この職種の先輩隊員に注目!   ~現場で見つけた仕事図鑑

コンピュータ技術

  • 分類:計画・行政
  • 派遣中:10人(累計:1716人)
  • 類似職種:PCインストラクターなど

※人数は2022年6月末現在。

CASE1

三並慶佐さん
三並慶佐さん
タイ/2016年度3次隊・神奈川県出身

PROFILE
大学在学中に起業しWEB制作やシステム開発などを行う。卒業後はITシステムエンジニアとして勤務し独立。40歳を目前に、人生の節目に環境を変えたいと協力隊に参加。現在、派遣国のタイに在住し、Classmethod(Thailand)Co.,Ltd.のManaging Directorを務める。

配属先:プリンセス・チュラポーン・サイエンス・ハイスクール(PCSHS)トラン校

要請内容:同校生徒に向け、コンピュータプログラミングに関する授業の補佐を行い、ICT教育のレベルアップに取り組む。

CASE2

髙津早由里さん
髙津早由里さん
ケニア/2017年度2次隊・千葉県出身

PROFILE
大学卒業後、情報通信企業に5年半勤務。その後別会社で企業のPC関連をサポート。協力隊参加後、現在はアフリカ開発協会に勤務する傍ら、一般企業でコンピュータ関連の新人研修などを行う。

配属先:カプサベット・ナンディ上下水道信託会社

要請内容:配属先スタッフと共に安全な水の安定供給を目的とした給水拡張、無収水管理などのためのGISを用いたマッピング、漏水対策のための地図作成を行う。

   コンピュータ技術職種の活動形態を大きく分けると、①大学や職業訓練校などで国の将来を担うIT技術者を育てる、②省庁などで提供する情報システム開発を職員と行う、③ITの利活用支援として情報インフラ構築、セキュリティ対策などを行う、などがあり、いずれもITを利用し現場の課題を解決する。IT分野の職種にはほかに「PCインストラクター」がある。こちらは小中高校生などのPC初修者に向け、PCを正しく使用できるよう、基本操作を教えるなどの人材育成を行う。

CASE1

タイと日本の2カ国でプログラミング大会を開催

同僚との授業の様子。生徒たちはみな真剣そのもの(三並さん提供)

同僚との授業の様子。生徒たちはみな真剣そのもの(三並さん提供)

   三並慶佐さんの派遣先、PCSHS(※1)は、タイ全土に12校ある中高一貫の国立学校で、最先端の科学技術を学ぶために試験を勝ち抜いた優秀な生徒が集まる。三並さんへの要請は、アシスタントティーチャーとして同僚の授業に関わり、生徒に初歩的なプログラミングの指導をすることと、課外活動の支援だった。前者はスムーズに指導できたものの、後者は多少苦労した。「ゲームを作りたい」「ロボットを動かしたい」など、やりたいことがおのおの違ううえに、大学の研究室レベルの技術を要することに挑戦していたからだ。

   学生時代からメールマガジン配信サイトなどのWEB開発を行い、協力隊に参加する40歳目前までITエンジニアとして仕事を続けてきた三並さんは、WEBのサーバー部分を得意領域として比較的広範囲のIT技術の知識はあったが、インターネットへの接続を通じて遠隔操作を行ったり、データを活用したりする「IoT」は経験がなかった。

「生徒たちの要望に応えられるよう、暇な時間を見つけてはインターネットで調べたり、休日になると必要な機材を買い込んで新しい技術を覚えたりしながら、自身の技術力をブラッシュアップしました」

   当時、PCSHSの他校にもコンピュータ技術隊員が複数派遣されていた。彼らと定期的に分科会を行うなかで、そこから大きな活動が生まれた。それはPCSHS全12校、タイ教育省、JICA、日本の国立高等専門学校機構(高専)などを巻き込んだ「タイ・日ゲームプログラミングハッカソン大会」だ。PCSHS各校から選抜された生徒が出場し、当日は所属校を問わず即席で3人組のチームとなって、さまざまなプログラミングの課題に挑むというものだ。

ハッカソン大会タイ予選。日本行きを決めて喜ぶチームメンバーと三並さん(右端)ハッカソン大会タイ予選。日本行きを決めて喜ぶチームメンバーと三並さん(右端)

「国際大会の場合、選抜メンバーとなれるのは英語力の高い生徒が中心でした。語学力に関係なくコンピュータが好きな生徒に光を当てたいと、プログラミング能力で選抜されたメンバーが競い合える大会を企画しました」

   各隊員が通常の活動と並行して、業務を分担して大会準備や運営を行った。課題担当だった三並さんは、生徒たちの将来につながるよう、ゲーム開発の現場でも使われるUnityというツールを学び、大会課題の作成をした。タイでの予選に優勝すると、日本で行われる決勝に進み日本の高専の選抜メンバーと競うという副賞もつけたことで、PCSHSの生徒たちはもちろん、教員たちのモチベーションも上がり、大会は大成功を収めた。

CASE2

地理情報システムを用いた水道地図作成

   教えることよりも現地の人と協働することに魅力を感じ、PCインストラクターではなくコンピュータ技術に応募した髙津早由里さん。配属先はカプサベット・ナンディ上下水道信託会社で、任地のカプサベットには日本のODAプロジェクトで建設された浄水場があった。要請は、地理情報サービス(GIS ※2)を用いた各家庭の水道メーターのマッピング作業だ。無収水率(※3)を下げることが目的だが、前任者が作成途中だった地図は放置され、情報も全く更新されていなかった。

   経営陣から要望があっても、仕事を増やしたくない現場とは温度差があり、地図を作りに行こうと声をかけても忙しいと断られる。しかしながら自分一人でやってしまっては技術移転にならないと、髙津さんは一緒に地図を作る専任者の必要性を訴え続けた。

   一方で、顧客の会計情報を管理するシステムがうまく稼働していなかったため、髙津さんは最初の1年は地図作成ではなくデータ精査の仕事に従事した。料金未払いが発覚した人が問い合わせに殺到し、その対応に駆り出されることもあったが、今やるべき仕事はこれと前向きに捉えて乗り切った。

専任者とともに各家庭を訪問し、マッピングを行う髙津さん

専任者とともに各家庭を訪問し、マッピングを行う髙津さん

   ようやくマッピング作業ができるようになったのは1年後。GPSの機械を持ち、一軒一軒記録して回る。まさに点と点をつないで線にしていく作業だ。歩いて行ける場所はいいが、遠くの地域に行きたいのに急な漏水工事などで車が出払い、作業が中断することもあった。そんなときは事務所でデータをPCに取り込む作業をしつつ、同僚とコミュニケーションを取ることでお互いの理解を深めるようにした。

「任期中に地図はほぼ完成し、今後私がいなくてもいいようにマニュアルも作りました。先にデータ精査をしたことで、会計情報を地図と見比べることもできるようになりました。ただ、今後の地図の活用法を提案できずに帰国となってしまったのが心残りです。『地図ができてよかった』で終わらないよう、継続的な活動にしていく必要性を感じました」

   私たちが当然のように使っているソフトやシステムを、現地の人は使っていなかったり、使いこなしていないことも多い。コンピュータ技術が人の役に立てること、そのためにやらねばならないことは多岐にわたると理解して行動するのが肝要である。

活動の基本

ITの技術だけではなく、自らの創意工夫とコミュニケーションで人々の生活の向上に貢献する

※1 PCSHS…プリンセス・チュラポーン・サイエンス・ハイスクール

※2 GIS…コンピュータ上でさまざまな地理空間情報を重ねて表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術

※3 無収水率…水道料金の未徴収率のこと

Text=海原美帆 写真提供=三並慶佐さん、髙津早由里さん

知られざるストーリー