[特集] 開発コンサルタントとして活躍する
先輩隊員の失敗や経験に学ぶ
ニーズの引き出し方

CASE2   ニーズを知るには仮定を持つこと。
そのための情報収集は必須です

髙梨直季さん
髙梨直季さん
パプアニューギニア/村落開発普及員/2010年度4次隊・千葉県出身

大学院で教育と開発を研究し、協力隊に参加。帰国後、協力隊専用の就職サイトを利用し、株式会社かいはつマネジメント・コンサルティングに就職し現職。専門分野は民間会社の海外進出支援、新規事業開発、市場調査など。アフリカやベトナム、パプアニューギニアなどの案件に関わっている。

すべては任地の調査から始まる!
最終処分場近くの村で、村の概要を聞いているところ

(以下も含めた写真4点はすべてコンサルタントとして、パプアニューギニアの医療廃棄物管理案件について関わったときのもの。)最終処分場近くの村で、村の概要を聞いているところ

   協力隊時代は、村落開発普及員としてパプアニューギニアで、現在は開発コンサルタントとしてアジアやアフリカを中心に活動している髙梨直季さんは、「現地のニーズを引き出すためには、任地の情報を調べておくことが大切」という。

「ニーズを知るには、仮定を持つことが大前提ですが、そのためにはまず任地のことをしっかりと調べておくこと。任地のことを全く知らないまま、何か困っていることは何ですか、ニーズは何ですかと聞かれても相手は困ります。コンサルタントも同じで、例えば『アフリカで農業機械のニーズを探ってきてください』と言われた場合、そもそもその国に適している作物が何かを知らないまま、何の農業機械がほしいですかと聞いても、相手も『おまえ、それも調べていないのか』って思われてしまうんです」

   そう話す髙梨さんも、かつては事前情報や先入観があると、現地を色眼鏡で見てしまい、相手の真のニーズがくみ取れないのではないかと思い、あまり下調べをしなかったという。

廃棄物処理担当者から医療廃棄物処理の現状について聞き取りを行った

廃棄物処理担当者から医療廃棄物処理の現状について聞き取りを行った

「そうじゃないんですよね。事前情報があること、かつ色眼鏡で見てしまうことを心得たうえで、相手の話を聞く。この二つを組み合わせないと、本当のニーズはつかめないと思います」

   事前情報があることで、相手の話からもニーズを見つけ出しやすくなるという。

「話を聞くときは、できるだけ相手に話してもらいますが、そのときに事前に調べていれば、相手の話のなかからキーワードを見つけやすくなります。キーワードが見つかったら、そこを深堀りしていくわけです。相手に時間がないと言われたときも、質問を絞って聞けるので、よい調査結果を持ち帰れることが多いですね」

「お金がない」と言われたときこそ腕の見せどころ

   相手の話を聞くときに、よく言われるのが「お金がない」。身もふたもないせりふに、前に進めなくなってしまう隊員も少なくないだろう。

「すべてにおいて『お金がないからダメだ』というのは、よくある話です。でも、何が不足してるのか、物品なのか技術なのか、それを聞いていくと、物品なら代替できるものもあるし、技術なら周りの人間の知力を結集してできることもあります。お金がないなら、どうすればいいかを考えるのが協力隊として重要なところですし、相手のニーズに応えるやり方だと思います」

   髙梨さん自身も、協力隊時代に隊員同士が持つノウハウ・技術を共有する研修を開いたことがある。ただし、途上国でこういった研修を開いても、なかなか参加者が集まらないのも実情だ。

医療機関との議論をファシリテーションする

医療機関との議論をファシリテーションする

「現地の人にとって、研修というのはアディショナルワークなんですよね。研修なんか出なくても生きていけるし、なぜ給料ももらえないのに自分の時間を使って仕事の負担を増やしてまで出なきゃいけないのかという話になる。日当や宿泊費をもらっても割に合わないと。でも絶対に役立つ研修であれば、たとえ日当が安かったり、なかったとしても来てくれます。それでも来ないなら、もしかしたらニーズの読み違えがあるかもしれない。単に善意の押しつけになっているかもしれない。こういう研修がプラスになるだろうと思っていても、参加者が集まらなければ、それが本当にプラスになるかどうかは改めて考える必要があるということです」

    プロジェクトをするということは、相手に負担をかけるということ。その前提を忘れてしまうと、自分たちが援助者だというおごりが出てしまい、活動がうまくいかなくなる可能性があると髙梨さんは常々感じている。

「私自身、コンサルタントとして、時にそういう気持ちで対峙(たいじ)している自分に気づくことがあります。その気持ちをなくすことは難しいけれど、それはよくないとおごりの気持ちが湧き出るたびに、自戒しています」

   さらにニーズを引き出すために、相手の話を聞くのと同じぐらい、現地に足を運ぶことも重要だという。

「現地に行ったからこそ、起きていることや実際のニーズがわかるので、私は可能な限り、現地に足を運び検証することで、本当のニーズをつかんでいます」

マイナスからプラスになっただけでも大きな成果

   今でこそ事前調査から仮説を立てて、計画的に動いている髙梨さんだが、東セピック州のコミュニティ開発部に配属された協力隊時代は、行き当たりばったりだったという。それこそ学校や幼稚園に突然訪問をして、やってほしいことを聞き、その場で実施するという方法で行っていたため、華々しい成果は上げられなかったと振り返る。それでも自分なりに成果と思える部分もあったそうだ。

パプアニューギニアの投資庁に対してスキームについて説明する

パプアニューギニアの投資庁に対してスキームについて説明する

「私の場合、前任者が配属先とうまくいかなかったようで、着任直前に『協力隊は必要ない』と配属を拒否されたんです。それを調整員の方が説得して、なんとか配属を認めていただいたという経緯がありました。ところが、私が任期を終えるときには『次の協力隊は来ないのか』と配属先の気持ちが変わっていました。マイナスから始まったけれど、最後は多少プラスに持っていくことができた。それだけでも私にとっては成果だと思っています」

   持ち前のガッツで、最初に立ちはだかった壁を見事乗り越えた髙梨さん。髙梨さんほどではないにしても、最初の壁は誰にでもある。そんな壁を乗り越えるための秘訣(ひけつ)を最後に教えてもらった。「今もそうですが、その国の言葉は使えなくても、習おうという姿勢は見せます。食事もなるべく地元のものを食べて、その感想を地元の人に伝える。そういう小さな積み重ねが大切だろうと思っています。例えば現在、ベトナムの養豚の案件に関わっていますが、ブンチャーという豚料理があるので『ブンチャーを食べましたよ』というところから話を始めます。そうすると相手は養豚の事業に来て、豚肉を食べて、しかもブンチャーというベトナム語をしゃべっている、と喜んでくれます。相手のことを理解しようとしないで、信頼関係を築いてもらおうというのは、虫がよすぎる気がします。まずこちらから理解する。そのために事前情報を集めるということです」。

情報収集の仕方

任地の情報を調べるときは、JICA のプロジェクト報告書や調査報告書が役立ちます。その国がどういう方向に向かっていて、どういう分野で何が必要とされているかということが詳しく載っているので、ほかの国でも類似分野や類似事業の参考になります。JICA図書館で検索できますし、現地の事務所に問い合わせても、読ませてもらえると思います。

落ち込んだときの対処法

失敗は山ほどありますが、多くは自分のなかで深刻に捉え過ぎ、いらぬ心配までして落ち込んでいました。そんなときは趣味に没頭したり、早めに寝たりしてリセットします。料理が趣味なので、協力隊時代は牛骨を煮出して1日かけてラーメンを作ったことも。落ち込んでも、それがわかってラッキーだったとポジティブに捉える。成果は自分の捉え方次第です。落ち込んだときほど、自分のしてきたことを棚卸しするのがおすすめです。

ニーズを引き出す3つの効果的な方法

1.任地の情報を調べておく
2.お金がないなら代替案を提案
3.現地に足を運ぶ

Text=池田純子 Photo=ご協力いただいた各位

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