地域と共にある宿-OV宿と地域のつながり-

弘前の内と外がつながる交流拠点[ORANDOの二階]

石山紗希さん
石山紗希さん
<ガボン/野菜栽培/2012(平成24)年度2次隊・青森県出身>


HIROSAKI ORANDOの外観。地元の街歩きツアー運営団体などとも連携を始めている

HIROSAKI ORANDOの外観。地元の街歩きツアー運営団体などとも連携を始めている

「単なる安宿というだけではなく、来た人が弘前の人とつながれる拠点を目指しています」。そう話すのは、青森県弘前市でゲストハウス「ORANDOの二階」を運営する石山紗希さんだ。

   このゲストハウスはその名のとおり、「HIROSAKI ORANDO」という、カフェやギャラリーの機能を持つ複合施設の2階を改装した宿である。1階のカフェスペースでは街の人による日替わりバーテンダーなどの企画があったり、ギャラリーでは地元の芸術家や団体を中心とした展示会やイベントが行われ、宿泊客は、ここで地域の人々と交流できる。こだわりのポイントは弘前らしさを意識してリンゴ箱で造ったドミトリーのベッドで、450個のリンゴ箱を組み上げた力作だ。木の香りが宿泊客に好評だという。

右:リンゴ箱を組んで造ったベッドは全12床。使用済みの箱なので、よく見ると仲買人の書いたメモなどが残っているという。左上:リンゴ箱ベッドの制作・設置には八戸工業大学感性デザイン学部・工学部の学生が協力した。宿に設置している「チャレンジャーズボード」。左下:ORANDOに集う人の取り組みやSNS情報を、宿泊客に紹介する

右:リンゴ箱を組んで造ったベッドは全12床。使用済みの箱なので、よく見ると仲買人の書いたメモなどが残っているという。左上:リンゴ箱ベッドの制作・設置には八戸工業大学感性デザイン学部・工学部の学生が協力した。宿に設置している「チャレンジャーズボード」。左下:ORANDOに集う人の取り組みやSNS情報を、宿泊客に紹介する

   石山さんはゲストハウスだけでなく、施設全体の創設と運営に関わってきた人でもある。青森県出身で県内の大学を卒業した石山さんは、新卒で協力隊に参加し、ガボンで栽培指導などの活動に従事した。故郷を遠く離れたアフリカでの生活を経て、帰国時に将来のビジョンを考えたとき、「日本人、特に青森県民としてのアイデンティティを強く感じるようになり、自分が地元を盛り上げる!との使命感さえ燃やしていました(笑)」。

   都内のNPO法人で、地域活性化事業やインターンシップなどの調整に係る業務を3年間経験したのち、2018年に帰郷した石山さん。全国で起業家の移住促進と地域ベンチャー開発を行う一般社団法人Next Commons Lab(NCL)が立ち上げたNCL弘前の初期メンバーとなり、弘前市と共に地域課題解決の取り組みを始めた。そこで元セレモニーホールの空き店舗を借りて活動拠点とし、津軽弁で「私たち」を意味する「おらんど」にちなみ、拠点をHIROSAKI ORANDOと命名した。翌19年からはメンバーやインターンも増えるなか、段階的に機能を拡充してきた。

リンゴ箱ベッドなど2階の空間は、地元出身の建築家・蟻塚 学氏が設計した

リンゴ箱ベッドなど2階の空間は、地元出身の建築家・蟻塚 学氏が設計した

   そして、22年には弘前市の関係人口(※)創出事業を受託。「Entre!ねぷたコース」というプログラムを企画し、宿泊機能の整備を進めた。これは8月1日から始まる弘前ねぷたまつりに県外の人を募り、祭りの前後にわたって参加団体と共にねぷたの制作・運行など運営側の活動に携わってもらう企画だ。参加者の宿舎・拠点として、施設の2階をゲストハウス化して提供する計画であった。

   2月には宿などを運営する会社を設立し、クラウドファンディングなどで資金を調達。4月ごろから改装を進め、祭りに先駆けて7月から集まった参加者17名を無事受け入れることができた。その後、8月8日に正式開業して現在に至る。「弘前の人との交流促進という意味では、一人旅のお客様がもっと増えるとよいと思います。人や情報の交わる拠点として、ORANDOを目的に来てもらえるようにしたいです」。

基本情報

ORANDOの二階

2022年8月開業/住所:青森県弘前市百石町47-2
部屋数・定員:男女共同りんごドミトリー定員12名、女性専用ドミトリー定員8名、和室ドミトリー定員2~3名 ※和室は最大6名で個室として利用可能
宿泊料金:ドミトリー素泊まり1名3,000円、和室ドミトリー7,500円(連泊割引プランあり)
アクセス:JR弘前駅から徒歩15分、弘南鉄道大鰐線中央弘前駅から徒歩10分、青森空港から24km
Mail: orandoplus@gmail.com
ウェブサイトはこちら

※関係人口とは、移住した「定住人口」や、観光に来た「交流人口」とは異なり、特定の地域と継続的かつ多様な形で関わる人々を指す言葉。

Text=飯渕一樹(本誌) 写真提供=石山紗希さん

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