[特集] 振り返りにも大助かり  活動記録の残し方

協力隊OVからよく聞くのが、「もっと活動や派遣国のことを伝える素材を記録したり、残したりしておけばよかった」といった後悔の声です。そこで、前半の「文章・写真編」では、3人の先輩隊員から文字で記録した方法や工夫した点を、後半の「動画編」では、2人の先輩隊員から動画撮影の注意点やアドバイスをいただきました。

文章・写真編

後輩隊員へ。コツコツ撮影・調べた 「ネパールの野菜図鑑」

志和地弘信さん
志和地弘信さん
ネパール/野菜/ 1985年度3次隊、SV/ネパール/園芸作物/ 1989年度0次隊・鹿児島県出身

配属先はネパールの園芸試験場。ネパール語を猛勉強し、電気やガス、水道も通っていない地域で暮らす識字率が低い農家の人々に向け、野菜の種子の生産を指導。野菜栽培方法の改善と所得向上につなげた。現在学校法人東京農業大学常務理事、同大学・大学院教授。

   私が作成したのは、1986年4月から88年3月まで、ネパールの首都・カトマンズの小売市場(主にアツサンバザール)で販売されていた野菜、もしくは野菜に準ずる形で食される物(豆など)について調査をまとめた図鑑です。市場へ行き、売り主の許可を得て、日本であまり見られない野菜を中心に、一つ一つフィルムカメラで撮影し、あとから学名や主生産地などのデータを調べ、手書きで記録していきました。

   ネパール・インドを原産もしくは遺伝子変異地とする野菜類は多く、また東西交易の通過・中継地点だったことから、ネパールは野菜の種類が豊富です。在来の野菜から近代野菜までの変遷を確認できるよう記録し続けました。

   任期終盤に在外事務所の協力を得て製本し、最終的に複数冊の図鑑に仕上げた完成品は、隊員連絡所(ドミトリー)に置いて帰国しました。30年後にドミトリーを訪ねたところ、歴代のネパールの農業職種の隊員たちが参考にしてくれていると聞き、嬉しくなりました。現在はそのうちの2冊が私の元に戻されているので、研究室で学生たちが閲覧しています。

   農業職種の方たちは作物が育つまでに時間がかかりますし、ほかの職種の方々も、任期序盤はなかなか成果が見えないと焦ることもあると思います。食べることが好きな人なら、ローカルフードのレシピをコレクションしたり、ファッションが好きな人なら現地にしかない布の柄をコレクションしたりと、写真に撮って、細かく調べてストックしていくといいと思います。自分の興味関心のあるテーマを決めて定期的に記録に残しておくと後々自分の楽しみにもなりますし、そのあとの活動につながることもあるかもしれません。

70 種類以上の野菜を収録

Vol.1だけでも、70 種類以上の野菜を収録。目次や資料の見方、地図、文中の用語につ いてなどのページも作り製本した。左写真はダイコン、下枠写真はサツマイモ(左)と唐辛子(右)。野菜と一緒にタバコの箱やメジャーを置いて、サイズ感もわかりやすくしている

図鑑の項目:日本名、学名、英名、ネパール名、写真添付、1.品種名など、2.特性、3.マーケットシーズン、4.価格、5.主生産地・採取地、6.利用法、7.備考
Q.市場で写真を撮る際の注意点は?
Q. 市場で写真を撮る際の注意点は?
A. あらかじめ許可を取ってから撮影しました。
通ううちに、売り主側から「こんな野菜があるよ」と言ってもらえるようになりました。                  


自治体ウェブサイト公開に向け月1回発行した「ブータン便り」

白川浩司
白川浩司さん
SV/ブータン/観光/ 2018年度2次隊・岡山県出身

倉敷市国際課で同市出身の協力隊員から届いた現地リポートを編集し、市のウェブサイトに公開するなどの業務をしていくなかで、「市民参加できる国際貢献の仕組みを私自身も体感し市民に伝えたい」との思いが強くなり、現職参加で協力隊に参加。新型コロナウイルス感染拡大の影響で一時帰国後、同市職員として復職。

   倉敷市国際課で、市出身のJICA海外協力隊の方々の現地レポートを編集し、レイアウトを組んでウェブサイトに掲載するといった業務を担当してきました。私自身も協力隊に参加した経験を生かしたいと、現地で月1回掲載を目安に、全16回にわたり「ブータン便り」を作成しました。

   テーマはその都度考えましたが、記事は市民に協力隊事業について知ってもらう目的もあるため、派遣前訓練や出発前の表敬訪問、現地研修、住まいといった、協力隊員になったら体験することについても触れました。赴任当初は異文化への驚きや発見が多い時期なので、ブータンの行事や教育制度、人々の生活などについても紹介しました。活動については紆余曲折(うよきょくせつ)があり、活動が軌道に乗ってから書こうとしていたものの、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて一時帰国を余儀なくされたこともあって結果的にあまり掲載できませんでした。一方で、これから参加を考えている方々の参考になるのではないかと思い、一時帰国に至る経緯や、その後の状況などについても紹介しました。

   気をつけたことは、「自分が体験したことを書く」こと。また、倉敷市と岡山県のウェブサイトに掲載されるため、「活動上の機密事項にあたることは書かない」「公平な目線で伝える」ことを重視しました。撮影ができそうな活動のときにはカメラを持ち歩きました(ただしブータンではロイヤルファミリーや寺内部、仏像などは撮影禁止)。またカウンターパート(以下、CP)がSNSなどでアップした写真に自分が写っていたら、もらうようにしました。

   一時帰国後、現職参加だった私は職場復帰することになったため、スタートしたばかりだった「ブータン版お遍路」については開発計画しか書けませんでした。しかし先日、このブータン版お遍路の一環で製作された御朱印帳などが完成したそうです。私の帰国から2年強が過ぎましたが、CPらがあとを引き継ぎ、形にしてくれたことは感慨深く嬉しく思います。

Q. 文章や写真をうまく配置するコツは?
A. 慣れているワード文書を使用しました。
文章を書き、写真を張りつけて作成してからPDFにしています。
単なる観光ガイドにならないよう、自ら経験したことをまとめていった「ブータン便り」

単なる観光ガイドにならないよう、自ら経験したことをまとめていった「ブータン便り」(写真は第1号、第11号と第16号の一部)。参加した行事やイベント、食べたものなどのほか、協力隊活動についても活動が軌道に乗るまで紆余曲折した経緯や、新型コロナウイルス感染拡大時の状況なども紹介した。

「ブータン便り」 内容
第1号 はじめに、ブータン王国、派遣前訓練、出発前表敬訪問
第2号 ブータン入国、JICAブータン事務所、ボランティア連絡所
第3号 ゾンカ語レッスン、ブータンオリエンテーション
第4号 ティンプー生活圏、アパート、ブータン政府観光局
第5号 ブータンの正月、ブータン日本語学校、2019年お正月イベント
第6号 ブータンの教育システム、JICA Winter Camp
第7号 ブータン観光政策、National Tourism Conference
第8号 ツェチュ、パロ・ツェチュ
第9号 プナカ・マラソン、ポブジカ・トレイルラン
第10号 UNWTO東アジア・大洋州・南アジア地域会合、国際会議を招致するということ
第11号 ゴミ問題、ゴミのない社会を実現するための取り組み
第12号 要人来訪、MATSUTAKE
第13号 ボランティア活動計画、日本人向けプロモーション
第14号 健康診断一時帰国、National Day
第15号 小学校出前授業、岡山ブータン交流事業、ブータン料理専門店「ガテモタブン」
第16号 COVID-19概況、一時帰国に至る経緯、JICA海外協力隊の扱い、ブータン版お遍路の開発

CHECK !

「ブータン便り」は倉敷市国際課ウェブサイトで公開中。
JICA中国が制作したブータンの友人たちに向けたメッセージ動画も見ることができる。

記事はこちら



SNSで情報共有した記事を帰国後冊子に。「バヌアツの性事情」

香田美波
香田美波さん(旧姓 川又)
バヌアツ/保健師/ 2016年度1次隊・茨城県出身

配属先は首都にあるNGOバヌアツ家族計画協会が運営するクリニック。家族計画のための相談や避妊媒体の提供、リプロダクティブ・ヘルスに関する相談、性感染症の相談・治療、妊婦検診などを、現地の看護師と共に行った。帰国後は大学院で公衆衛生学を専攻。現在は保健師として母子保健の相談にあたる。

   クリニックでリプロダクティブ・ヘルス(妊娠や避妊などの性と生殖に関する健康)の啓発活動を行いました。任期が残り3カ月になったときにFacebook(以下、FB)で週1回「バヌアツの性事情」をテーマに投稿を始めました。

   きっかけは主に二つあります。一つは、1年半の活動でやっとバヌアツの人々の性に対する考え方や生き方、文化が見えてきたのですが、残り3カ月では新たな活動につなげる時間がなかったこと。もう一つは、家族計画の一つとして避妊を勧めていたものの、子どもの数が多くても皆で育てる文化があるバヌアツで、家族計画の意識を育むには時期尚早のようにも感じていたことです。自分の活動は必要だったのかと葛藤を抱え続けていたため、バヌアツの人々の性事情を改めて文章化して整理しようと思いました。恋愛観、結婚観、男女の関係性は、バヌアツの人々の生活に密接に関わることなので、ほかの隊員たちにも共有し、活動時の参考にしてもらいたいといった気持ちもありました。

   読者がいると怠けずに投稿を続けられ、情報共有もできるのでFBに投稿することにし、ネタになりそうなことを書き出して10回分のテーマを決めました。執筆時に最も注意したのは、バヌアツの人たちの性事情を肯定も否定もせずに客観的にまとめることです。統計データなどの根拠になる数字を入れることも心がけました。

   当初はFB上での情報共有を目的にしていたのですが、投稿を見た協力隊OVの方が「よくできているから冊子にしたら」とレイアウト案を送ってくださったことから、帰国後に投稿内容をリライトし、巡回訪問時などに撮影した写真も入れて「MI NO SAVE(ミノサベ)」(ピジン語で「わかりません」の意)とタイトルをつけて冊子(PDF)にしました。JICAバヌアツ支所の方々も隊員たちに薦めてくださっているようです。帰国後に講演の場をいただいた際にも活用しています。

Q. SNSの記事を冊子にする際、気をつけたことは?
A. FB投稿用の文章は話し言葉で執筆していたので、冊子化にあたり「です、ます調」に書き直しました。
バヌアツ性事情

バヌアツ人の患者さんたちと関わるなかで知り得た性に関わる情報をもとに、統計データなども入れてまとめた冊子「MI NO SAVE」。「国も文化も恋愛観も日本とは違い、どちらがよいという意見はありません。性事情を通してバヌアツを知ってもらいたい」と香田さん。

「MI NO SAVE」 目次
特集 そうだったのか?!バヌアツ性事情
#01 恋愛&結婚事情 結婚に必要なもの…お金・豚・鶏
#02 避妊薬事情 学校での性教育がない
#03 子作り事情 望んだ妊娠、望まなかった妊娠
#04 妊産婦検診 出産は病気じゃない
#05 出産事情 まさか こんなところで…
#06 養子縁組事情 何でもシェアする文化
#07 不妊症事情 命は神様がくれるもの
#08 性感染症事例 Part1 クラミジア、淋病(りんびょう)、梅毒、HIV編
#09 性感染症事例 Part2 子宮頸(けい)がん編
#10 医療従事者事情 圧倒的な人材不足

CHECK !

「MI NO SAVE」をクロスロードウェブページで公開中

ウェブサイトはこちら

CHECK !

冊子制作後に「HUFFPOST」でコラム連載のチャンスもつかんだ。
コラムに書く内容も「すでに冊子があったため、まとめやすかった」という。

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Text=ホシカワミナコ(本誌)   Photo=干川 修   写真提供=ご協力いただいた各位

知られざるストーリー