[特集]JICA健康管理室が監修
派遣国の病気・ケガ対策

気候も住環境も文化も日本とは違う派遣国では、2年間を心身共に健康を保つことも難しい。先輩隊員はどんな病気やケガが多かったのか、予防策はあるのか、JICA本部の健康管理室と在外健康管理員の方々、在外拠点の方々の協力のもと、情報を集めた。

JICA健康管理室担当者インタビュー
「コロナ禍で在外健康管理員を増やし対策も強化中です」

田那村雅子さん
田那村雅子さん

PROFILE
たなむらまさこ● 総合内科専門医、禁煙専門医、認定産業医。田那村内科小児科医院勤務。研修医時代にUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が行うキャンプ・サダコに参加。2002年よりJICA健康管理室に勤務(非常勤)し、隊員などの健康管理業務に携わる。

池田陽子さん
池田陽子さん
ベトナム/看護師/2004年度3次隊

PROFILE
いけだようこ● JICA人事部健康管理室総括。看護師。新生児看護に従事したのち、協力隊に参加。短期語学留学を経て、JICA勤務。在外健康管理員として、モンゴル・ザンビア・カンボジアへ派遣される。2018年より海外班総括として専門家や隊員の健康管理を担当。

日髙知恵さん
日髙知恵さん
ボリビア/看護師/2002年度3次隊

PROFILE
ひだかちえ● JICA人事部健康管理室副総括。看護師。8年間内科・循環器・緩和ケア・訪問看護に従事したのち、協力隊に参加。JICA勤務後は在外健康管理員として、ボリビア・パラグアイへ派遣される。2020年よりJICA健康管理室にて専門家や隊員の健康管理を担当。

   気候風土も日本とは異なり、医療・衛生事情も良好とはいえない。そんな開発途上国で働くJICA海外協力隊(以下、協力隊)の隊員にとって、心身の健康は重要なテーマの一つ。厳しい環境下でも健康で生活し、任務を遂行できるように、健康面から隊員をサポートしてくれる頼もしい存在が「健康管理員」だ。

   JICA本部の人事部には「健康管理室」があり、「国内健康管理員」と呼ばれる看護師が、国内外で働くJICA関係者の健康状態の把握から、健康相談、医薬品・診断書の管理、医師・医療機関との連絡調整、緊急移送業務など多岐にわたる業務を担っている。海外班(専門家・ボランティア担当)・職員班(JICA職員・企画調査員担当)に分かれ、JICAの在外拠点に勤務する「在外健康管理員」を取りまとめているのが海外班だ。海外班の池田陽子さんは、「協力隊員が選考に合格したところから私たちの関与がスタートします。途上国では日本のように医療体制が整っていませんから、協力隊員の健康は自己管理が基本です。派遣される国の状況に応じた自己管理ができるように、派遣前から各訓練所において、感染症顧問医による各種感染症の基礎知識、国内健康管理員による海外生活における健康管理についての話をしています」と話す。

   国内健康管理員と連携し、専門分野に応じた相談対応をするのが「顧問医」だ。2022年6月現在、感染症、内科、整形外科、心療内科などの専門を持った顧問医が20名いて、派遣可否の判定、傷病に応じた健康相談、感染症予防対策などを行っている。

   総合内科専門の顧問医として、JICAで20年以上のキャリアがある田那村雅子さんもその一人。「顧問医は、隊員の選考時から協力隊事務局に対して、健康診断項目などについてのアドバイスをしています。合格後も途上国生活を見据えて、自己管理を実践できるように情報提供しています。任期中に傷病などが発生した場合も、国内健康管理員やほかの専門の顧問医と連携しながら対応にあたっています」。

   新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)をはじめとした新興・再興感染症のパンデミックに対しては、JICA本部に対策本部を設置。海外からの退避や再渡航にかかる助言、現地の医療体制の把握や行動規範の作成、感染予防のための啓発活動などを各国のルールと擦り合わせながら行っている。平時は、世界約100カ所にあるJICA在外拠点を45名の在外健康管理員で見ているが、コロナ禍の現在は限定的に62名に増員し、事業継続の後方支援を強化している。

   在外健康管理員の主な業務として、協力隊員やJICA関係者の日常的な健康相談や傷病対応、感染症の予防啓発活動、医療情報の収集などがある。

「協力隊員の派遣国での自宅を訪問して、蚊帳を正しく張れているか、どこかに水がたまっていないかなどの防蚊対策の確認や生活調査をしたり、地域の医療調査から、首都から離れた任地でどこまで医療対応が可能か、どの時点で首都上京を考えるかを確認したりしています」(池田さん)。現地対応ができないケースでも適切な治療を受けられるように本部健康管理室とは随時連携している。一人ひとりの健康管理に気を配りつつ、万が一に備えて、隊員のいる地域の医療・生活環境を確認し、医療体制を把握しているのだ。

   隊員がかかる傷病の傾向は、20年以降コロナに罹患する隊員が増えたものの、それ以外は大きな変化はないという。15年から19年にかけて多かったのは、風邪などの「呼吸器疾患」、虫刺されなどによる「皮膚科疾患」、胃腸炎などの「消化器疾患」、虫歯や詰め物が取れるなどの「歯科疾患」だ。頻度は少ないが場合によっては帰国が必要となるものとして、スポーツや交通事故などによる「整形外科疾患」、「メンタルヘルス」、「婦人科疾患」がある。「慣れない環境によるストレスで女性隊員は月経が乱れる方が多いです。引き続き油断しないでほしいのは、デング熱やマラリアです。蚊が媒介する感染症なので、防蚊対策はどの国でも必須です」(田那村さん)。

   池田さんと同じ海外班の日髙知恵さんからは「隊員の健康診査基準が厳しいといったイメージを持たれることも多いですが、私たちは隊員の健康をジャッジするのではなく、サポートする立場です。不安があればいつでも気軽に相談してください。任地の医療機関を受診する場合も、その検査や治療や薬が本当に必要かどうか、どのような判断のもと、何の目的で行うのか理解することが大切です。受診前も受診後もわからないことがあれば、在外健康管理員や企画調査員[ボランティア事業](以下、VC)に判断を仰いでください」とお話しいただいた。

Text=秋山真由美 プロフィール写真提供=ご本人

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