この職種の先輩隊員に注目!   ~現場で見つけた仕事図鑑

理科教育

  • 分類:人的資源
  • 派遣中:23人(累計:258人)
  • 類似職種:数学教育、小学校教育、環境教育

※人数は2022年9月末現在。

CASE1

山口孝太郎さん
山口孝太郎さん
パプアニューギニア/2014年度1次隊・東京都出身

PROFILE
大学は理学部で教員免許取得。新卒で協力隊に。帰国後は岩手県釜石市の任期付職員として震災の復興事業に携わる。現在、釜石市内の和菓子メーカーに勤務する傍ら、フリースクール設立を目指している。

配属先:セントジョセフ・カバレオ・デモンストレーション小学校

要請内容:7~8学年の理科・数学の授業の実施、身近な素材を使った理科実験の紹介・普及、同僚教師の教科知識や指導法への助言、ほかの隊員と連携した授業研究会などの実施。

CASE2

田中瑛子さん
田中瑛子さん
ペルー/2018年度2次隊・大阪府出身

PROFILE
小学生の頃から協力隊に憧れる。大学・大学院で宇宙推進工学を学び、機械メーカーに2年半勤務後、協力隊に参加。帰国後は建設会社に入社し、1年間のベトナム駐在を経て、現在は環境省に出向中。

配属先:ペルー国立地球物理研究所(IGP)

要請内容:研究所内のプラネタリウムで、同僚と共にプラネタリウムの投影や子どもたちがなじみやすいテーマでの科学実験を企画・実施し、科学の普及に協力する。

「理科教育」隊員は、主に小・中・高校の教員として、①理科の楽しさを伝え、生徒の興味を引き出す授業、②入手可能な材料や器具を使った実験や、教材・教具の作製、③現地の教員との授業研究や研修といった活動に従事する。また、教員養成校の教員として、教員を目指す学生に授業を行ったり、教育行政機関に派遣され、学校への巡回指導を行うこともある。科学館など学校以外の機関への派遣もある。

   理系学部レベルの専門知識と中学・高校レベルの理科を教える力、教具や器具不足でも創意工夫する柔軟性などが求められる。

CASE1

身近なもので実験し、考える力をつける理科を

   教員を目指すなかで国際的な視野を広げたいと、新卒で協力隊に参加した山口孝太郎さん。パプアニューギニアの地方にある小学校で7、8年生(日本の中学1、2年相当)の理科と数学を教えた。山口さんは3代目の隊員のため配属先もボランティアと働くことに慣れており、多いときには週に20コマの授業を担当して積極的に活動した。

「生徒たちは教科書を持っておらず、授業は板書をノートに書き写すことが中心でした。理科が日常生活の物事につながっていることを理解し、考える力がつくよう、身近な物で実験を行いました」

感染症対策隊員と共に市場や病院で大人向けの理科実験を行い、シラミなどの健康被害の啓発も行った

感染症対策隊員と共に市場や病院で大人向けの理科実験を行い、シラミなどの健康被害の啓発も行った

「濃い」「薄い」を知るために濃縮還元のジュースを水で薄めて果汁100%ジュースを作る計算をしたり、身近な物質の酸性・アルカリ性を調べる実験では、指示薬の代わりにムラサキイモの煮汁を使用し、酸性の試薬としてレモン汁を、アルカリ性の試薬には石灰水を用いて色の変化を見せたりした。

   赴任から半年後、山口さんは、公用語の英語で行われる授業を理解できない生徒がいることに気づいた。

「例えば、小腸の表面にある〝微絨毛(びじゅうもう)〟という単語はなじみがなく聞き流してしまう。簡単な英語で表現すると共に、現地のピジン語で補足説明しました」

   さらに、よりよく理解してもらうため、色違いの100個の風船を膨らませ、風船の色でヒダと突起などを表現、栄養を吸収する仕組みを説明した。

校内に畑を作って育てた野菜

校内に畑を作って育てた野菜

   山口さんは放課後も精力的に活動した。生徒たちについて集落に遊びに行ったり、校内で畑作りをする同僚に教わり、自らも野菜を栽培。生育を生徒たちに観察させた。また、ほかの理科教育隊員と協働し中等学校(日本の中学3年~高校生相当)入試の対策問題集の作成もした。

   一方、職場に理科専任教師がいない状況下でマンパワーとしての活動が中心になったが、ほかのアプローチもあったのかもしれないと振り返る。

「『よく働くなあ』と同僚教師たちに言われていました。私の授業をよく見にきてくれましたが、同僚たちは放課後すぐ帰ってしまうため、指導や研修をする時間はありませんでした。もっと根気強く働きかければよかったとも思います」

CASE2

子どもらがプラネタリウムに親しむ環境づくり

   大学院で宇宙推進工学を研究した田中瑛子さん。就職後、協力隊参加を考えるも、鉱工業分野の職種は3年以上の実務経験を必要とするものが多かった。そんなとき、子どもに天文学や科学の面白さを伝えるためにプラネタリウムの投影や科学実験を行うという、資格不要の要請を知って応募した。

   ペルーでは2008年に国立地球物理研究所(IGP)内にできたムツミ・イシツカプラネタリウム(※)が国内唯一のプラネタリウムだ。田中さんが赴任してみると、一般にプラネタリウムへのなじみは薄く、初めて訪れる人が大半だった。他方、要請時点より来館者が増えて忙しくなっており、平日は小中学校向け、日曜日には一般客向けに投影していた。

「真っ暗にして投影することを知らないために学校の先生でも照明が消えたことに慌てて騒いだり、児童たちは機械を触ろうとしたりするので驚きました。教育という以前に、まずは来館者に事故なく最後まで見てもらえるよう、投影前にプラネタリウムについて、テーマパークのキャストのように楽しく説明することが私の仕事の一つでした」

投影前に子どもたちにプラネタリウムについて説明する田中さん

投影前に子どもたちにプラネタリウムについて説明する田中さん

   主な利用者は児童や生徒だが、IGPは権威ある研究機関。併設の施設もサービス用ではないとの考えからか、プラネタリウムの存在を知らせる看板も、受付の料金表示さえもなかった。そこで、田中さんは館内に案内板を設置した。来館者がスムーズに移動できるようになったと感じたIGPは、外にも公式の看板を設置してくれた。

   また、来館者専用のトイレがなかったため、田中さんは設置をIGPに働きかけた。設置後はトイレの外壁に宇宙飛行士のイラストを描き、同じ任地の青少年活動隊員が活動する児童養護施設の児童に色を塗ってもらう計画も進めた。

「来館する児童らがプラネタリウムに親しむ環境づくりが活動の中心でした」

   回数は少ないながら、実験やイベントも実施した。プラズマを発生させたガラスボールに触って放電現象を観察する体験や、曇りがちなリマの数少ない晴れの日を狙った天体観測会を実施した。

「望遠鏡で満月を見た児童たちが興奮して踊ったり、職場から離れた街中で『プラネタリウムのお姉さん!』と何カ月も前に来てくれた女の子が声をかけてくれたときは嬉しかったです」

   日本人客の誘致を狙い、インカ帝国の星座をテーマに日本語版も含めた映像を制作していたが、コロナ禍で休館となり、田中さんは一時帰国中に任期が終了した。

「今も休館中で、同僚たちはオンラインでプラネタリウム講座を開いています。トイレに描いた宇宙飛行士を登場させてくれ、私が『児童や生徒たちに楽しんでもらいたい』と言っていたことが少しは伝わったと感じます」

活動の基本

理科への興味を引き出すために身近な材料で実験をしたり、
学ぶための環境づくりを行うことも

※ムツミ・イシツカプラネタリウム=ペルーでの天文学の普及を目的に、日本の文化無償資金協力で設立。ペルーの天文学研究に貢献した、故・石塚 睦博士の名前が冠されている。

Text=工藤美和 写真提供=山口孝太郎さん、田中瑛子さん

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