[特集]
青年海外協力隊事務局からの熱い思いを届けます!
これからのJICAボランティア事業

青年海外協力隊事務局の仕事

   青年海外協力隊事務局の業務は「国内業務・課題」、「海外業務」、「総務・企画」があり、七つの課に分かれて約120人が従事している。

「国内業務・課題」は①「参加促進課」(協力隊の広報全般、募集説明会の実施、現職参加の推進、協力隊連携派遣や「世界の笑顔のために」プログラムの実施、『クロスロード』の制作・発行など)、②「課題業務・選考課」(選考や技術顧問・技術専門委員に係る業務、課題別派遣前訓練の実施、課題別支援リンクトインの運営など)、③「人材育成課」(グローカル・プログラムや派遣前訓練の全体調整、帰国後の進路開拓支援[帰国時プログラムの開催、進路相談カウンセラーの配置、帰国隊員への教育訓練手当など]や社会還元促進)があり、主に隊員の派遣前後を支える業務を担う。

「海外業務」は地域別に④「海外業務第一課」(東南アジア、大洋州、中南米地域)と⑤「海外業務第二課」(中央アジア、南アジア、中東、欧州、アフリカ地域)があり、70カ国を超える隊員派遣国に対応する国担当を配置。JICA在外拠点とともに隊員派遣に係る事業計画を策定し、春と秋の募集期に向け、具体的な案件発掘・形成を支援する。派遣中隊員の活動、安全管理、健康管理なども支援。また、派遣班を中心に隊員の渡航に係る各種手続き、手当の支給他にも対応する。

「総務・企画」は⑥「計画課」(総務、予算管理、制度、省庁・外部関連団体の窓口、行事の運営、隊員ハンドブック制作など部内横断的業務)、⑦「企画業務課」(ボランティア事業の計画立案・評価、JOCV枠UNV制度をはじめとする国際連携、企画調査員[ボランティア事業]の制度運営、「スポーツと開発」に係るJICA全体の事務局や戦略形成など)があり、協力隊事業の土台を作り、新しいことに取り組みながら事業の質を改善していく業務を担う。

   こうしたJICAボランティア事業を支える青年海外協力隊事務局には、どんな思いを持った方たちが勤務しているのか。管理職や職員の方々に、JICA入構のきっかけや現在の業務内容、隊員へのメッセージ、お薦めしたい本や漫画などを伺った。

各課を支える人々

Profile…プロフィール。国際協力機構(JICA)入構(国際協力事業団入団を含む)のきっかけや、現在の業務内容、やりがいなど。
Message…隊員へのアドバイスやメッセージ。海外在住経験のある方にはその国のことも含めて。
Book…隊員の方に薦めたい本や漫画。
Off…プライベート。趣味や余暇の過ごし方。


国内業務・課題

次長/内山貴之さん
次長・内山貴之さん

Profile:大学を休学してデンマークのNGOに参加し、モザンビークで公衆衛生活動を行いました。内戦後、地雷がまだ残る同国は、復興への希望に満ちていました。その頃、マラリアなどで何度か死を意識したこともあり、「どうせいつかは死ぬのだから、生きている間は人のためになる仕事をしたい」と、JICAに入構、最初の配属先が青年海外協力隊事務局の海外グループでした。面接に立ち会い、訓練所で任国事情を説明し、巡回指導で現地を回り、帰国報告会で隊員の方々と接すると、約2年間の成長に驚きました。帰国した隊員から幸せな報告を受けるだけでなく、派遣国で不幸な出来事が起こることもあり、その都度、隊員の方々やその人生を預かる責任の重さを感じました。今年2月から22年ぶりに事務局配属となりました。

諫山創『進撃の巨人』

Message: ウガンダ事務所長時代の2021年12月に、全世界で初めて、ウガンダの国会でJICAの協力を讃える決議が採択されました。地域の人々と苦楽を共にしながら、寄り添い活動する協力隊事業も評価されてのことです。2年間でやり残したこと、できなかったことがあったとしても、その国であなたの影響を受けている人がいるかもしれません。自分なりに頑張ってください。
Book:諫山創『進撃の巨人』。正義とは、敵・味方とは、人間とは、戦いとは、歴史とはーーと、考えさせられた作品です。アニメもお薦めです。
Off:チェロ演奏です。


①参加促進課
課長・永瀬朝則さん
課長・永瀬朝則さん

Profile:IT企業に就職後、漠然と海外経験を積みたいと協力隊へ(ジャマイカ/SE/1994年度2次隊)。活動中に国際協力の道を志し、英国大学院留学後、入構。当課は協力隊の募集・広報全般、現職参加の促進や所属先との調整、協力隊連携派遣や「世界の笑顔のために」プログラムの実施などを行っています。協力隊は、世界にも日本にも参加者本人にとっても有益な事業で、「自分もいつか参加したい」と思われるような広報活動を心がけています。

デール・カーネギー『人を動かす』

Message: ルワンダ事務所次長時代に隊員の方々に伝えていたのは、「協力隊参加を決めた初心を忘れないこと」と「帰国後の自分を想像すること」。日本と異なる環境下で自分を見失いそうな時には、原点に立ち返り、なぜ参加したか、派遣を通じてどんな人間になりたいかとイメージしながら頑張っていただきたいと思います。
Book:デール・カーネギー『人を動かす』。隊員活動でも参考になる対人関係構築の極意が説かれています。
Off:もっぱら家族サービスで、自分の時間はありません。

三浦香里さん
三浦香里さん

Profile:美術館や博物館、図書館などで学芸員として働き、大学で広報もしていました。協力隊に参加した親戚が、マレーシアの障害のある方々にパン作りを教えていて、どんな経験も生かせる協力隊事業に魅力を感じました。現在は協力隊事務局のSNS(Facebook・Twitter)アカウントでの発信と、事務局が保有する隊員活動に関する写真の整理を担当しています。

グレース・ボニー『自分で「始めた」女たち』

Message: 業務の中で協力隊の方々の活動を拝見しますが、「大切なのは知識・技術だけでなく気持ち」という隊員の方の言葉に、「気持ちが強ければ、何でも乗り越えられる」と感銘を受けました。隊員の方々の活動も発信していますので、迷った時など参考にしてください。
Book:グレース・ボニー『自分で「始めた」女たち』。各界の女性が自分の仕事と夢について語っていて、夢を見る勇気と、それを実現する強さをくれる本です。
Off:合唱と、イタリア語の勉強、スポーツ観戦です。


②課題業務・選考課
課長・工藤美佳子さん
課長・工藤美佳子さん

Profile:学生時代、アフリカの飢餓問題に対して「日本では食べるものに困らないのに、なぜ世界には飢える人がいるのか」と疑問を抱き、日本のODA批判に対して「内側から変えていきたい」との思いで入構しました。当課では選考、課題別ナレッジシェアリングの調整、課題別支援LinkedInの運営、技術顧問・技術専門委員に係る業務などを行っています。選考時に応募者の熱い思いを直接聞けるのは純粋に嬉しく、やりがいを感じます。

諫山創『進撃の巨人』

Message: 在外事務所の所員は情報やネットワークを持っているので、自分の職種に関連する所員がいたら気軽に相談するといいと思います。課題別ナレッジシェアリングや課題別支援LinkedInグループも活用し、同じ職種の人とつながってください。
Book:深谷かほる『夜廻り猫』。8コマ漫画で、がんばっている人や弱者へのまなざしが優しい。ネットでもどうぞ。
Off:コロナ禍前はバレエ、以後はバレエ鑑賞。平日の癒しは「Eテレ2355」(23:55から5分間のテレビ番組)です。

倉持百花さん
倉持百花さん

Profile:小学生の頃から国際協力関連の仕事や世界の戦争・紛争に関心がありました。学生時代はタイにある水産系の国際機関でインターンを経験し、昨年、新卒でJICAに入構しました。現在は選考や課題別業務で、保健医療系、栄養士、幼児教育、環境教育の職種を担当しています。「途上国の課題解決に挑みたい」という方々の夢の実現にも寄与するJICAボランティア事業に、日本の国際協力の明るい未来を感じています。

山口絵理子『裸でも生きる』シリーズ

Message: 安全に気をつけて思い切り活動を楽しんでいただき、帰国後はぜひJICAをサポートしていただけたら嬉しく思います。タイの隊員の方は特にデング熱、大気汚染、雨期の冠水に気をつけてください。
Book:山口絵理子『裸でも生きる』シリーズ。途上国での葛藤や壁にぶつかった時の考え方などが参考になります。
Off:ラーメン屋巡り、一人カラオケ、岩盤浴です。


③人材育成課
課長・舘山丈太郎さん
課長・舘山丈太郎さん

Profile:米国の大学で国際関係学を専攻しましたが、日本のIT企業に就職し、3年間勤務しました。先輩が協力隊に応募したことで、やはり自分も国際協力の道にと思い入構しました。当課では、選考後に行うグローカル・プログラムや派遣前訓練の調整、協力隊を終えてからの進路開拓や社会還元の支援関連を行っています。参加される方々や隊員の方々と接する時、熱量の高さに圧倒されます。しっかり受け止め、応えていきたいと思っています。

パウロ・コエーリョ『アルケミスト』

Message: それまでに国際協力に関わることがなかった方でも、途上国に行って現地の人々のためになることができる―それが協力隊のすごいところです。自分のやりたいことよりも、小さなことでもいいので相手の困り事に取り組むといいと思います。それにより活動が広がったり、最終的に想像以上のことにつながるかもしれません。
Book:パウロ・コエーリョ『アルケミスト』。目の前の物事に誠実に向き合うことで次の展開へと導かれる物語です。
Off:焼き菓子作り。レシピに忠実に作れば失敗がない。

又吉木野さん
又吉木野さん

Profile:中学・高校時代に教育格差や途上国問題に関心を持ち、高校3年時にカンボジアのスタディツアーに参加して国際協力を志しました。新卒でJICAへ入構し、現在は進路相談カウンセラーの方々との調整、無料職業紹介の運営、支援してくださっている企業や団体を紹介する「サポーター宣言」や、OV向けの「クロスロード(別冊)」などにも関わっています。

ハンス・ロスリング他『FACTFULNESS』

Message: 安全面では、危険度の感覚が地元の人と外国人では違うことが多いので両方の目線を持ち、JICAが発信する情報も参考にしながら、活動や生活を楽しんでください。時には悩み過ぎず行動することも大切だと思います。
Book:ハンス・ロスリング他『FACTFULNESS』。途上国で先入観や思い込みにとらわれず現状を理解するために。
Off:コロナ禍をきっかけに日本を知ろうと、なるべく月に1度は国内旅行に出かけています。グローカル・プログラムの受け入れ自治体にも行ってみたいと思っています。

Text&Photo=干川美奈子、飯渕一樹、阿部純一(本誌) editorial assistant=林 志織(本誌)

知られざるストーリー