失敗に学ぶ
~専門家に聞きました!   現地で役立つ人間関係のコツ

今月のテーマ:同僚のやる気を引き出すには

今月のお悩み

▶やる気がなく、規則や時間を守らない同僚をなんとかしたい
(環境教育/男性)

   市役所でゴミの分別普及の活動を行いました。実際には地域ではゴミのポイ捨てが当たり前だったため、同僚とゴミ捨ての啓もう活動から始めることにしました。しかし、同僚は市の担当課職員にもかかわらずやる気がなく、ゴミ捨てのセミナーをやったそばから車の窓からごみを投げ捨てたりするため、口論になりました。その同僚はそもそもセミナーや会議の日にちを決めても、遅刻が当たり前でやる気が見られません。真面目に取り組んでいる自分が馬鹿らしくなります。

今月の教える人

三枝大地さん
三枝大地さん
チリ/バレーボール/ 2004年度3次隊・兵庫県出身

協力隊から帰国後、女子バレーボールU20、U23日本代表コーチ、U18日本代表チーム監督を歴任。2020年4月より岩手県紫波郡紫波町の「ノウルプロジェクト」運営責任者で、23年に開校する学院の学院長に就任予定。並行してバレーボールアンダーエイジカテゴリーへの指導やJOCVバレーボール会会長として、隊員への指導も行う。

三枝先生からのアドバイス

▶多少強引にでもやらせてやる気を引き出すか、やる気になってからやらせるか。二つの方法があります。

「やる気の出し方」はいくつかありますが、今回のお悩みに当てはまりそうな二つの方法をご紹介します。

   まず、今回のようにやらないことで周囲に迷惑をかけたり、被害が出てしまう可能性があるときに、多少強引でも責任を持たせ、それによりやる気を引き出す方法です。

   相談者さんの状況であれば、本人があまり乗り気でなくても、例えばゴミ捨てセミナーで 企画リーダーを任せてみるなどです。嫌々やらされたことでも、それによって「ゴミ捨ての必要性がわかる」とか「町の美化に努めてくれてありがとう」などと住民に感謝されたりすると喜びを感じ、その積み重ねで意欲が高まっていくこともあります。

   もう一つは、本人がやる気になるまで種をまき続けて待つ方法です。私がJICA海外協力隊時代に南米チリに赴任し、大学バレーボールの選抜メンバーを指導したときには、主にこの方法を使いました。

   当時、女子バレーの練習は19時スタートでしたが、選手たちの遅刻は当たり前。19時30分頃に体育館に来てだらだらと過ごし、20時ぐらいからようやく練習を開始。21時になると男子学生が集まってくるので、女子チームが体育館で練習できるのは1時間ほどでした。

   単に時間を守るように伝えても、なぜそうすべきか、本人が理解・納得していないと聞き流されるだけです。そこで、「バレーがうまくなれば、奨学金が取れる、就職にも大いに役立つ」など、〝強くなりたいと思うスイッチ〟が入るよう、さまざまな場面で練習への意欲を高める〝種〟をまき続け、選手が「強くなりたい。練習をしたい」と思うまで待つことにしました。

   ある日、一人の女子選手が「練習時間が短い」と言ってきました。遅刻すれば練習時間が 短くなるのは当然です。「だったら練習に早く来たらいいのでは?私は19時には体育館に来ているから、練習は始められるよ」と伝えると、「みんなが遅れてくるから、それが当たり前だと思っていた」と驚いた様子。2年ほどかかりましたが、最終的に全選手が練習開始の30分前にはウォーミングアップやトレーニングを始め、19時にはボールを使った練習ができるようになりました。

   ここまで二つの方法をお伝えしましたが、どちらの方法も大切なのは「まず相手を知る」ことです。どんなことに興味があって、喜びを感じるか。それを知り信頼関係を築いてから接していかないと、引き出せるものも引き出せません。

   言葉でのコミュニケーションがうまくいかないと感じたときには、ツールの一つとして「日誌」を取り入れるのも一案です。

   チームスポーツでは、練習中にすべての選手と話をするのは難しいこともあります。毎日でなく1週間に1度の交換でもいいので、日誌を通してお互いの考えを知ったり、新たな気づきを与え合ってみましょう。

   日誌では「今日の練習をやり直せるとしたら何をしたいか」「あなたが監督ならどうしたいか」といった希望を書かせるような質問をすると、相手が望んでいることを知るきっかけになります。

   日誌だからこそ、悩みを打ち明けてきてくれる選手もおり、私は必ずアドバイスを添えて返しました。尚、日誌をグループで回していく場合は、書いた内容を仲間に見られたくない学生もいるので、グループの雰囲気を見極めてください。

   最初は浅い内容のやりとりでもいいので、キャッチボールを続けてみてください。そのうち内容も充実し、相手との信頼関係が構築されていきます。

   相手へのアクションが失敗して落ち込んだり、嫌な気分になったりしたとしても、人間は失敗から学ぶことがたくさんあります。チャレンジしたこと自体が自分の成果だと捉えて、次に生かしましょう。

Text =梶垣由利子 写真提供=三枝大地さん ※質問は現役隊員やOVから聞いた活動中の悩み

知られざるストーリー