失敗に学ぶ
~専門家に聞きました!現地で役立つ人間関係のコツ

今月のテーマ:前任者と比較されたら

今月のお悩み

▶私より技術も経験もあり、語学に長けていた前任者と比較されます。
(農林水産分野/アジア地域/女性)

   私より社会人経験が長く、技術力があり、活動先の仲間から頼りにされていた前任者。語学力にも長けており、最初からコミュニケーションも取れていて、職場の仲間からは尊敬され、プライベートでも人気者だったようです。

   慣れない生活で自分の活動に自信が持てない日々が続くなか、「前任者の〇〇さんはこれをしてくれた。あなたはできないの?」と言われたり、「何を話しているかわからない」とあからさまに見下されたりして、落ち込みます。

今月の教える人

 太田美帆さん
太田美帆さん
ガーナ/村落開発普及員/1996年度1次隊・茨城県出身

JICA国際協力専門員(農村開発分野)。玉川大学リベラルアーツ学部教授。2021年度までコミュニティ開発職種の技術顧問。世界各国の農村でお母さんを元気にする生活改善活動に携わる。共著書『世界に広がる農村生活改善:日本から中国・アフリカ・中南米へ』(晃洋書房)、共訳書『貧しい人を助ける理由』(日本評論社)など。

太田先生からのアドバイス

▶行動範囲を広げ、
ありのままの自分を見てくれる人を味方につけましょう。

   前任者との比較でしか自分を見てもらえないのは、つらいですね。私自身も隊員時代は「前任者の亡霊」に悩まされました。

   私の派遣は前任者のAさんが帰国した1年後で、村にはAさんにあやかって名付けられた赤ちゃんが数人いましたから、Aさんが村に溶け込み愛されていたことは、着任してすぐにわかりました。村の人々から「Aはこうだった」と、Aさんの武勇伝を何度も聞かされ、一挙手一投足すべて比べられました。

   今回の相談への、私からのアドバイスは二つです。

   まず、前任者の人気の理由を分析しましょう。理由があなたが納得できる、よいことであれば、それをまねしてみては。語学力は努力あるのみですが、自分ではどうにもならない技術力や経験面であれば、「私にはできないから一緒にやろう、教えてほしい」と協力を求めればいいと思います。隊員にとって大事なのは「教える、指導する」姿勢よりも、相手から学び、共に成長しようとする姿勢だと思うのです。

   私の場合、前任者が人気だったのは村人を先導して活動を主導するタイプだったからのようでした。率先して何でもやってくれるので、村人にとってはありがたい存在です。事業費も三つの団体から確保し、活動を軌道に乗せて、誰からも感謝されていました。でもAさんの任期終了後、すべてのプロジェクトは止まったまま。村人も配属先も「続きはAの後任がやる。自分たちがやることではない」と思っていたようで、私の着任までの1年間で状況は後退すらしていました。

   みんなが大好きなAさんの活動を、なぜ誰も引き継がなかったのか。私はAさんのやり方では村人や配属先のオーナーシップが育たなかったと分析し、いずれ帰国する隊員が、活動の主役になってはいけないと痛感しました。そこで村人や配属先を主役に、「これからは一緒にやっていこう」と誘い、自分は裏方に徹しました。ところが何度伝えてもわかってもらえないばかりか、「いつまでたってもミホはやってくれないんだね」と失望される始末。真意を理解してもらえず、悩みました。

「前任者の亡霊」から逃れたかった私は、行動範囲を広げました。これが私からの二つ目のアドバイスです。

   私は配属先以外の団体や、活動と直接関係ない人とも積極的に話し、前任者を知らない人との交流を深めました。そうしてようやく、前任者との比較ではなく、ありのままの私を見てくれる人ができ、私の活動方針に共感してくれる人が味方についてくれ、生きた心地がしました。

   電気も電話もなかった任地では、日々のイライラや憤りも、現地語で説明しなければなりません。でも今思えば日本語を使わないその環境がとてもよかったと思います。

   村には他村から来た学校の先生や普及員、ヘルスワーカー、他部族の人たちもいて、彼らの客観的な意見はとても役立ちました。語学力が向上しただけでなく、忍耐強く私の話を聞いて慰めてくれる味方がたくさんできました。現地語でうまく説明できずもどかしい気持ちでいるときにも、「ミホ、泣いてもいいのよ」と抱きしめてくれる友人もできました。

   ネット回線の普及から、今は悩み事を隊員同士や日本の友人、家族に相談することが多いかもしれません。それも否定はしませんが、私のお薦めは、悩みは現地の人に話して現地の人々の考え方から学ぶことです。周囲の意見を取り入れて活動していくうちに、活動が軌道に乗るだけでなく、一生涯の友情も築けるかもしれません。

Text=ホシカワミナコ(本誌) 写真提供=太田美帆さん
※質問は現役隊員やOVから聞いた活動中の悩み

知られざるストーリー