この職種の先輩隊員に注目!   ~現場で見つけた仕事図鑑

助産師

  • 分類:保健・医療
  • 派遣中:7人(累計:648人)
  • 類似職種:看護師、保健師

※人数は2022年7月末現在。

CASE1

髙野友花さん
髙野友花さん
モロッコ/2016年度1次隊・神奈川県出身

PROFILE
中学生のときに国境なき医師団の本に感銘を受け、医療による国際協力を志す。大学で看護師、保健師、助産師の資格を取得。4年間の病院勤務ののち、協力隊に。今年9月までリバプール熱帯医学校に留学。

配属先:保健省エルジャディーダ県支局

要請内容:保健省支局に所属し、エルジャディーダ市や県内の保健センターで妊産婦健診業務に関するスタッフへの助言や住民への啓発、また母親学級運営に関する助言を行う。

CASE2

嶋谷 南さん
嶋谷 南さん
キリバス/2017年度3次隊・山口県出身

PROFILE
フィリピンで産院を運営する隊員OVに憧れ、大学で看護師、保健師、助産師の資格を取得。病院勤務、フィリピンの助産院やタンザニアのNGOで活動後、協力隊に。JICA勤務を経て、現在、東京都で保健師。

配属先:キリバス家庭保健協会

要請内容:同僚看護師や配属先スタッフと協力して、若年層を対象とした思春期保健指導、医療データの管理、コミュニティ巡回指導、一般患者へのリプロダクティブヘルス・サービスの提供。

「助産師」の職種の要請内容は、母子保健の向上、性と生殖に関する健康と権利に関わる領域になり、具体的な活動は多岐にわたる。

   配属先と活動内容は主に、①病院で産科看護、新生児看護、助産改善(知識、技術、倫理など)を指導する、②地域で母子保健サービスの提供、家族計画や若年妊娠に関する啓発教育を行う、③助産師養成学校で助産師養成教育の改善や指導にあたる、に分けられる。日本で助産師として行っていた医療行為を行えない国があるほか、性を扱うことは社会・文化的にタブー視される国も多い。

   今回は、行政、NGOという異なる立場で、②の地域における活動を医療行為を行わずに展開した隊員を紹介する。

CASE1

人手不足の現場で「母親学級」の普及・定着を図る

保健センターで行われた母親学級。「モロッコ人は話すことが得意なので、どうやるかを理解すると初めてでも堂々と母親学級を実施していました」(髙野さん)

保健センターで行われた母親学級。「モロッコ人は話すことが得意なので、どうやるかを理解すると初めてでも堂々と母親学級を実施していました」(髙野さん)

   モロッコの保健省は妊産婦・新生児の死亡率低下を図るため、2009年から「母親学級」の全国普及をJICAなどの協力の下で進め、妊娠中最低4回の妊婦健診の受診を推奨してきた(日本では14回が標準)。髙野友花さんへの要請も、普及が遅れ、妊婦健診も平均2.21回という県での母親学級の普及・定着支援が中心だった。

   配属先は県内の保健センター(以下、センター  ※)と病院を管轄する部署。髙野さんが助産師や看護師に母親学級について聞くと知らない人が多く、知っていても「忙しい」「モノや場所がない」「やり方を知らない」との答え。「母親学級は妊産婦に対して正しい知識や情報を伝えて健診受診や施設分娩を促し、産前産後の準備や生活を大切にしてもらい、母子共に元気に過ごしてもらうために行います。その重要性を伝えることから始めました」。

   髙野さんは配属先の同僚の医師、助産師と共に各センターに研修を行った。理解の正確さと継続性を重視し、髙野さんの指導案をモロッコ方言を交え医師、助産師に講義してもらった。

   その後、各センターに母親学級を実施してもらい、助言・指導した。センターは健診・出産費用が無料のため、訪れる妊婦は貧しい人が多く、識字率が低い。イラストや模型を使ったわかりやすい教材利用を働きかけた。実施対象35カ所中31カ所に研修を行い、23カ所で実施されるようになった。

妊婦健診を広く知ってもらう一環で、中学校で「命」をテーマに授業をする髙野さん。「イスラム圏のモロッコでは男女を分けがちですが、男女両方の生徒に参加してもらうことを大切にしました」

妊婦健診を広く知ってもらう一環で、中学校で「命」をテーマに授業をする髙野さん。「イスラム圏のモロッコでは男女を分けがちですが、男女両方の生徒に参加してもらうことを大切にしました」

   センターを巡回するなかで気づいたのが、全センターを管轄するカウンターパート(以下、CP)はそのうち1カ所のセンターの看護師長との兼務で忙しく、ほかのセンターの状況を把握していないことだった。これではスタッフたちがいくら頑張っても評価されない。髙野さんは、各センターの活動評価表を作りCPと共有した。

「できていないことに偏らず、良い点も伝えるようにしました。CPはそれを見て、ほかのセンターの現場訪問を増やしてくれました」

   一方で、モロッコ医療の人手・予算不足という課題も見えた。例えば、分娩のできるセンターでは多いと年間1000件の分娩が行われ、夜間は助産師一人で対応する。

「隊員は人事など医療体制にまでは介入できませんが、モロッコのお母さんや赤ちゃんの健康のために少しでも役立ちたい。現場の状況を知りながら仕事の負担になり得る母親学級の導入を進めるという葛藤を抱えながらの活動でした」と髙野さんは振り返る。「モロッコでは国の政策目標と現場の実態には隔たりがあり、今後もそれを埋めるような仕事に携わりたいです」。

CASE2

「若年妊娠」予防のため実態調査を行い、広く共有

   嶋谷南さんの配属先のキリバス家庭保健協会(KFHA)は、長年、「性と生殖に関する健康と権利」に関する啓発活動を行ってきたNGOだ。

   キリバスでは若年妊娠(20歳未満の妊娠)が問題になっており、避妊法普及率も大洋州のなかで低かった。配属先からは相談者への医療行為を求められていたが断り、相談のうえ、若年妊娠の予防活動をメインにすることを決めた。「実態や背景が把握されていなかったので、効果的な予防活動のためには調査が必要だと配属先を説得しました」。

   嶋谷さんはスタッフと共に、首都・南タラワの19歳以下の若者382人に調査を実施。その結果、22%しか避妊具を用いないこと、若年妊娠した人の86%が学校を中退し、90%が無職であることがわかった。避妊などに関するサービスを受けられない理由は、①知識の欠如、②環境やアクセスの悪さ、③性について知る心の準備ができていない、④飲酒による性行動の誘発、⑤男性優位で理解が得られない、などだった。この結果を首都の校長先生たちに共有すると、「学校では理科の授業で男女の身体の違いなどを話す程度で、性について話すことはタブーとされ、どのように学生に話したらよいかわからないという声が上がってきました」。

「妊婦体験ができるジャケット」を着用した若者たちと嶋谷さん(右から3人目)。「キリバスの女性がよく腰に巻いている一枚布“ラバラバ”、ごみ袋、土7kgの三つで作製しました」(嶋谷さん)。妊娠約8~9カ月の妊婦体験ができる

「妊婦体験ができるジャケット」を着用した若者たちと嶋谷さん(右から3人目)。「キリバスの女性がよく腰に巻いている一枚布“ラバラバ”、ごみ袋、土7kgの三つで作製しました」(嶋谷さん)。妊娠約8~9カ月の妊婦体験ができる

   そこで、KFHAはユースボランティアによる学校での啓発活動を行うことにした。嶋谷さんはボランティアと相談しながら、劇、妊婦体験ジャケットの着用体験、人生設計ワークショップ、コンドームデモンストレーションから成るプログラムを実施した。

「音楽に乗せて劇をしていると、コミュニティの人たちも集まってくるんです。結果、大人にも性や避妊について知ってもらえたのではと思います」

   こうした活動は、KFHAが学校巡回で行うプログラムに包括的性教育の内容を組み込むことにもつながった。

「人々の行動はすぐには変わらないと思いますが、ユースボランティアが活動を継続し、キリバスの未来を変えていってくれることに期待しています」

活動の基本

医療行為ができないことや社会的タブーなどの制約があっても
さまざまなアプローチを積極的に試す

※保健センター…診察、処置、妊婦健診や乳幼児検診、家族計画を行う公的施設。分娩施設があるところもある。

Text=工藤美和 写真提供=髙野友花さん、嶋谷 南さん

知られざるストーリー