この職種の先輩隊員に注目!   ~現場で見つけた仕事図鑑

日本語教育

  • 分類:人的資源
  • 派遣中:33人(累計:3, 077人)
  • 類似職種:青少年活動、小学校教育

※人数は2022年8月末現在。

CASE1

石倉志朗さん
石倉志朗さん
キリバス/2018年度1次隊・岡山県出身

PROFILE
大学卒業後、兵庫県や岡山県の高校で国語科の教員として勤務。現職教員特別参加制度を利用して協力隊に参加し、帰国後の現在も岡山の高校にて教壇に立っている。

配属先:船員養成校(MTC)(※1)

要請内容:MTCの漁業コースにて、日本の遠洋漁業のカツオ・マグロ漁船で就労予定の訓練生に実用的な日本語、日本人の生活習慣や日本文化について指導する。

CASE2

近藤ゆみさん
近藤ゆみさん
日系JV/ブラジル/2018年度1次隊・滋賀県出身

PROFILE
大学時代に日本語教師養成講座を修了し、卒業後は機械メーカーでの4年間の勤務を経て現職参加で協力隊に。帰国・復職後、現在も派遣当時の生徒にオンラインで日本語を教えたり、地元の在留外国人の子女を対象とした日本語教室で日本語教育のサポートを行ったりといったボランティア活動にも携わっている。

配属先:ピンダモニャンガバ日本語学校

要請内容:日本語指導のサポートや現地教師の育成、日本文化を取り入れた授業の実施のほか、日系人協会が主催するイベント行事への参加や協力も行う。

   配属先における日本語の授業の実施など現地の日本語教育への協力を目的とする「日本語教育」。中学校・高校、大学、専門学校、日系日本語学校などに派遣され、活動内容は、学習者への直接指導や現地教師の教授技術向上のための支援のほか、スピーチコンテストや日本文化に関するイベントの実施、教材やカリキュラムの作成など、配属先によって多岐にわたる。

   日本語を学ぶ目的も、仕事や就職のため、日本のポップカルチャーへの関心などさまざまで、現地教師の日本語教育の経験にも差があるため、要請や状況に応じた協力が求められる。

   ほとんどの要請で、日本語教師養成講座の修了や日本語教育能力検定試験の合格など、日本語教育について一定の知識を有していることが求められ、活動内容によっては一定の実務経験があることが求められる。

CASE1

日本の漁船で使える生きた日本語を

   キリバスの船員養成校(MTC)に派遣された石倉さんへの要請は、卒業後に日本の遠洋漁船で働く漁業コースの訓練生に、日本語や日本の生活習慣を教えることだった。

   本コースの受講期間はわずか7カ月。石倉さんは日本人の教師として何ができるか、常に意識して指導にあたった。

   石倉さんはまず、教材を新しくすることにした。それまで使っていた教科書は30年も前の版で表現が古いうえ、ページが欠けていたりとボロボロだった。日本語だけで書かれているので、教員も内容を十分に理解できていないという問題もあった。そこで、より実用的な日本語を身につけてもらい、また教える側も学べるよう、版が新しく英語の解説もあるものに変更した。

MTCの卒業式で、石倉さんの教え子たちはおそろいの法被を着て力強いソーラン節を披露した

MTCの卒業式で、石倉さんの教え子たちはおそろいの法被を着て力強いソーラン節を披露した

   一方、漁船で用いられる専門用語についてはMTC独自の教材があり、引き続き活用することができたという。

   授業では、ロールプレイを取り入れた発表などアウトプットの場を増やすようにし、日本の歌も教えた。長渕剛の「乾杯」や加山雄三の「海 その愛」など、スローテンポで表現が易しく、訓練生が共感しやすい内容の曲を選んだ。

   また、日本文化に触れる経験も増やすよう心がけた。キリバス人の同僚教師が日本の遠洋漁船で働いていたとき、箸が使えずに困ったと話していたのをヒントに、箸の使い方も授業に取り入れた。「漁船で働くことになれば、日本人と生活を共にしますから」。日本人と接する機会も大切と考え、ほかの隊員やJICA事務所の職員を招いたり、自身が勤務していた岡山県の高校とオンラインで交流する機会も設けた。

   同僚に対しては国際交流基金が実施する訪日研修や、日本語能力試験(JLPT)(※2)を受けるよう働きかけた。代々協力隊員が派遣されているなかで支援に慣れて教師も受け身になりがちなので、具体的な目標を定め、いずれは自主的に授業を組み立てられるようになることを目指した。

   MTCでは、外国人の校長や上司らに、キリバス人の同僚らの提案が通りにくい場合が多かったという。ところが、石倉さんから伝えるとすんなり通ることが多々あり、キリバス人と上司の外国人の橋渡し役として存在感を発揮することも大切だと感じたという。

CASE2

日本の旬の情報を伝えながら日系人との絆を深める

   近藤さんが配属されたのは、サンパウロから車で2時間ほどの街で日系人協会が運営する日本語学校。古くは日本人移住者の子女のために創立された学校だが、日系人も世代を重ねるなかで日本語離れが進んでいる。一方、アニメなどの影響で日本に興味を持つ非日系ブラジル人が増えており、近藤さんの派遣中も生徒の比率は6対4と日系人より高かった。

「『令和』という字を一緒に書いてみよう!」と指導する近藤さん

「『令和』という字を一緒に書いてみよう!」と指導する近藤さん

   自分の活動終了後の継続性を意識していた近藤さん。直接指導より、現地教師のサポートに徹するよう心がけた。また、教師のレベルにより担当できるクラスが限られ、クラス編成が制約を受けていると気づき、教師向けの勉強会やJLPT対策にも時間を割いた。

   日本文化の授業では避難訓練を実施した。東日本大震災の際に、異国で災害に遭うと大変だという外国人の声を聞いたことがあり、赴任以前から温めていた企画だ。「ブラジルには地震がないので、いつか日本へ行くことが夢だと話す生徒たちが実際に日本を訪れたときに困らないようにと考えました。震災時の映像を見せると、いつもにぎやかな生徒たちもしんと静まり返って真剣なまなざしでした」と振り返る。災害時の合言葉「おはしも」(※3)のポスターも皆で作成した。

   日系社会での日本語教育の特徴について近藤さんは、「移住者のための学校が起源なので、ブラジルでも日本人らしさを失わないようにという、規律や文化教育の側面も強く引き継がれていると思います」と話す。非日系人の親でも、日本らしい教育を期待して子どもを通わせるケースもあるようだ。

避難訓練では、実際に机に隠れて身を守る練習も行った

避難訓練では、実際に机に隠れて身を守る練習も行った

   近藤さんは任期中、ブラジル各地の隊員と協力し、日系社会の人々が「パプリカ」(※4)に合わせて踊る動画を制作・公開した。日系人に対する日本からの認知度が低いことを憂いて、東京2020オリンピック・パラリンピックへの応援メッセージでアピールを図 ろうと考えたのだ。

   意外だったのは、ブラジル各地の日系社会からの反響である。広い国内に散在しているので、この企画を通じて互いに初めて存在を知った例もあった。

「私たちの活動終了後も、地域のつながりが広く波及して強まることで、日系社会や日本語教育の可能性が広がるのでは」と近藤さん。日系人や日系社会を結びつけることも、日本語教育隊員の役割といえそうだ。

活動の基本

身につけることで役に立つ日本の生活習慣や文化もあわせて伝える

※1…Marine Training Centreの略
※2…Japanese-Language ProficiencyTestの略。
日本国際教育支援協会と国際交流基金が共催する、日本語を母語としない人たちの日本語能力を測定し認定する試験
※3…「おさない、はしらない、しゃべらない、もどらない」の略
※4…「<NHK>2020応援ソング プロジェクト」の楽曲として、米津玄師が作詞・作曲・プロデュースした2018年リリースの楽曲

Text=海原美帆 写真提供=石倉志朗さん、近藤ゆみさん

知られざるストーリー