派遣から始まる未来
~進学、非営利団体入職や起業の道を選んだ先輩隊員

YAMBI CONNECT LTD. 代表
株式会社マキノハラボ 代表取締役

浅野拳史さん
浅野拳史さん
ルワンダ/理科教育/2015年度1次隊・静岡県出身





ルワンダと日本で2つの企業の代表に

「協力隊時代に培った語学力と人脈を生かし、日本とアフリカを結ぶ観光業に挑戦しよう」。協力隊の活動を終えた2017年、浅野拳史さんは任地のルワンダでYAMBI CONNECT社(以下、ヤンビー社)を設立した。

YAMBI CONNECT社がコーディネートした「高校生スタディツアー」で日本の高校生とルワンダの生徒や子どもたちが交流を深めた

YAMBI CONNECT社がコーディネートした「高校生スタディツアー」で日本の高校生とルワンダの生徒や子どもたちが交流を深めた

   学生時代に世界を回り、多文化に触れることで自身の考え方や価値観が広がる経験をした浅野さん。「アフリカの子どもたちの将来の選択肢や価値観を広げる機会をつくりたい」という思いから協力隊に参加した。現地の小中高一貫校の中学校で理科教員として授業を受け持つだけでなく、「教え子たちに多文化交流の機会を」と考え、国際交流に積極的な日本の学校を探し出し、オンラインで生徒主体の交流も続けた。自身でもルワンダ語の勉強を重ね、現地の教育関係者にとどまらず、職種に関係のない行政や農業関係者、ルワンダに関わる日本のビジネスパーソンらとも積極的に交流した結果、通訳を頼まれるなど、隊員時代から幅広い太い人脈が出来上がっていた。

マキノハラボの社員のみなさん

マキノハラボの社員のみなさん

   結果、協力隊の任期が終わる頃には「一緒にルワンダを盛り上げるビジネスをしよう」とルワンダの友人を誘い、ヤンビー社の誕生に至った。国際交流を目的とした日本の生徒や学生、ルワンダで事業を検討している日本のビジネスパーソンなどに対し、ニーズに合わせたツアーをコーディネートし、ガイドを行うほか、ルワンダで日本語教室も行っている。

   ルワンダに居住してヤンビー社を運営していた浅野さんだったが、21年、日本の企業「マキノハラボ」の代表も務めることになった。「ヤンビー社を設立してから、ある日本人の研究者からの依頼で、IoT機器を活用したルワンダの土壌の観測調査に参画し、気象センターなどを導入しました。一方で、その研究者が静岡県牧之原市にあるマキノハラボで茶農家に向け、IoT機器を活用したスマート農業の事業も並行して行うということで、数年前から社員としてマキノハラボで働いていました。そして21年度から同社の代表を務めることになりました」。

「カタショー」を拠点に交流や地域づくりが広がっている

「カタショー」を拠点に交流や地域づくりが広がっている

   マキノハラボは廃校となった旧片浜小学校を活用した「カタショー・ワンラボ」を拠点に、地域創生と「新たな教育・人づくり・まちづくり」に挑戦する企業だ。メンバーは地域活性や交流促進に思いを持つ地域の人材で、現在は10人ほどの職員が活躍している。

   主な事業は、①施設活用(活動拠点やオフィスの貸し出し)、②スマート農業、③旧校舎を活用した宿泊・飲食事業、④教育、⑤まちづくり、と幅広い。このなかで浅野さんが主に担当してきたのが、②のスマート農業で、ICTやロボット技術などを活用して農作業の効率化や生産品の品質管理の最適化を図る。例えば、地域の基幹産業である茶の生産者、民間企業、研究機関、行政を構成員とした共同事業体で行う、有機抹茶の輸出拡大に向けた実証事業だ。マキノハラボは代表機関として企画・調整・運用を担う。

「よく取材を受けるのは、旧校舎を活用した宿泊・飲食事業です。『遊んで泊まれる小学校カタショー』と打ち出し、大人には懐かしい学校給食メニューを提供したり、体育館や天然芝のグラウンドを使ったスポーツやレジャーが楽しめる場を提供しています。今年度は新たにキャンプ事業も開始します」。文化活動やスポーツを通じた国際交流も積極的に推進している。

協力隊時代。生徒が自ら参加し、体験しながら物理学を理解できるよう、工夫して実験を行った

協力隊時代。生徒が自ら参加し、体験しながら物理学を理解できるよう、工夫して実験を行った

「人づくりや関係づくりには協力隊での経験が役立っています。相手の立場に立って考える。そのために時間を共にする。誘われたら断らない。いろんな人たちを巻き込むことを大切にしています」。地域の人のつながりが広がっていると浅野さんは感じている。

   22年、浅野さんは2社の経営を担うと共に東京農業大学大学院でスマート農業の研究を開始した。「世界中の農家の役に立つような研究を進め、牧之原にもルワンダにも技術を導入できるよう、つなげていきたい」。

   今後、マキノハラボは日本国内の廃校活用のモデルとなるべく、地域産業のさらなる活性化を目指す。一方、ヤンビー社は、日本で培った知見や技術をルワンダの農家の人たちに還元し、日本とルワンダをより近づける事業を展開していく。ビジネスを通して人や文化をつなげ、互いにWin-Winの関係が築ける社会へ。挑戦は続く。

浅野さんの歩み

2015年、大学卒業後に協力隊に参加する。

「学生時代に世界一周し、東アフリカの文化が自分に合っていると感じました。アフリカの子どもたちの将来の選択肢や価値観が広がる機会をつくりたいと考え、理科教育職種を選びました」

ルワンダのキガリ市の中学校で1年生から3年生の理科教育を担当する。

「現地では教員が板書した内容を生徒が書き写す授業が基本でした。そこで私の授業では理科の実験を行い、教科書の内容を実感できるよう心がけました」

2017年にルワンダでヤンビー社を起業する。

「ルワンダで培った人脈を生かし、思い切って起業しました」

ヤンビー社を運営する傍ら、ルワンダでのICT技術の実証に携わる。

2019年、マキノハラボに参画する。

「スマート農業などの知見をルワンダに還元できるのではないかと考え、日本とルワンダの2拠点で事業をしていくことを決めました」

2022年、引き続き2社の経営を担うと共に、東京農業大学大学院でスマート農業の研究に取り組む。

「ICTを活用した農業をルワンダに広めたいと考えました。マキノハラボで得た経験をヤンビー社でも生かして、日本とルワンダをより近づけるような観光業も展開していきたいです」

Text=久保田裕之 写真提供=浅野拳史さん

知られざるストーリー