進的な農業を行っているという憧れを抱いているように感じました。インドネシアでは圃場に入るための道が整備されていませんから、農業機械があっても、うまくいかないこともあります。私はまずは生徒たちが自国の農業を理解したうえで、日本の農業と比較し、自分たちにあった農業のやり方を選択することが重要だと考えました」

   同校は、日本の詰め込み式の授業と違い、生徒に考えさせる授業を行っていたことから、授業では両国の農業の違いを、パワーポイントなどを使い視覚的に説明し、生徒に自国の農業を考えてもらうように工夫した。

授業で日本の農業や簡単な日本語について説明する立崎さん

授業で日本の農業や簡単な日本語について説明する立崎さん

   授業とは別に、生徒が自主的に栽培や販売を行っている「野菜クラブ」に参加し、生徒たちと一緒に日本野菜の栽培にも取り組んだ。インドネシアでは日本食ブームの高まりで日本野菜への需要が高まっており、生徒たちの関心も高かったからだ。しかし、環境の整った日本と違い、インドネシアでは1年の半分は乾季であり、肥料は鶏ふんや牛ふんが中心だった。自分の経験や知識は役に立たないと判断した立崎さんは、現地の農業を熟知する実習担当の先生に声をかけ、共に技術的な指導に当たってもらうことにした。

「ナスやキュウリなどの一年生作物の場合、雨季と乾季のあるインドネシアで栽培できるのは年に1度程度です。2年という任期を有効活用するためには、自分ひとりでなんとかしようとするのではなく専門家などとのつながりをつくり、一緒に考え行動していくことが大切だと感じました」

   現在、農園たやで受け入れている実習生には、当時の教え子もいる。

「農業、野菜栽培を通じて、インドネシアを担う人材を育てたい」

   野菜栽培隊員としての立崎さんの活動は、今も続いている。

CASE2

ミミズの力も活用し農地の土壌改良に貢献

   ミミズという、健全な土壌に重要な働きをする生物の機能に興味を持ち、大学・大学院でミミズに関連する研究に取り組んできた木村純平さん。ミミズコンポストを含めた堆肥作りの知識を持つ野菜栽培隊員の募集を知り、大学院修了後、協力隊に参加した。

   配属先は、コロンビアで農家の自立のため農業・環境・人権に関わるプロジェクトを実施している地元のNGO。農業プロジェクトでは、9農村を対象に自給率の向上や収入の安定、栄養改善を目的とした栽培指導を行っていた。木村さんへの要請内容は、同プロジェクトのメンバーとして農家への技術指導をすると共に、同僚となるNGO職員に助言を行うことだった。

いくつもの村から有志が集まり、木村さんたちが作ったデモ農場を視察する

いくつもの村から有志が集まり、木村さんたちが作ったデモ農場を視察する

   最初の9カ月間は、現状を把握するために農村を巡回し、土壌が流亡しやすい中山間地域で傾斜地に適した土地管理がなされているか、現地農家の技術や工夫、その意図を見て学んだ。同僚に自分がどんな視点で農村を観察しているのか知ってもらうため、写真つきの文書にまとめて共有もした。

   その後、自らの活動を、傾斜農地の管理とミミズコンポストに絞り、行動を開始した。農地の管理では、農家の協力を仰ぎ三つのデモ農場を作り、農家と共に畝立てを行い土壌の流亡を防ぐ段々畑を作り、有機物で覆う土壌作りを行った。従来管理の農地との違いを比較するため、隣同士で示すようにした。ミミズコンポストについては、農村巡回の際にワークショップを開催し、家庭の生ごみや家畜のふんなどを利用した堆肥作りを紹介した。興味を持った農家には堆肥用ミミズを渡し堆肥作りをしてもらい、その後の経過も記録した。「うまく説明して、メリットを納得してもらうことが大切です。作物の生育の違いが明らかになってくるとわずかながらも主体的に畝立てやミミズコンポストを導入する農家も現れ始めました。自分の活動が彼らにとって一つのきっかけになったのは、私自身にとっても嬉しいことでした」

   また、「野菜を育てても、もともと野菜を食べる習慣の少ない現地の人たちに、サラダを食べていたら〝ウサギの餌のようだ〟と言われたこともありました。栽培指導で終わらせず、収穫した野菜にオリーブオイルや塩をかけて簡単においしく食べられる工夫やレシピの普及を手がけることも、野菜栽培隊員の大切な仕事だと感じました」

活動の基本

野菜作りへの関心をどう高めていくか
技術以外のアプローチも重要

Text=油科真弓 写真提供=立崎安寿香さん、木村純平さん

知られざるストーリー