失敗に学ぶ
~専門家に聞きました!現地で役立つ人間関係のコツ

今月のテーマ:技術力に自信が持てない

今月のお悩み

▶畑ですぐに的確なアドバイスができず、信頼を得られません。
(農業関連職種/男性)

   複数の村の農家に巡回指導に行っています。派遣国では日本で当たり前に使っていた農機具がなかったり、日本にはいない害虫の被害があったりと、戸惑うことばかりです。知識・経験不足で生育不良の原因をすぐに伝えることができず、農家の方々から「わざわざ遠い日本からなんのために来たんだ」と見られているようで、疎外感を感じます。日本で派遣国の農業の状況を把握してもう少し勉強しておけばよかったと感じます。

今月の教える人

志和地弘信さん
志和地弘信さん
ネパール/野菜/1985年度3次隊、SV/ネパール/園芸作物/1989年度0次隊・鹿児島県出身

1960年、鹿児島県生まれ。東京農業大学農学部卒業後、85年に協力隊に参加。帰国後鹿児島大学大学院へ進学(農学博士)。2004年より東京農業大学勤務。現在、東京農業大学常務理事、同大学大学院国際食料農業科学研究科国際農業開発学専攻指導教授、同大学国際食料情報学部国際農業開発学科教授。

志和地先生からのアドバイス

▶便利なアプリの活用も勧めますが、
まずは一緒に過ごす時間を大切に。

   専門家ではありませんから、どの職種で派遣されても同じ悩みがあるかもしれません。

「大学で学んだことを生かして、協力隊員として途上国の人のために活動したい」といった思いを持って東京農業大学に入学してきた学生でも、入学後に応募を諦めてしまう学生がいます。そうした学生の一番の理由が、相談者さんと同じように「技術力に自信がないから」です。

   気持ちはわかります。農業職種の隊員に求められるのは、医者でいう内科医のようなもので、作物の生育を見て、「これは栄養が足りない」とか「この病気だ」などを診断しなければなりません。

   原因はカビかウイルスか、養分が欠乏しているだけか、そもそも土壌に合った作物か――などを総合的に見て判断を下す必要があり、それには知識と経験の両方が必要になる。しかし種をまいてから収穫に至るまでには数カ月から数年の時間がかかるため、学生では圧倒的に実地経験が足りないわけです。

   誤った判断で進めてしまうと、農家の収入源が断たれる可能性もありますから、大きな責任が伴います。学べば学ぶほど、「自分はまだその段階ではない」と不安にさいなまれてしまうのでしょう。

   東京農業大学では、そうした学生のためにさまざまな経験を増やすための制度を用意していますが、相談者さんのように、協力隊に参加してから自分の技術や知識のなさをどう補えばいいかと壁にぶつかったり、判断に迷ったりしている方もいると思います。

   そうした方に技術面の補完としてお薦めしたいのが、AIアプリの活用です。便利な時代で、農業関係であれば、作物の写真からAIが病気などを診断してくれるアプリが複数開発されています。

   例えばフィリピンにある国際稲研究所が開発したアプリは、国や品種を入力すると、「何月何日ごろにこれくらい生育し、この時期には害虫が出るから、そのときにはこの農薬をまけばよい」といったことまで表示されます。

   それなら地元の農家の人が使えば解決でき、協力隊員は不要と思われるかもしれませんが、そうとも限りません。アプリの診断を読み解くためには、スマホやタブレットの操作に加え、化学や生物学といった専門知識と、そもそもアプリが表示する言語が理解できなくてはなりません。多少なりともそれらの知識を持つ協力隊員なら、アプリの診断を読んで、地元の状況と照らし合わせたうえでアドバイスの参考に活用することができます。

   農業職種にかかわらず、今はインターネットで調べた情報を、活動の参考にする隊員は少なくないでしょう。活用できそうなアプリなども探しながら、うまく自分の知識を補っていってはいかがでしょうか。

   一方で、絶対にやってほしいことがあります。地元の人の話をしっかり聞き、「地元の方がやってきた農業」の方法を理解したうえで、それを否定せずに改良できる点を探すことです。派遣先や職種によっては、協力隊員でも専門家のように迎えられることもあるでしょう。そうした場合でも、まず、相手と同じ目線に立って信頼関係を築くことが大切です。

   地元の人が代々行ってきた方法は、先進国の人間からすると時として「古くさい、効率の悪い方法」と見えることもあるかもしれませんが、その土地の地形や気象条件など、さまざまなことが関係した結果であることが少なくありません。

   何よりもまず先にカウンターパートや地元の人たちを信用して、むしろ自分が教えてもらう立場で接することから始めましょう。一緒にお茶を飲んだり、生活を共にしたりすることで、人となりを理解してもらい、相手のことを理解し、信頼関係を築く。それがあって初めて、聞く耳を持ってもらえます。

Text=ホシカワミナコ(本誌) 写真提供=志和地弘信さん ※質問は現役隊員やOVから聞いた活動中の悩み

知られざるストーリー