[特集] 座談会   つなげる力
佐賀県発 ウクライナ支援に挑むOVたち

佐賀県発 ウクライナ支援に挑むOVたち

2022年2月24日にロシアはウクライナへの軍事侵攻に踏み切った。日本政府がウクライナ避難民の期限付きの在留を認めたことから、日本でも受け入れが行われるなか、佐賀県では全国で初めて官民が連携し、受け入れから佐賀県内での生活サポートまで、ワンストップの支援を実現している。9月12日、佐賀県のウクライナ避難民受け入れに関わる5人の協力隊OVに集まってもらい、ウクライナ避難民の方々の状況やなぜ佐賀県で受け入れがスムーズなのかなどについて、座談会形式でお話を伺った。

※本文中のウクライナの避難している方々の名称について:各国政府の対応に合わせ、日本では「ウクライナ避難民」、他国で難民として保護対象にしている場合は「ウクライナ難民」と記載しています。

佐賀県で発足したウクライナ避難民支援プロジェクトとは

「SAGA Ukeire Network~ウクライナひまわりプロジェクト~」(SUN)

2022年3月9日に設立。佐賀県と県内の自治体、県内のCSO(市民社会組織)が連携し、ウクライナ避難民の受け入れをワンストップで支援するプログラム。それぞれの強みを生かし、佐賀県までの旅費、通訳、住居・生活物資提供、生活支援援助、医療・就労・就学支援、日本語教育支援などを提供する。参加CSOは今回の座談会参加者の所属団体のほか、「特定非営利活動法人佐賀子育て応援団ココロ」「公益社団法人Civic Force(ピースウィンズ・ジャパン)」「公益財団法人佐賀未来創造基金」など。

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■座談会参加メンバー

黒岩春地さん
公益財団法人佐賀県国際交流協会(SPIRA)   理事長   黒岩春地さん
<セントルシア/コミュニティ開発/2016年度2次隊・佐賀県出身>

佐賀県庁職員時代に佐賀県職員採用試験のJICAボランティア経験者枠創設に尽力、多くの協力隊経験者が入庁。設立50年を機に設置された「JICAボランティア事業の方向性に係る懇談会」(2015年6月~16年3月)委員。定年退職を機にシニア海外ボランティアに応募、セントルシアで視覚障害者の自立支援活動に取り組み、帰国後現職。

受け入れ前の面談、受け入れ後の生活全般を支援しています

大室和也さん
認定NPO法人難民を助ける会(AAR Japan)   佐賀事務所所長
大室和也さん
<ウズベキスタン/理学療法士/2010(平成22)年度1次隊・京都府出身>

大学で理学療法学を学び、社会人として実務経験を積んだのち、協力隊へ参加。帰国後、インドの理学療法の現場で学び、イギリス語学留学を経て、同団体入職。国内外で災害などが起きた際に先発メンバーとして現地入りし、緊急援助と並行してニーズ調査にあたってきた。佐賀県事務所では被災地の状況や国際協力について県民に知らせる役割も担う。

モルドバ、ウクライナでの支援活動や、佐賀県民へ国際理解教育を行っています

小川真吾さん
認定NPO法人テラ・ルネッサンス   代表   小川真吾さん
<ハンガリー/野球/1998(平成10)年度1次隊・和歌山県出身>

協力隊から帰国後、カナダ留学を経て同団体に入職。現在ウガンダに在住し、コンゴやブルンジなどの紛争地帯を巡回して地雷、小型武器、子ども兵士などの課題解決に向けて支援を行う。ウクライナ避難民支援においても、協力隊時代のネットワークも駆使し、緊急支援と現地ニーズ調査を行う。ハンガリーの事務所を拠点に団体としてウクライナでも支援を継続中。

ウクライナ国内に取り残された人々やハンガリーに避難してきた方々の支援をしています

岩永清邦さん
認定NPO法人地球市民の会   事務局長   岩永清邦さん
<中華人民共和国/野球/ 2006(平成18)年度3次隊・佐賀県出身>

新卒で協力隊に参加。帰国後同会に入職し、アジアを中心とした国際交流、国際協力活動をスタート。現在は佐賀県内外の被災地を支援したい人や団体が情報交換や協力を円滑に行えるよう支援する「佐賀災害支援プラットフォーム」の共同代表のほか、県内の空き家を国際交流の拠点づくりとして活用する「ゲストハウスHAGAKURE」の代表社員も務める。


山路健造さん
認定NPO法人地球市民の会
山路健造さん
<フィリピン/コミュニティ開発/2014(平成26)年度2次隊・大分県出身>

新聞記者時代から取材をしていた「地球市民の会」に協力隊から帰国後に入職。タイ事業を担当するなか、佐賀県内に住むタイ人同士のコミュニティを支援し交流の場をつくる「サワディー佐賀」を設立、代表就任(兼務)。同団体は地域活性化に貢献したとして、総務省「2020年度ふるさとづくり大賞」団体表彰に選ばれた。佐賀県協力隊を育てる会の事務局長も兼任。

SUNの事務局としてファンドの立ち上げ、団体間の連絡調整、避難民のビザ申請、住まいや生活のサポート、交流会などを行っています


――佐賀県には官民一体となってウクライナ避難民を受け入れて支援する仕組み「SAGA Ukeire Network(以下、SUN)」があります。本日はそのキーパーソンであり、海外協力隊OVでもある方々にお集まりいただきました。まずは自己紹介とSUNが生まれた経緯についてお話しください。

黒岩さん   公益財団法人佐賀県国際交流協会(以下、SPIRA)で理事長をしております黒岩です。ロシアによるウクライナ侵攻は私たちにとっても思いもよらぬ事態でした。2022年3月2日に岸田首相が、9日には佐賀県と佐賀市がウクライナ避難民の受け入れを表明。佐賀県内のCSO(Civil Society Organizations=市民社会組織)も「私たちに何かできることがあるんじゃないか」と議論をしてすぐさま行政と連携してできたのがSUNです。

   もともと佐賀県は国際協力や災害支援などに取り組む団体を全国から誘致しており、ウクライナの国内や周辺国でも支援活動を行っている認定NPO法人難民を助ける会(以下、AAR)、認定NPO法人テラ・ルネッサンス(以下、テラ・ルネッサンス)、特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン(以下、PWJ)などの事務所もあります。佐賀県内のCSOの強みは、さまざまな分野でお互いにできることを持ち寄って課題解決をするネットワークができているところです。

   その力を生かし、ウクライナ避難民を官民が一緒になって、受け入れから県内での生活サポートまでをワンストップで支援しています。こうした体制は全国でもほかに例がありません。

岩永さん   SUNの事務局を務める認定NPO法人地球市民の会(以下、地球市民の会)事務局長の岩永です。

   当会は1983年に佐賀県で設立されました。主にミャンマーやタイ、スリランカ、そして日本というアジア各リランカ、そして日本というアジア各国で教育、農業、村落開発、環境保全、国際交流といった事業を展開してきましたが、ウクライナでも困っている人がいるならば見過ごすわけにはいきません。

   私たちは3月3日にウクライナへの支援と協力の輪を広げる取り組みをする旨の声明を出し、CSOの仲間でもあるAARの大室さんに「一緒にできることはないか」と相談しました。

難民を助ける会の活動より。上:3月にいち早くモルドバの避難所入りし、ウクライナ難民の子どもたちにおもちゃを送った(写真提供=撮影:小峯弘四郎©AAR Japan)下:障害のあるウクライナ難民の方々への支援活動も行っている(写真提供=©AAR Japan)

難民を助ける会の活動より。上:3月にいち早くモルドバの避難所入りし、ウクライナ難民の子どもたちにおもちゃを送った(写真提供=撮影:小峯弘四郎©AAR Japan)下:障害のあるウクライナ難民の方々への支援活動も行っている(写真提供=©AAR Japan)

大室さん   AAR佐賀事務所長の大室です。AARは1979年に創設された日本発の国際NGOで、政治・宗教・思想に偏らず、紛争や災害などの困難に直面した人々への支援をしています。今までに緊急支援の担当者として約10カ国で紛争や災害が発生したあとの緊急人道支援や、障害者などを対象にした開発事業に従事してきました。

   今回のロシアのウクライナ侵攻でも、2022年4月下旬に隣国・モルドバの首都キシナウへ入り、現地の大学に設置された避難所や保養所などで、ウクライナ難民の女性や子ども、障害者の支援活動を行いました。AARは現在、モルドバを拠点として、現地の信頼のおける支援団体と連携して、支援物資の提供や、ウクライナ国内に残る障害者の方々の支援を行っています。

小川さん   アフリカのウガンダに駐在しているテラ・ルネッサンスの小川です。私たちはカンボジアの地雷除去支援から設立し、17年前から現在まで、紛争が長く続くこの地で子ども兵や小型武器がもたらす弊害の解決に向けて活動を続けています。

   ウクライナ支援に関しては、先遣隊が3月17日にウクライナの隣国のハンガリーに入り、私もそこに合流して緊急支援と現場のニーズ調査を行いました。その後ウクライナにも入国し、取り残された人々の調査と支援を重ねました。現在はハンガリーに事務所を構え、ウクライナ難民とウクライナ西部地域の国内避難民の生活支援を行っています。私は20年以上前に野球隊員としてハンガリーに派遣されました。今回ハンガリー事務所を設立するにあたり所長になってくれたのは、協力隊時代からのハンガリー人の友人です。

――ウクライナからの避難民を佐賀県に受け入れを行う際、方法や条件はどのようになっているのでしょうか。また、受け入れた避難民の方たちの現状についてお聞かせください。

山路さん   岩永と同じ、地球市民の会の山路です。SUNの事務局で広報的役割もしているので、受け入れ方法については私からお話しします。

   ロシアのウクライナ侵攻以前から佐賀県に住んでいるウクライナ人はお一人しかいませんでした。だからこそ、まずSUNでは日本に身寄りのない方を積極的に受け入れていく方針を定めました。募集要項、募集フォームをウクライナ語で作って公開しました。

   応募してくれた方とはメールでやりとりをしたあと、県と市、私たちCSOの三者が参加したZoom面談を実施。希望者を佐賀県に受け入れることがご本人にとって本当に良い選択なのかなどを検討しました。22年9月現在で10組20人を受け入れています。

黒岩さん   避難民受け入れのルートは二つあります。一つは日本ウクライナ友好協会を通じて、募集フォームから佐賀県への避難希望者を募るルート。もう一つは県や市、CSOそれぞれに避難相談があった案件を県で集約しつつ、個別に対応するルートです。テラ・ルネッサンスやPWJなど現地で活動する団体から「佐賀県に行きたいと言っている避難民がいる」といった話が来る場合もあります。

   佐賀県に来るにはウクライナ国外に出るというハードルを自力で越えていただかなければならないため、連絡を取り合っていた方が音信不通になってしまったこともありました。なんとか国外に出られても、あまりに体調が悪い方は日本までの30時間以上のフライトに耐えられないかもしれません。そういった方の場合は、ドイツなどの地続きのヨーロッパの国にいることをお薦めすることもあります。

山路さん   医療面でも手厚い支援を提供している日本政府のプログラムをお薦めしたこともありました。日本政府の受け入れの場合、健康保険・介護保険への加入だけでなく、医療費や介護費も支給しています。SUNは生活準備金と生活費が主な支給内容で、医療費支援については、国民健康保険加入のみです。ですから、受け入れた避難民の方に高額医療が発生した場合は自己負担額が大きくなる可能性があります。

黒岩さん   選定にあたっては経済的に余裕がなく、かつ緊急度の高い、身寄りのない家族を優先しています。遠い日本のなかでも佐賀県を選んでくれることも肝心です。佐賀県は東京都のような大都会ではなく、収入に開きがあることをオンライン面談でしっかりお伝えしているので、来てみてビックリというケースは今のところありません。地方の平和で静かな環境で暮らすことを喜んでいる方が多い印象です。

小川さん   テラ・ルネッサンスのSUNとの連携は、現地の情勢を佐賀県の皆さんに伝える役割が一つ。そして現地では佐賀県への避難を希望する方を募るポスター貼りなども担当させてもらっています。

   そうした面からも、受け入れる人を選定する基準を持つことは重要だと思います。ウクライナ国外に出られる人は、ある程度の蓄えがあってホテルに泊まることができたり自家用車を持っていたりします。ネットを使って情報収集もできます。

   一方で、ウクライナ国内にはシングルマザー、病気の男性など、社会経済的に脆弱な人たちが多数取り残されています。国内避難民を受け入れているウクライナ西部の家庭でも、戦争が長期化して疲弊しているケースも少なくありません。私たちはそのような人たちとSUNとのマッチングを図ろうとしているところです。ウクライナ避難民支援の中心となっているのは、佐賀事務所にいた男性ですから、SUNとの連携もスムーズです。

SAGA Ukeire Networkの活動より。上:到着した6組目のウクライナ避難民の家族を空港で出迎える人たち下:避難民の方々へ提供する佐賀県内の住居。先に来日した方が新規入居者向けのオリエンテーションに参加して助け合うこともある(2点とも写真提供=SUN)

SAGA Ukeire Networkの活動より。上:到着した6組目のウクライナ避難民の家族を空港で出迎える人たち 下:避難民の方々へ提供する佐賀県内の住居。先に来日した方が新規入居者向けのオリエンテーションに参加して助け合うこともある(2点とも写真提供=SUN)

大室さん   我々AARの場合は、現地から佐賀県への受け入れに関しては連携していませんが、SUNの一員として県内での生活支援の手伝いをしたり、佐賀県の方々に現地の様子を知らせたり、といったことで連携しています。

山路さん   実際に佐賀県に受け入れが決まった方ですが、オンライン上での日程調整から佐賀県の住まいの入居手続きなど、入国直前直後のコーディネートは、佐賀県と連携しながら私たち地球市民の会がお手伝いしています。その後の生活サポートは黒岩さんがいらっしゃるSPIRAが中心となる、という役割分担です。

黒岩さん   ビザ発給に関しては在外日本大使館に対して佐賀県が関わるSUNが窓口となっているのは効果的です。民間の団体ではなかなかビザが出ないものですが、県庁が「この人を受け入れます」と連絡すれば対応はまったく異なります。

――佐賀県が受け入れたウクライナ避難民の方々が求めていることや、佐賀県で生活するうえでの課題はどのようなことでしょうか。

黒岩さん   求めていることの第一は「安心できる生活」でしょう。佐賀県ではCSOだけでなく県や市というローカルガバメントが一体となって、ビザ申請から旅費支給、住宅提供、生活相談、日本語教育支援などをワンストップで手がけていること、受け入れて終わりではなく、その後のサポートもしています。これは大きな安心材料につながっていると自負しています。多くの応募がありますが、予算が限られていることもあり、当面は合計30組を目標に受け入れをしています。

   受け入れた方々は90日間の短期ビザで日本に来ていて、就労ビザを取れば1年間の延長が可能です。その先のことは現状では考えていませんが、議論していかねばならないと思っています。ウクライナに家族を残す避難民の方がほとんどなので、本音では一刻も早く帰国したいでしょう。でも、現地の情勢が改善しなければ日本に移住するという選択肢も出てくるかもしれません。

山路さん   4月15日に来日した1組目の女性2人はそれぞれデザイン会社と幼稚園で働いています。しかし、それ以外の方々は今のところ就労には結びついていません。そこは課題といえるかもしれません。

黒岩さん   つらい体験で精神的に疲れ切ってしまっている方も少なくありません。当面の住居と生活資金はSUNで提供できているので、まずは佐賀県での生活を楽しめるようになってほしいと思っています。ただし、避難民であっても社会から必要とされているという自覚は大切です。

小川さん   それは確かにそうですね。自尊心を保つために「自分は誰かの役に立っている、貢献している」という実感が必要です。そこでテラ・ルネッサンスではCSCs(社会貢献型現金給付支援)に注力しています。例えば、炊き出し拠点での調理や配膳、皆の前で演劇を披露するなど、個々の得意分野を生かしたさまざまな仕事、つまり社会貢献の機会を提供し、対価としての現金を給付するのがCSCsです。支援されるだけではない相互扶助の関係性をつくることは重要で、現在ウクライナやハンガリーの支援現場でも実施しています。

黒岩さん   ウクライナ避難民の方々が佐賀県で就労する際には、語学がとても重要になります。どんなに高度な技術があっても、英語も日本語もできなければ、県内でのアルバイトも限られてきます。国際交流とは違いますから、地元の人と組んで何かを真剣にやるためには語学力が必須です。そのためにSPIRAでは日本語講座を無料で提供しています。講座中の部屋から笑いが起こるのが聞こえたりすると嬉しくなります。

大室さん   日本語の習得は確かに佐賀県で生活するうえで大きなハードルですね。これはウクライナ語とも近いロシア語が通じるモルドバなどとは異なる点だと思います。SUNのメンバーによる、ウクライナ避難民の方々との交流会やイベントなどを通してでも、少しずつ日本語の生活に慣れていってほしいと思います。

山路さん   ウクライナ避難民のリーダー格になってくれている女性がいて、何かを伝えれば全家族に連絡してくれるといったネットワークも築けています。おかげで、花火を一緒に見るイベントには全員の方が参加。花火でミサイルの恐怖を思い出した方もいて申し訳ないことをしたかなと思ったのですが、「ウクライナでもいつか平和な花火が上がったらいい」とも言ってくださって救われました。

テラ・ルネッサンスの活動より。
上:ウクライナで取り残された方々にも支援用の調理や配膳の仕事をして収入を得てもらい、自尊心を保てるよう支援をしている
下:小川さんの下で職業訓練を受けたウガンダの元子ども兵らがウクライナの方々へと編んだマフラーを贈った(2点とも写真提供=テラ・ルネッサンス)

テラ・ルネッサンスの活動より。 上:ウクライナで取り残された方々にも支援用の調理や配膳の仕事をして収入を得てもらい、自尊心を保てるよう支援をしている 下:小川さんの下で職業訓練を受けたウガンダの元子ども兵らがウクライナの方々へと編んだマフラーを贈った( 2点とも写真提供=テラ・ルネッサンス)

大室さん   それから、SUNはとにかく避難民一人ひとりに丁寧にヒアリングをしているのが、安心につながっていると思います。県が提供する住宅には県職員も住んでいますし、SPIRAの職員がSNSで連絡を取り合い、「トイレの水が流れない」などの小さなトラブルにも対応している。見知らぬ土地で暮らし始めるにあたり、すぐに頼れる人がいるのは大事なことです。

黒岩さん   SNSのやりとりは毎日何件にも及びます。英語ができない方にはロシア語の電話通訳を入れたりしています。ウクライナ語の通訳も、事前に連絡を入れておけば手配できます。以前から専門の通訳会社と契約しているので比較的こうした対応には慣れています。

――佐賀県ではなぜSUNのような仕組みが実現したのでしょうか。皆さんのお考えをお聞かせください。

岩永さん   佐賀県の特徴は官民の連携が進んでいることです。私たち海外協力隊OVが多いこともあって、CSO同士のコミュニケーションも盛んです。例えば佐賀豪雨の災害支援でも官民が連携し、毎週のようにミーティングをしたりして、連絡を取り合ってきました。それぞれの団体の得意分野を生かし、有事の際にはできることを行って協力し合える関係が構築できているんです。

小川さん   テラ・ルネッサンスの本部は京都府にあります。都会には強力な支援者もいて、CSOもたくさんあり、物事がシステマチックに進む利点がある。いわば量の支援です。

   一方の佐賀県では、オーダーメイド型の質の高い事業ができます。やはり官民を問わずに気軽につながって協力できることが大きいのではないでしょうか。一人ひとりの状況や心境に合わせてじっくりと支える土壌が佐賀県にはあるように思います。

大室さん   確かに、佐賀県はCSOと県庁など行政との距離はすごく近いですね。AARの本部は東京にありますが、佐賀県によるCSO誘致プログラムを受けて、16年にバックアップ事務所をこの地に設立しました。私が事務所長になったのは19年ですが、同じ協力隊OVの方々をはじめ、ほかのCSOの人たちともすぐに良い関係を築くことができました。

岩永さん   佐賀県にはやりたいことがある若い人を先輩たちが手助けする風土があるんですよ。明治維新の偉人もそうやって輩出されました。コンパクトな県なので同じような思いを持つ人が出会いやすいという側面もあります。

大室さん   それでいて小さすぎないので、それぞれの分野のプロがいますよね。官民が一体になれば強力な受け入れ体制が整うと感じています。

黒岩さん   官民の協力に関しては20年前に起爆剤となる出来事がありました。03年に当時全国最年少で当選した知事が「県民協働」の看板を掲げたことです。地方主権の時代にはCSOの力を積極的に活用すべきだという考えの下、公共サービスに民間が参入する際はYESを基本として、NOと答える場合は行政側が理由を示すことになりました。その結果、今ではどの部署でも民間との協働が進んでいるという全国でもまれな県です。

山路さん   県内には現在6400人近い外国人が住んでいて、佐賀県では災害時に英語、ベトナム語、中国語、インドネシア語、韓国語、タガログ語、ネパール語、やさしい日本語による情報を出していますが、そのほかに私が代表を務める「サワディー佐賀」がタイ語、ビルマ語、シンハラ語による情報も発信しています。

   SUNでの経験を通して、いろいろな仕組みが多文化共生の方向に進めばいいですね。ウクライナ以外の国々からの避難民や技能実習生、留学生も含めて、多様な人が暮らしやすい佐賀県になったらいいと思います。

黒岩さん   ウクライナの事例だけで終わらせたくない、という思いはみんなが持っていますよね。

SUNではウクライナを知るセミナー「ウクライナナイト」(上写真)や避難民の方々との交流会、花火大会(下写真)、佐賀酒体験会など、さまざまなイベントも企画している(2点とも写真提供=SUN)

SUNではウクライナを知るセミナー「ウクライナナイト」(上写真)や避難民の方々との交流会、花火大会(下写真)、佐賀酒体験会など、さまざまなイベントも企画している(2点とも写真提供=SUN)

大室さん   日本政府をはじめとしてウクライナ避難民に対して手厚い受け入れ体制を取っていることはいいことです。これを機会に、日本にいて困り事を抱えているさまざまな国の人に対しての支援が改善されればと思います。

小川さん   コンゴ紛争が日本ではほとんど顧みられないのに対して、今回のウクライナ危機の注目度の高さには戸惑いを覚えるのは確かです。しかし、放っておくとウクライナが第二のコンゴになってしまうと感じ、テラ・ルネッサンスではハンガリー事務所を開設して支援を始めました。

   ウガンダの長老から「人と人との違いは紛争の種ではなく喜びの種だ」と聞いたことがあります。違うからこそ、力を合わせればより大きな力を発揮できるという意味です。私たちNGOだけで解決できることは少ないし、一つの専門分野だけで成し遂げられることも少ない。私たちは協力隊時代に異文化のなかに入って生活をしてきた経験を持っています。こうした強みを地域でも発揮できればいいと思っていましたが、佐賀県では実現できていると思います。

――最後に、ウクライナ難民・避難民への支援活動をどのように継続していくのかについてお聞かせください。

小川さん   テラ・ルネッサンスでは、ウクライナ支援を始めるにあたって、ほかの地域での支援活動を減らすことはしないと最初に決めました。ウクライナ支援活動は、それに対して集まった寄付金で活動する、ということです。

   寄付金額に応じて三つの選択肢がありました。一つ目は、日本から人員と物資をピストン輸送するだけにとどめること。二つ目は、1年間限定で拠点をつくって活動すること。そして三つ目は現地に法人格をつくって復興支援までを中長期的に手がけることです。幸いなことに寄付金が集まり、三つ目を選択することができました。

   もちろん、私たちの世代で解決できない問題もたくさんあるでしょう。正直、無力感にさいなまれることもあります。でも、現在ではなく50年後の子どもたちに評価してもらおうと思いながら、自分たちがやれることを地道に続けているところです。

大室さん   AARとしても、相当長期的な活動となることを念頭に支援を続けています。11年に発生したシリア内戦は10年を超えてもなお、終結していません。支援の終わりを見つけるのは難しく、そのことは今回のウクライナ避難民に手厚い支援を行っている行政も感じ始めていることだと思います。

   佐賀県のように官民一体となった支援体制を恒常的なプログラムにするのが理想だと私は思います。制度などの仕組みをつくるのが官で、そこから漏れてしまうところをきめ細かくカバーするのが民。補完関係として最適です。もちろん、そのための財源も必要です。

岩永さん   私も同感です。受け入れた人をほったらかしにするのが一番良くありません。

   私は今回の取り組みで官とCSO、そして地域の三者が連携することの重要性を改めて感じました。それぞれが良い方向に変化しているのも感じます。今後、さまざまな社会課題に対して三者が協力して継続的に取り組めるように力を尽くしたいです。

山路さん   残念ながらウクライナ避難民への日本人の関心は早くも薄れてきています。3月当初はたくさん集まった寄付金も、現在は週に1回振り込みがあるかどうか、というレベルです。

   新たな受け入れをしたときにお金がない、といった事態だけは避けるために努力しています。資金面をはじめ問題は山積みです。でも、最後には支援に関わったすべての団体が「あれは自分たちでやったんだ」と自信が持てるような支援になればいいと思います。

大室さん   私も現地のAARの職員と連携を取って、これからも佐賀県内の学校などでウクライナ難民の現状や国際協力について、話をしていきたいと思います。

黒岩さん   日々やることがたくさんありすぎるSPIRA職員も、最近は疲労がたまってきています。でも、さまざまな問題を抱えながらも誇らしい気持ちは持ち続けていたいですね。

   この座談会に出席した人だけでなく、私たち協力隊OVは根っこのところでは陽気です。ふてぶてしいほどの明るさがなければ、協力隊の活動はできませんから。だから、ウクライナ避難民の方々と接するときも、その陽気さを前面に出していきたいと思っています。なにか問題が起こってもワイワイガヤガヤと話し合い、肩をたたき合いながら一緒に笑って前に進んでいきたいものです。


10月の交流会は多くの参加者でにぎわった(写真提供=SUN)。9月の取材以降も佐賀県でのウクライナ避難民の受け入れ数は増え、2022年10月末現在で11家族23人に

10月の交流会は多くの参加者でにぎわった(写真提供=SUN)。
9月の取材以降も佐賀県でのウクライナ避難民の受け入れ数は増え、2022年10月末現在で11家族23人に


Text=大宮冬洋 Photo(座談会)=ホシカワミナコ(本誌)

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