[特集] 活動時のお悩み解消
課題別支援LinkedInグループ徹底解剖

2020年3月、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、協力隊員の一斉帰国が行われた。その後、再派遣を遂げた隊員や新規派遣される隊員は増えているものの、派遣国で現役の先輩隊員がいないケースは少なくない。感染症対策をしながらの活動が、思いも寄らない壁になることもあるだろう。そうした問題を解決すべく、青年海外協力隊事務局の課題業務・選考課が始めたのがLinkedIn(リンクトイン)だ。どんな取り組みで、どう活用すればいいのかを紹介する。

JICA海外協力隊の職種別リンクトイングループとは?

昨今のデジタルツールの導入やオンライン化を契機に、派遣前・中・後の隊員らがシームレスにつながる課題別支援LinkedInグループが立ち上がっている。設立に携わった青年海外協力隊事務局(以下、協力隊事務局)の澤田純子さんに聞いた。

小柳耕平さん
澤田純子さん
青年海外協力隊事務局 課題業務・選考課 課長補佐

PROFILE
さわだ・じゅんこ● 1994年4月に国際協力機構入構。JICAメキシコ事務所勤務、デジタルトランスフォーメーションタスクなどを経て現職。

   新型コロナウイルス感染症の影響で、JICAのデジタルトランスフォーメーション(※DX)の動きが加速し、世界約100拠点の関係者が円滑に仕事を進めるためのコミュニケーションツールの一つとしてLinkedIn(以下、リンクトイン)が導入されました。リンクトインは世界中で7.5億人以上に利用されている世界最大のビジネス特化型のSNSで、実名登録で学歴やキャリア情報などを開示するため、ほかのSNSに比べて投稿される情報の正確性が高いといわれています。JICAでは、開発途上国の人材を育てるJICA長期研修員や起業家支援のネットワークづくりでリンクトインを活用してきました。協力隊事務局もコロナ禍で派遣前研修の見直しを迫られるなか、2021年4月からリンクトインの運用を開始しました。

   協力隊事務局が運営する課題別支援LinkedInグループの特徴は、協力隊の職種ごとにグループが構成されている点にあり、「課題別支援グループ」と呼んでいます。人数の多い職種を中心に16グループがあり、投稿内容は活動先の状況報告や言語・文化・習慣の情報共有などさまざまです。21年1次隊から本格導入し、新隊員すべてに案内を出しています。22年5月現在、リンクトイン参加者は508人。派遣前・中隊員の6割以上が参加し、帰国した隊員(以下、OV)や技術顧問などもメンバーです。グループを管理する協力隊事務局からの情報発信だけでなく、座談会や自主的な勉強会を開催し、各職種ならではの情報交換や悩み相談のツールとしても活用されています。

   従来、派遣前には課題別派遣前訓練(旧技術補完研修、必要な場合のみ)と70日間の青年海外協力隊訓練所での訓練がありましたが、コロナ禍でオンデマンド型の自己学習と集合型の支援講座の二本柱に切り替えました。対面で議論しながら派遣先で必要な知識やノウハウを知る時間が減ってしまいましたが、それを補完する機能としても役割が期待できます。同じ職種の隊員が国や地域、隊次を超えて情報を共有し、現場での活動に生かすことが可能になっています。

   コロナ禍で予定どおりの赴任がかなわず待機中の隊員、一時帰国して再赴任待ちの隊員、赴任中の隊員、そして任期を終えて帰国した隊員など多様な属性の隊員がいます。皆が有機的につながることで、派遣中の課題解決だけでなく、派遣前の情報収集や帰国後のキャリア形成の実現をサポートします。将来的には、協力隊員の〝タレント名鑑〟をつくり、コアな人材の発掘・育成にもつなげたいと考えています。

   グループの運用を始めて1年。まだ試行錯誤の最中ですが、派遣先で孤独を感じながら活動していた隊員が同じ悩みを持つ隊員と話したり、OVや技術顧問からアドバイスをもらったりしながら、派遣先での人間関係や活動が好転するきっかけになった事例も増えています。協力隊の職種は9部門190種類以上に上りますので、15職種以外の隊員も入れる「なんでも職種」のグループもあります。まだ参加していない現役隊員の皆さんにぜひ参加してほしいと思います。また、国内外で活躍するOVの皆さんも、それぞれの知見をシェアする場として活用してほしいと思います。

※デジタルトランスフォーメーション(DX)…デジタル技術を活用することで社会や生活をよい方向に変化させること。

リンクトイングループ

課題別支援Linkedlnグループ

現在稼働している16グループの担当者(青年海外協力隊事務局 課題業務・選考課)に、各グループの特色や、グループ内で紹介された書籍や教材の一部を紹介してもらった。(登録人数はいずれも2022年5月時点)

リンクトイングループ
リンクトイングループ
リンクトイングループ
リンクトイングループ

こんな相談がありました!

職種別のグループだからこそ、活動上の悩みを投稿したり、オンライン座談会で話したりすると、複数の参加者から具体的に意見やアドバイスがもらえるといった利点がある。今までに技術顧問やOV、現役隊員が答えて解決した事例を教えてもらった。

事例 1 :看護系

カンボジアに派遣中の隊員が、派遣先の手術後のストーマ(排泄口)ケアの課題を共有。「今あるものでできる最善のケアや知識を提供したい」という投稿に対し、技術顧問や技術専門委員から詳細なアドバイスがあった。

事例 2 :コミュニティ開発

赴任して半年経過した隊員が「酒の商品化を手伝っているが、ふたがないという問題に直面している。何かいいアイデアはないか?」と投稿。OV含めさまざまな人が多様な角度からアイデアを出し、活動の参考になった。

事例 3 :環境教育

ケニア派遣中隊員が、「200名の生徒の前で10分講義せよと言われて困っている」と座談会で悩みを共有。OVから環境教育の捉え方やワークショップの計画の方法、テクニックなど多様なアイデアが出た。派遣前隊員からも「活動のイメージが持てた」「早く大勢の前で話したい」などの声が聞かれた。

事例 4 :日本語教育

かるた大会などの活動報告、ツールを使った課題添削の方法の紹介、国を超えた学習者間の交流会の呼びかけなどの投稿により、お互いに活動のヒントや必要な情報を得ている。

事例 5:体育・スポーツ

オンライン座談会で、OVがファシリテーターとなり、それぞれの悩みをほかの人がポジティブな言葉に変換するワーク、本当にやりたいことは何かを考えるワークをやった。参加者からは前向きな気持ちになれたという感想が聞かれた。

Text=新海美保 写真提供=ご協力いただいた各位

知られざるストーリー