この職種の先輩隊員に注目!   ~現場で見つけた仕事図鑑

マーケティング

  • 分類:商業・観光
  • 派遣中:7人(累計:108人)
  • 類似職種:経営管理、コミュニティ開発

※人数は2022年11月末現在

CASE1

濵崎優磨さん
濵崎優磨さん
タイ/2018年度2次隊・福岡県出身

PROFILE
空気圧縮機メーカーや化学薬品専門商社で技術職および営業職に従事。九州大学大学院でMBAを取得後、海外協力隊に参加。新型コロナウイルス感染拡大のため、タイでの任期は1年半にとどまった。現在はJICA中国に所属し、中国地方と開発途上国をつないでいる。

配属先:サケオ県コミュニティ開発局

要請内容:タイ政府が推奨している一村一品運動であるOTOPプロジェクトに、販売促進や販路拡大で貢献する。

CASE2

薬師川智子さん
薬師川智子さん
ケニア/2013年度3次隊・奈良県出身

PROFILE
米国の大学を卒業後、農林中央金庫に入庫。長崎県内のJAバンク業務支援などを2年3カ月担当。「一生をかけて取り組みたい仕事」は見つけられず同庫を退職。海外協力隊での任期終了直後にケニアに戻り、2016年に「アルファジリ・リミテッド」を起業。

配属先:ニャンザ州ミゴリ郡の農業省

要請内容:地域農家を巡回し、大豆および大豆製品の開発、市場開拓、販売戦略の立案と推進を行う。

   市場の分析結果をもとに商品を開発し、価格と販路を決め、その魅力をアピールして販売を支援する。マーケティング職種がやるべきことは多岐にわたる。商品やサービスを売るための仕組みづくりのすべてが活動範囲になり得る。生産者自身でも気づかない商品の魅力を客観的な視点で引き出せれば、収入の向上につながる可能性もあり、マーケティングへの潜在ニーズは高い。

CASE1

商品を知るために自ら制作
思いが伝わるPR動画に結実

   タイのサケオ県コミュニティ開発局にマーケティング隊員として赴任した濵崎優磨さん。要請内容はタイ政府が主導するOTOP(オートップ・One Town One Product)と呼ばれる一村一品運動の販売促進や販路拡大だ。日本ではBtoB商品の営業担当者としてのキャリアがあり、経営学修士(MBA)も取得している濵崎さんにはふさわしいテーマだった。

濵崎さんが制作したPR動画には丹精込めて制作した商品を手にする生産者たちの笑顔が映っている

濵崎さんが制作したPR動画には丹精込めて制作した商品を手にする生産者たちの笑顔が映っている

   しかし、タイ全国で商品数が約5万5千点にも及び、サケオ県だけでも数多くの商品数があるOTOP。パッケージや販売ルートはすでに出来上がっていた。そのため、すぐにはやるべき業務が見つけられなかった濵崎さんは担当者の会議に同席させてもらい、OTOP商品を一つずつ手に取ることから始めた。

「国内向けではなく、タイにいる日本人駐在員、旅行者などに向けた商品の販売促進を手がけようと思いました。それならば私の感覚でも売れるか否かを判断できるからです」

   8カ月後にようやく巡り合えたのが精巧な竹細工だった。タイの伝統的な技術で細く割いた竹を編み、カラフルな模様が表現されている。ボールペン、コップ、スマートフォンケースなどの小物があり、日本に持ち帰る土産物にもピッタリだと直感した。

   竹細工を制作している一家にホームステイをして、商品を知るために自分でも竹を編んだ。

   数日間の出家体験をするなど、タイの文化になじむ努力をそれまでに重ねてきた濵崎さんは、現場でも信頼関係を築き、「いいものを作って収入を得たい」という生産者たちの思いを肌で感じた。

日本人会バザーで竹細工グッズを販売する濵崎さん

日本人会バザーで竹細工グッズを販売する濵崎さん

   その結実が、濵崎さんがデジカメで撮影して編集した1分半の動画である。代表の女性が制作のこだわりと商品への思いを自分の言葉で語っている。誠実なものづくりへの姿勢と商品の魅力が伝わってくる、濵崎さんでなければ撮れなかった作品だ。

   日本語字幕を入れたこの動画はサケオ県コミュニティ開発局のSNSに掲載されたほか、タイにおける日本人会のバザーの販売ブースで放映。1本500バーツ(約1750円)のボールペン100本をほぼ完売した。

   膨大な商品の整理と絞り込みからマーケティング活動を始めた濵崎さん。商品が決定してからは制作現場に入り込み、唯一無二のプロモーション動画の制作を成し遂げた。

CASE2

”決めつけ”をしないことがマーケティング成功の秘訣(ひけつ)

   海外協力隊の2年間は失敗を重ねただけと苦笑いする女性がいる。帰国直後に、派遣先だったケニアに戻って農産物の加工販売会社を起業した薬師川智子さんだ。

   ケニアのミゴリ郡にある大豆農家組合に派遣された薬師川さん。大豆加工品の開発支援、市場開拓を行うのが要請内容だった。現地には大豆をローストしてきな粉にする施設もある。

   大豆のマーケティングを通じて貧困者の収入向上に貢献したいという思いが強い薬師川さん。ケニア人に定番の揚げパン「マンダジ」にきな粉を混ぜ込んだ商品を現地で開発し、現地の女性と組み、路上販売を行った。香りも味も良く、小麦粉の分量が少ない分だけ健康的な商品だ。多いときは200個を売り上げた。

大豆の収穫を喜ぶケニアの農家の方々と薬師川さん

大豆の収穫を喜ぶケニアの農家の方々と薬師川さん

「評判は上々でしたが、私はなぜか『安い値段でなければ売れない』と決めつけてしまったのです。通常のマンダジと同じ1個5円程度で売ってしまったので原材料費が高くなった分だけ損してしまいました」

   やがて薬師川さんは、マーケティング以前の「生産と流通」の段階にこそ、問題があると感じるようになった。

   個々の農家はやる気はあるが、生産物である大豆を効率的に集めて持続可能な値段で販売する成功体験がなく、農家組合はほとんど機能しておらず、売る仕組みが出来ていなかった。

   そこで20軒の大豆農家に自ら声をかけた薬師川さん。集まった3トンの大豆を購入し、それにマージンをつけて買ってくれる取引先を見つけたが、だまされて1円も回収できず、その直後に任期は終了してしまった。

   しかし、悔しい経験は現在の会社経営に生かされている。競合と比べて自社は顧客にどのような価値を提供すべきかを突き詰めて考えて実行した結果、オシャレな小瓶に入れたみそがヒット。レシピ動画を作成し、みその利用方法も同時にアピールしている。自社店舗だけでなく、ケニア全土のスーパーに並べるために増産し、マーケティング戦略を立案中だ。

「”決めつけ”をしないことが大切。農村だから安くないと売れない、という観点からしかアイデアを出せないのは良くありません。私は、5円のマンダジを10円で売ってもよかったのです。この値段では売れない、この人たちは同じものばかり食べている、そう決めつけたときに、マーケティングの道は閉ざされる」と薬師川さんは言う。

活動の基本

マーケティングに近道なし。先入観を捨て、商品の売り方を突き詰めて考え、実行する

Text=大宮冬洋 写真提供=濵崎優磨さん、薬師川智子さん

知られざるストーリー