派遣国の横顔   ~知っていますか?
派遣地域の歴史とこれから[エチオピア]

エチオピアは、「アフリカの角」地域の中心に位置する人口約1億人の大国で、アフリカで唯一、植民地化されていない国。JICA海外協力隊の派遣は2022年8月で50年を迎える。

エルサルバドル

エチオピアの基礎知識

  • 面積:109.7万平方キロメートル(日本の約3倍)
  • 人口:約1億1,496万人(2020年:世銀)
  • 首都:アディスアベバ
  • 民族:オロモ人、アムハラ人、ティグライ人、ソマリ人など約80の民族
  • 言語:アムハラ語、オロモ語、英語など
  • 宗教:キリスト教、イスラム教ほか

※2022年6月16日現在
出典:外務省ホームページ

派遣実績

  • 派遣締結日:1971年11月9日
  • 派遣締結地:アディスアベバ
  • 派遣開始:1972年8月
  • 派遣隊員累計:766人

※2022年6月末現在
出典:国際協力機構(JICA)

独自の文化を持つ誇り高きアフリカの大国

日本ではマラソン選手の活躍やコーヒー発祥の地として知られるエチオピア。元JICAエチオピア事務所長で通算10年以上の駐在経験のある神公明さんに、この国の状況や協力隊の歴史についてお話を聞いた。

神 公明さん
神 公明さん

PROFILE

元JICAエチオピア事務所長。1986年国際協力事業団(現JICA)に入団。エチオピア事務所への駐在は通算10年以上(1990~93年、2003~06年、13~17年)に及び、製造業における生産性向上技術であるカイゼンの普及、農業・農村開発、インフラ整備、教育分野のプロジェクト、協力隊事業を担当。2022年6月からJICA「南アフリカ共和国品質生産性向上プロジェクト」のチーフアドバイザー。

コーヒー発祥の地、カファ(平山さん提供)

コーヒー発祥の地、カファ(平山さん提供)

   エチオピアは日本の3倍の国土面積に1億人を超える人口を抱える大国だ。アムハラ語をはじめ多数の民族の言語表記に用いられる独自のゲエズ文字をはじめ、1年が13カ月あるエチオピア暦、独自に発展したキリスト教のエチオピア正教、主食のインジェラもこの国でのみ食されるという独自の文化がある。人類発祥の地とされ、今も80以上の民族が暮らす。標高が海面下の低地から4500メートル以上の高地まである多様な自然も特徴の一つだ。

   アフリカ最古の独立国として紀元前から栄え、欧米列強による植民地化を免れ独立を守り抜いた国でもある。アディスアベバにはアフリカ大陸55の国と地域が加盟するアフリカ連合の本部があり、「アフリカの首都」とも呼ばれている。

   青年海外協力隊(以下、協力隊)の派遣は1972年からで、第1陣は天然痘監視員や自動車整備など職業訓練を中心とする25名だった。その後、農業、土木、インフラに関する技術者育成、保健医療、初中等教育、スポーツ、文化、産業育成まで幅広い分野に広がった。特に理数科教育支援は、故・メレス首相が活動を高く評価し、派遣数が増加。2010年代以降はグループ型派遣が行われ、6万人以上の教育向上に結びついた。

   1990年から3度、JICAエチオピア事務所に勤務した神公明さんは、「エチオピアの人は初めての外国人にも優しく、温かくもてなしてくれる一方、長い時間をかけて深くつきあっていかないと本音を知ることはできません」とコミュニケーションで重要なポイントを話す。

「世界の笑顔のために」プログラムを通じて贈られた楽器を使う子どもたち(平山さん提供)

「世界の笑顔のために」プログラムを通じて贈られた楽器を使う子どもたち(平山さん提供)

   神さんは、この国の製造業に日本の生産性向上モデルを技術移転する協力にも携わり、組織で働く人の価値観を変える難しさを実感してきた。「伝統や宗教に支えられた保守的な社会でトップダウンの意思決定は早いものの、現場の動きは遅い。個人主義が強く、言われたことを理解はしても実行するかどうかは各自が自分の価値観で判断し、チームワークを得意としないのです」。

   政情不安によって隊員の退避を繰り返してきた歴史もある。「騒乱や紛争の背景には収奪的な制度の歴史があります。この国は2000年代以降に農業開発や工業中心の経済への転換を目指して経済成長していますが、利益を一部の権力者が独占するようなひずみがあり、人々の不満が蓄積し世の中が不安定になる。もともと、真面目で辛抱強い国民性で成長のポテンシャルが大きい国です。隊員の皆さんにはこの国にある制度や課題を理解し、自分に何ができるのかを考えていってほしい」。

Text=工藤美和 写真提供=神公明さん

知られざるストーリー