失敗に学ぶ
~専門家に聞きました!   現地で役立つ人間関係のコツ

今月のテーマ:同じ専門職のCPや同僚とうまくいかない

今月のお悩み

▶配属先に技術を紹介しようとすると、同僚たちから反発を受けてしまいます(教育分野/中南米/女性)

   任地の小学校で先生たちに授業方法の指導を行っています。生徒が楽しく学べるよう、日本式の授業方法や、日本から取り寄せた教材を先生に提案したのですが、反応が思わしくありません。強く勧めようとすると、「それなら自分でやればいい」と反発されてしまいました。

   試しに新しい授業方法を実施すると、生徒たちは楽しんで授業に取り組んでくれるので、やり方は間違っていないと思います。どうすれば、先生たちにも気持ちよく積極的に参加してもらえるのでしょうか。

今月の教える人

渡邊雅行さん
渡邊雅行さん
ネパール/作業療法士/1986年度1次隊・愛知県出身

隊員時代はネパールの首都カトマンズのリハビリテーションセンターで活動し、入所者の機能訓練や日常生活指導に従事。任期延長して取り組んだコミュニティ・ベースド・リハビリテーション(CBR)がライフワークとなる。常葉大学准教授を経て、現在は富山県内の精神科病院で作業療法士・理学療法士として勤務。JICA海外協力隊技術顧問(リハビリテーション分野)を務める。

渡邊先生からのアドバイス

▶CPたちのやり方を聞き、さりげなく自分のやり方を示す   まずは現地式を尊重する姿勢を忘れずに

   私が技術顧問として相談を受けたり、事例を聞くなかでも、カウンターパート(以下、CP)たちとの人間関係に苦労される隊員は少なくありません。特に同じ専門同士という場合、現場での主導権の問題が起こりがちです。隊員は技術指導で赴いている一方、相手は長く配属先の現場で働いてきた経験があり、自国の事情には自分のほうが通じているとのプライドや責任意識も持っているので、考え方の衝突が起こってしまうのです。この状況が進むと、「もうあの日本人から指導されたくない」「一緒にいたくない」などと決定的な亀裂にまで発展しかねません。

   私が関わっている職域でいえば、理学療法士などは途上国においてもすでに人材が多く、しかも現地では高学歴のエリートでもあることから、外国からやって来たばかりの隊員からの口出しを不快に感じてしまうケースがあるようです。他方、私自身は隊員時代には作業療法士としてネパールへ派遣されたのですが、現地には作業療法士の養成学校すらなく外国人ボランティアしかいない時代でしたので、知識を持った人が来てくれたということで喜ばれました。やはり、現場でお互いの職分が重なると難しい部分が大きいのだと思います。

   そうした状況でお薦めしたいのは、現地でどのような治療法や評価法を用いているのか、まずはCPに聞いてみることです。いきなり日本のやり方を伝えようとするのではなく、相手の知見を尊重して接すれば、喜んで話してくれて、それでは日本ではどういう方法を取っているのか?という質問への流れもつくりやすいはずです。私は訓練生への研修のとき、最初は言葉も何もわからないのだから、まずは生活習慣を学ぶことから始めるようにと話していますが、活動に関わる技術や知識も同様と言えるでしょう。

   ただ、相手が関心を持つまで待つと、時間がかかるのが難点です。任期の終盤近くになってようやく日本での臨床技術を教えてほしいと請われたというケースも聞きますので、決して活動期間が長いとはいえない協力隊員の場合、いたずらに待ち続けるわけにもいきません。

   そこで、もう一つのアプローチとして、自分が何をやっているのかそれとなく見せるのもよいでしょう。医療系でいえば、自分が関わった患者のカルテを現地語で作成し、言葉の添削などをCPにお願いするという手があります。記録や資料を、何げなく目に入る場所に置いておいたという隊員もいました。もちろん、実際の作業をさりげなくCPに見えるところで行うのも良い方法だと思います。

   任期終了後、私は首都カトマンズ近郊の村で保健サービスに関わっていた元CPのネパール人を訪ね、一緒に村内の家を訪問したことがあります。そこで熱を出してせきをしている子どもがいる家に行った際、居合わせたボランティアの学生とおぼしきフランス人の若者たちが元CPに「なぜ病院へ連れて行くよう親に言わないのか」と訴えてきて、それに対して元CPが怒った場面がありました。元CPは元来温厚な人物なので私も驚いたのですが、その子の親にはお金がなく、連れて行きたくとも行けない事情があったようです。そうした現地の事情を知らずにわかったようなことを言われると、やはり腹が立ったのでしょうね。これも、「なぜ病院へ行けないのでしょうか?」などと問いかけるようなスタンスから入れば、反応は違ったかもしれません。

   協力隊員は現地の人たちと共に暮らし、外部からはわかりにくい生活上の事情を把握しやすい立場にいます。その強みも生かしながら、バランス感覚よく活動を進めていただきたいと思います。

Text =飯渕一樹(本誌) 写真提供=渡邊雅行さん  ※質問は現役隊員やOVから聞いた活動中の悩み

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