JICA海外協力隊に参加する人はどんな人?

CASE7   短期派遣で地方の手工芸品を観光資源に
任期終了後も継続されるプロジェクトを目指し、
実体験で見つけた地域の人・技術を生かすアプローチ

短期派遣として参加した板垣順平さんの場合
▶ JICA海外協力隊 手工芸隊員として6カ月間エチオピアへ
▶ 帰国後:国内外の地域づくりや商品開発プロジェクトに従事

板垣順平さん
板垣順平さん
エチオピア/手工芸/2012年度9次隊・兵庫県出身

大学時代は民族衣装やテキスタイルを研究。大学院の修士課程はミャンマー、博士課程はエチオピアで現地調査を行い、修了後の2012年末から半年間、短期派遣でエチオピアで活動した。モーリシャスなどでの商品開発、兵庫県や新潟県で地域づくりの活動に従事し、現在、長岡造形大学助教。22年秋から同大学とJICAによるラオスでの草の根技術協力事業に関わる。

   大学・大学院で手工芸やデザインを専攻していた板垣順平さんは、大学院の博士課程に在学中、織物職人の社会的背景などを研究するため、エチオピア北部で計1年半、現地調査を行った。

   大学院の修了直前、エチオピアで観光開発を行うJICAの技術協力プロジェクトに関わっていた教員から、「連携して活動する短期隊員の募集がある」と教えられた。調査を行っていた地域と派遣先が近く、自身にものづくりの知識もあり、現地のアムハラ語もできたことから、応募を決めた。

シミエン国立公園内の村での商品制作のトレーニング

シミエン国立公園内の村での商品制作のトレーニング

「急いでエントリーシートを書き、その後、面接に進みました」。

   合格後は、5日間の研修で隊員の心構えや文化・習慣の違いへの配慮、安全対策などの説明を受けた上で現地へ派遣された。短期派遣なので訓練所での研修もなく、応募から約半年での赴任だった。

   任地は、1978年に初の世界遺産に選ばれながら、その後、「危機にさらされている世界遺産」に登録されることとなった同国北部のシミエン国立公園の周辺。公園内外の住民による農業や牧畜が植生や景観に影響を与えていた。

   板垣さんへの要請内容は、6カ月間の活動で、それまでの農業・牧畜に代わる産業として、公園内の集落に暮らす住民が制作・販売できるような観光客向けの土産物を開発することだった。まずは公園の玄関口に位置する町で市場を回り、布や刺繍(ししゅう)、かごなどを集めた。馬毛(馬の尾の毛)を使ったふるいなど、この地域に特有な品物もあった。こうした伝統的な生活用品を、観光客が手に取ってくれる商品になるように、デザインや仕様の一部改良を検討した。

地域の歴史や文化を知る活動として、試作品の展示会を訪れた幼稚園児と

地域の歴史や文化を知る活動として、試作品の展示会を訪れた幼稚園児と

   ただ、自身の活動終了後の継続性を考えて、現地の技術や材料を生かし、新しい技術はできるだけ使わないようにした。博士課程で現地調査をしていた時、「国際協力での支援はプロジェクトが終わると継続されないことがあり、意味がない」との声を聞いていたためだ。

   町で職人らに試作品を作ってもらい、展示会を開くと、予想以上に地域住民が集まった。「ただの日用品と思っていたものが商品になると気づいたようでした」。

   さらに、公園内の集落で暮らす住民を訪ねて試作品をもとに製品を作ってもらうと、思いがけず嬉しいことがあった。商品としての均質性を担保するため、板垣さんは「全く同じように作ってほしい」とだけ頼んでいたが、1週間後に集落を再訪すると、元々課題のあった馬毛製ブレスレットの留め口を自主的に改良してくれていた。住民は言った。「こんなふうにしたら、うまく留まるんじゃない?」。

   一方、勝手に色が変更され、商品に向かないと思われるものも。板垣さんは集落の人と話し合いを重ねながら「これはいいよね」「これは違うかな」と選別を進めた。現地語を話せたので英語話者などによる通訳も不要で、やりとりはスムーズだった。

「短期派遣は活動期間が短いので、ミッションが比較的明確に絞られていることがよかったのかもしれません」

   板垣さんの活動は順調に進み、当初の要請を超え、2つの集落での生産組合づくりまでを手がけて任期を終えた。板垣さんの帰国から2年後、知り合いの研究者が現地を訪ねると、プロジェクトで開発した商品が売られていたという。

長岡造形大学とJICAで進めるラオスでのプロジェクト。隊員時代の経験を生かし、学生をバックアップする

長岡造形大学とJICAで進めるラオスでのプロジェクト。隊員時代の経験を生かし、学生をバックアップする

   板垣さんはその後、大学の研究員として兵庫県の山間部で地域活性化に取り組んできた。「プロジェクトを回すということを隊員時代に初めて経験したのですが、民族や気候風土は違っても、人間関係をつくりながら物事を企画して回すというのは日本でも同じ。隊員経験が役立ちました。地域住民が続けてきたことと、新しいことのバランスを考える時にも経験が生きています」。

   仕事の方向性も変わり、もののデザインよりも、地域の仕組みや仕掛けをデザインすることが多くなった。現在は新潟県長岡市の大学で教壇に立ちつつ、地域の人材育成や、大学がJICAと連携して始めたラオスでの商品開発プロジェクトを取りまとめる。「今度はエチオピアでの活動をベースに学生を指導します」。現場での経験が、次世代へも受け継がれていく。

応募者へのMessage

自分の描くキャリアパスのイメージが明確で、経験を積みたい人には、貴重な体験となります。学生のうちに休学して参加するのもよいでしょう。
短期派遣は、要請と派遣後の活動内容の差異が比較的小さい傾向にあることも利点かと思います。

任地メモ

板垣さんが6カ月を過ごしたホテル。後半には従業員とも仲良くなり、厨房を借りて自炊させてもらったことも

板垣さんが6カ月を過ごしたホテル。後半には従業員とも仲良くなり、厨房を借りて自炊させてもらったことも

   6カ月間の短期派遣中、滞在先はずっとホテルでした。基本的には近代的で快適でしたが、時折停電があったほか、観光客があまり来ない時期になるとホテル側が水を止めてしまい、ひどい時には1週間のうち水の出るのが数時間ということもありました。特にトイレを流せないのは困るので、空のペットボトルを大量に集め、水が出る時にためておいたことも。任期終盤には屋上の貯水タンクを開けて使えるようになりました(笑)。

   日々の安全管理面では、できるだけ現金を見せないように意識しました。お金のせいで人間関係がよくない方向に変わってしまう経験も過去にあったので、どれほど仲の良い人が相手でも、それだけは心がけていました。

職種ガイド:手工芸

人的資源分野の職種の一つで、刺繍やアクセサリーなどの手工芸品作りに関する支援を行う。要請により、生徒向けの技術指導から教員の指導方法の改善、新商品の提案、販路開拓まで活動内容は多岐にわたる。関与する対象も、女性や障害者のような社会的弱者・困窮者や、訓練学校の生徒、観光関連業で働く人などさまざまである。板垣さんの場合は、国立公園内の集落の住民が農・牧畜業に代わる収入源として制作・販売できる土産物の開発に取り組み、有望な民芸品の検討、試作品の作製、集落住民への技術移転を実施。住民からなる制作者組合の結成にもこぎ着けた。

短期派遣とは?

青年海外協力隊・海外協力隊・シニア海外協力隊で、1カ月~1年未満の短い任期で活動する派遣形態。派遣前訓練は長期派遣の場合より短く、語学研修がない。対象年齢20~69歳で、同時期に長期派遣と短期派遣を併願することは不可。
詳細はウェブサイトへ▶

Text=三澤一孔 写真提供=板垣順平さん

知られざるストーリー