JICA海外協力隊に参加する人はどんな人?

CASE5   もう一度、ものづくりのワクワク感を!
40年のエンジン生産のスキルを生かして工学科の学生たちに技能を伝授

定年退職後に参加した髙澤道夫さんの場合
▶ 工作機械隊員としてカンボジアへ
▶ 帰国後:再就職すると共に個人で配属先の人たちと関わり続ける

髙澤道夫さん
髙澤道夫さん
カンボジア/工作機械/2013年度4次隊・兵庫県出身

技術者として川崎重工業に約40年勤務し、定年退職後に再雇用制度で仕事を続けながら、シニア海外ボランティアにチャレンジし、62歳でカンボジアへ。帰国後は、再度、川崎重工業グループの企業に勤務したほか農業などを行う。

カンボジア国立技能専門学校の機械工学科の4年生に講義を行った

カンボジア国立技能専門学校の機械工学科の4年生に講義を行った

「もう一度、技術の仕事に没頭したい。若い時のように胸をワクワクさせたい」という思いでシニア海外ボランティア(※1)に参加したのは、髙澤道夫さんだ。

   髙澤さんは川崎重工業に約40年勤務し、航空機などに使われるジェットエンジンや発電プラント用のガスタービンエンジンの生産に携わってきた。

「年を経るにつれて管理業務のほうが多くなって、もう一度、ものづくりのワクワク感を感じたかった。60歳で定年退職した後も再雇用制度で仕事を続けながら、協力隊の要請をよく見ていました」

   海外赴任の経験はなかったものの、海外出張の時の異文化体験や違う国の人たちと接する楽しさが忘れられなかったこと、また、若い頃に青年海外協力隊員としてマレーシアで活動した妻からその体験をよく聞き、参加に憧れていた。

学校行事の2泊3日キャンプにも参加し生徒たちと交流を深めた

学校行事の2泊3日キャンプにも参加し生徒たちと交流を深めた

   配属先は2005年に設立されたカンボジア国立技能専門学校の機械工学科。他に自動車、電気、電子、土木、コンピュータ、観光の学科があり、生徒数約2000人を抱える、国の人材育成をリードする学校だ。

   教師陣は国内有数の大学を卒業した若いエリート中心だが、現場経験がなく、コンピュータ数値制御装置(CNC)のついた工作機械を実践で使用したことがないため、その実技指導や助言を行うという要請だった。

   ところが赴任してみると、カウンターパート(以下、CP※2)となる予定の教員は日本に留学しており、CNCはすべて故障し使用できない状態。髙澤さんは、旋盤、フライス盤など非CNC機械の実習を担当する別の教員を新たなCPとして支援を行うことになった。

「その先生は日本への留学や企業研修の経験もあり、日本でも少なくなった熟練工レベルのスキルを持つ人。どのように支援を行っていけばいいのか、授業に参加し、人間関係をつくりながら考えました」

   実習内容は機械を操作し加工することに重点が置かれており、検査も現物合わせで組み合えば合格とする状況だった。

工作機械のクラスに導入された新しい工具に見入る生徒とCPの教官

工作機械のクラスに導入された新しい工具に見入る生徒とCPの教官

「町の工場を回ってみると、やはり修理が主体で、そのための実践的な授業内容になっていたといえます。しかし、海外から進出している企業が求めるのは図面に基づいて部品を加工し、指示どおりの性能の製品を作れる人材。今後を考えれば、設計図を見て、加工工程を計画し、加工、検査する基本作業の能力を習得できるよう指導していくことが欠かせないと考えました」

   髙澤さんは周りの人々と人間関係を築きながら、授業にそうした内容を含めていったほうがいいと折を見て少しずつCPに働きかけていった。

「CPが少しだけ話す日本語と、英語と、訓練所で苦労して学習したカンボジア語を駆使して何とかコミュニケーションを図っていました」

   加工の高度化のために不足している工具・計測器などもCPと相談しながらJICAの支援を得て購入。それらの使用マニュアルも作成して提供した。さらには、基本の加工プロセスをこなせる人材育成を中心にするよう校長ら教師陣にも提案した。

   こうした努力が実を結び、1年たった頃、髙澤さんは4年生の授業を週1コマ担当し直接講義することになった。

帰国後日本に技能実習生として来日したカンボジアの生徒を地元の祭りなどの行事に連れていった

帰国後日本に技能実習生として来日したカンボジアの生徒を地元の祭りなどの行事に連れていった

「ガスタービンの生産技術というテーマで学生に話すと、学生たちもとても興味を示して聞いてくれました。カリキュラムへの反映までには至らなかったので、活動全般ではやや燃焼不足の感はありますが、先生方とも仲良くでき楽しい2年間でした」

   その交流は、帰国後も続く。同校の先生や卒業生が来日すると、かつての髙澤さんの勤務先に工場見学に連れていったり、技能実習生として卒業生が近隣にいると知れば勤務先を訪ね、自宅に招いたり、地域の行事に一緒に参加したりしている。

「彼らがすぐに一流の技術者になるわけではありませんが、こうした活動が将来的に、少しでも芽が出ることにつながったら嬉しいですね」

応募者へのMessage

その国の言葉を話す努力をし、同じ物を食べ、同僚や近所の人とおつき合いし、この国の役に立ちたいと活動した2 年間は意義深いものでした。すぐに成果を出すのは難しいですが、相手を尊敬し、知恵や好奇心、自分なりの工夫で、粘り強く頑張ってほしいです。

任地メモ

野菜などは市場で新鮮なものが手に入る

野菜などは市場で新鮮なものが手に入る

休日は奥様とカンボジア国内を小旅行

休日は奥様とカンボジア国内を小旅行

   カンボジアは暑いのでエアコンをしょっちゅうつけていたら、電気代が月に3万円に! 電力を近隣の国から輸入しているため電気代が高いことを知り、以後、節約しました。

   日本から持っていってよかったのは、自分の体に合った薬とメガネの予備です。日本製のメガネはネジが特殊で修理が難しいため、予備があることで安心できました。食材では味噌。何でも手に入りますが、これだけはありませんでした。

   週末は妻と2人で朝から出かけ(※3)、ローカルのお店でおかゆを食べ、カフェでコーヒーを飲み、プノンペン市内をJICAが無償資金協力した公共バスで見て回ったり、長距離バスで地方にも出かけました。

職種ガイド:工作機械

製造業の現場で使われる主な工作機械について工学系の大学や高等専門学校などで講義や実習などを通じて生徒や教員のレベルアップに貢献する。日本での幅広い実務経験や知識が求められる。髙澤さんの場合は、国立技能専門学校(2年間の短大課程と4年間の大学課程がある)で機械系の学生に対する工作機械実習の担当教員の支援と共に、要請にはなかった4年生を対象にした講義も行った。

シニア案件とは?

一定以上の経験・技能などが必要な個別の要請に応募する、日本国籍を持つ20~69歳までの方が対象。「シニア海外協力隊」「日系社会シニア海外協力隊」と呼称。

※1 現在は一般案件は「海外協力隊」(46~69歳の方)、シニア案件は「シニア海外協力隊」(20~69歳の方)と呼称している。

※2 配属先で隊員と共に行動し、活動に協力してくれるパートナーのこと。

※3 当時の「シニア海外ボランティア」は配偶者の帯同が許されていた。現行の制度では、家族の随伴は想定されていません。

Text=工藤美和 写真提供=髙澤道夫さん

知られざるストーリー