年末年始は特に注意を!
[特集] セルフディフェンスの見直しと徹底
~派遣国における安全対策~

安全対策アドバイザーが教える派遣国のセルフディフェンス

日夜海外の安全対策に注力している安全対策アドバイザーの方々に、犯罪・事故に備えるための具体的な対策を教わった。

■お話を伺ったのは
安全対策アドバイザー

交通安全対策 高橋政人さん
1982年警視庁警察官を拝命、2020年同退職、JICA入構

一般犯罪対策 市橋幸夫さん
1980年警視庁警察官を拝命、2018年同退職、JICA入構

一般犯罪対策 神谷郁雄さん
1982年神奈川県警警察官を拝命、2019年同退職、JICA入構

一般犯罪対策(性犯罪対応) 齋藤牧枝さん
1981年警視庁警察官を拝命、2018年同退職、JICA入構


Q.屋外を歩く際の注意点は?

A.❶バッグの斜め掛け、たすき掛けはやめる。

   ひもを引っ張られて引きずられたりすると、大けがをする恐れもあるため。

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   ❷スマートフォン(以下、スマホ)をむやみに取り出さない。

   画面を見ている隙にスリの被害に遭ったり、スマホ自体を盗まれたりする可能性があるため。どうしても道端で電話をしなければならないときには、「相手に後ろ(背中)を見せない」。背中側を壁にして立ち、周囲に気を配りながら手短に電話を済ませる。

   ❸イヤホンをして歩かない。

   ひったくり犯などが近づいてきたとき、外部の音が聞こえないと気づきにくくなってしまうため。歩くときには、視覚、聴覚を働かせ、周囲の動向に気を配りながら、目的地までさっさと歩く。見知らぬ人が肩をたたいて話しかけてきたら、犯罪行為の前触れと思ったほうがいい。不審な人物に取り囲まれないように注意を。


Q.貴重品の持ち方は?

A.分散して持つ。

   1つのバッグに財布、スマホ、鍵を一緒に入れない。「スマホは首から下げて胸ポケットに入れる。現金はインナーバッグを使う」などの工夫を。スマホが盗まれたり、使えなくなったりしたときに備え、緊急連絡先などを紙にメモして別に保存しておく。


Q.道で私服の警察官に声をかけられたら、従うべき?

A.JICA事務所の関係者に電話連絡し、電話を代わってもらう。

   過去には偽警官が私服で警棒のようなものを振り回していた事案や、本物の警察官が不当な理由をつけてお金を巻き上げようとした事案もある。


Q.車に乗客として乗ったとき、事故を防ぐ方法は?

A.乗車前に確認する。

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   整備と運転手をチェックし、シートベルトがないような車、酒臭い運転手の車には乗らない。乗車時はドアをロックし、シートベルトをする。運転手がスピードを出し過ぎていたら『安全運転でお願いします。急いでいませんので』と勇気をもって伝える。危険運転が止まらないようなら、料金を払ってでも降りる。

「自分の身は自分で守ること」を自覚し、事故に遭わない対策を。


Q.クリスマスやラマダンといった宗教行事期間中の注意点は?

A.道を渡るときは運転手とアイコンタクトを。荷物は最小限に。いつも以上の注意をする。

   運転手が早く帰宅したいと焦ることによる交通事故や、人混みに出かけていくことでスリやひったくり、テロに遭う可能性も考えられる。人が増えるタイミングに人の集まる場所に出かける必要があるかをよく考えて行動する。


Q.道端での性被害を防ぐには?

A.正面から歩いてきて、自分に視線を向けていたら「怪しい」と思い、Uターンや店に入ってリスク回避をする。

   外国人の女性なら触っても大丈夫、と思っている人もいる。怪しい人間が近づいてきたら、自分の手を伸ばして届かない距離の間合いを必ず取る。正面に立たず、斜め45度くらいに立つと通り抜けられる可能性が出る。飲食店で外に共同トイレがある場合は、単独で行かない。待ち伏せされて個室に押し入られた事案もある


Q.活動先での性被害を防ぐには?

A.我慢せずに自分の意思をはっきり伝える。

   断り方、言い回しは、JICA事務所に相談し、JICA事務所のナショナルスタッフや配属先の信頼できるスタッフに聞く。異性と二人きりにならない、メールや携帯電話番号などの個人情報を教えないなど、上手に線引きをする。男性でも女性でも性被害を受ける可能性は十分ある。「小さなことだからこれくらい」と受け入れたら、この人はOKだと思われてしまう。


Q.自宅警備員との付き合い方は?

A.ビジネスライクに接して、決して家に上げたりしない。

   雨が降ったときに洗濯物を取り込んでもらったり、ちょっとした買い物を頼んでお小遣いをあげたり、良好な関係を築こうと部屋に上げてお茶を出すといった行動が誤解を招く。性被害に遭った事例は女性だけでなく、男性もある。


Q.自宅侵入対策は?

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A.「ワンドアツーロック」、1つのドアに2つの錠前、あればドアチェーン、ドアガード、窓には鉄格子をつける。天井なども確認し、必要があれば修繕しておく。

   自分が家にいるときには、入られないようにすることが重要。来訪者にはチェーンをかけて接し、面倒でも、すべての鍵はかけて寝る。家の周囲の雑草は刈って見晴らしをよくしておく。普段使っていない部屋に犯人が隠れていた事案のほか、敷地内に隠れて外出を待っていたという事案もある。


Q.ホテルの貴重品管理方法は?

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A.スーツケース、セイフティボックス、身に着けるなど、現金や貴重品は3つくらいに分けて保管する。

   セイフティボックスに全財産は入れない。従業員なら開錠可能のため。


Q.自宅侵入に気づいたら?

A.助けを求める電話をしたり、サイレンを鳴らす。

   破壊できない防犯用具はない。寝室は最後の砦(とりで)と思い、犯人が扉などを壊している間に、警察、VC、JICA事務所の安全対策アドバイザーに連絡したり、サイレンつきメガホンを鳴らして近所に知らせたりと、時間稼ぎを。犯人が目の前に来た場合は、逆上する恐れがあるため、サイレンは鳴らさず無抵抗で。なお、サイレンつきメガホンは月に1度くらいで音のテストを。


Q.自宅が被害に遭ったら?

写真提供:久野武志/JICA

写真提供:久野武志/JICA

A.未遂も含めてVCに相談する。

   そこに住み続けないほうがいい場合もあるため、犯人の目的がお金や物品だけか、恨みを買っていないか、ストーカーなどの可能性がないかを振り返る。



■安全管理部からのメッセージ

   犯罪の形態は、日本国内も海外もあまり変わりません。屋外犯罪は、「スリ、ひったくり、置き引き」。屋内犯罪は、知らないうちに部屋のなかに入ってくる「忍び込み」。そのほかは屋内、屋外どちらでも起こり得る「強盗」です。ただし、例えば日本ではスマホは多くの人が持っているため、窃盗の対象になりにくいですが、途上国では窃盗の対象になり得ます。

「海外安全対策ハンドブック2021」

「海外安全対策ハンドブック2021」      

   特に現地に入って2年間活動をする隊員の方々の場合、現地の生活に慣れ過ぎて犯罪・事故に遭うケースもあります。また、「日本人だから大丈夫」「ボランティアという良いことをしているから大丈夫」など、油断がある方もいます。派遣前研修ですべての隊員に配布している「海外安全対策ハンドブック」を読み込み実践していただければ、たとえ被害に遭ったとしても、被害を最小限に抑えることができるはずです。ご自身の命を守り、2年間の活動を無事に終えるためにも、読み込んで活用してください。

※「海外安全対策ハンドブック2021」はこちらから。閲覧パスワードは派遣前訓練時に共有済(対外秘)。

Text=ホシカワミナコ(本誌) 写真提供=飯渕一樹(本誌)、ホシカワミナコ(本誌)
※Q&Aで使用している写真はイメージです

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