※2022年10月13日現在
出典:外務省ホームページ
※2023年1月31日現在
出典:国際協力機構(JICA)
本土と大小600の島から構成され、800もの言語があるとされるパプアニューギニア。
治安の悪さが伝えられることもあるが、人に優しい国だという。
お話を伺ったのは
PROFILE
1990年に青年海外協力隊としてPNGへ派遣され、SV、専門家や技術協力プロジェクト総括、UNICEFアドバイザーなどを歴任。30年来、PNGの教育開発に従事し、2020年からはJICA初等理数科教員養成校強化プロジェクト総括を務め、PNG在住。日本パプアニューギニア協会支部長を務めるほか、15年にPNG政府より公共サービス功労勲章を、23年に在日パプアニューギニア全権大使より在外公館長表彰を受賞。
「現地に入れば周りの人が守ってくれます。親日的な人が多く、温かい」。元パプアニューギニア(以下、PNG)隊員で同国に長く関わる伊藤明徳さんは言う。「ほとんどの隊員が好きになり、また戻りたくなる国です」。
さまざまな部族の文化が残るPNG(笹瀬さん提供)
国土はニューギニア島の東半分と周辺の島々から成る。人口は約895万人、面積は日本より大きく、いずれも太平洋島しょ国の中で最大だ。国名の起源は16世紀、現在のニューギニア島に上陸したポルトガル人がマレー語で縮れ毛を意味する「パプア」と名づけ、その後にやって来たスペイン人がアフリカのギニアにちなんで「ニューギニア」と名づけたことに由来するといわれる。19世紀にはイギリスやドイツの支配を受け、第1次世界大戦後はオーストラリアの統治下に置かれた。第2次大戦中の一時期には、日本軍がニューブリテン島のラバウルに進駐していた。
戦後、ニューギニア島の東側は国連の信託統治領としてオーストラリアの統治下に入り、1975年にPNGとして独立。80年に協力隊派遣が始まった。警察学校に合気道隊員、公共事業省に自動車整備隊員が派遣され、その後は名門校のソゲリ国立高校に日本語教師隊員が派遣されるなど、教育・農業を中心に派遣先や職種が拡大した。
教育はPNGが長らく抱える課題の一つで、政府の教育改革に日本も支援を行ってきた。2014年にカリキュラムの刷新が決まった際は、JICAの協力で教科書・指導書を開発する「理数科教育の質の改善プロジェクト」が立ち上がり、伊藤さんが総括を務めた。20年に同国初の国定教科書として理数科の教科書を導入している。
教科書開発の最終段階で実施した、模擬授業ワークショップでの指導風景(伊藤さん提供)
部族ごとに独自の言語があるとされるPNGは、「世界で最も言語が豊富な国」(伊藤さん)。公用語は英語で、学校教育も英語で行われている。同時に、文法や発音をわかりやすくした「ピジン英語」も広く使われる。
失業者や生活困窮者が多く、犯罪も多いことから治安上の問題もあり、長らく女性隊員の派遣はほとんどなかった。一方、「PNGは餓死のない国」と伊藤さんは言う。「ヤマイモやバナナはどこにでもあって自給自足でき、お金のない貧しさはあるが、子だくさんで元気のある豊かな国です」。仲間が苦しんでいる時に支え合うのが、部族を基盤とした「ワントク」というグループで、語源は一つの言葉=ワン・トークとされる。豊かな自然の中で、ワントク社会が多様な言葉・伝統文化を継承し、国のアイデンティティをつくっている。
国の省庁も含めて隊員の派遣先にはまだまだ課題が多いだけに、「現場で工夫し、改善する余地が多くある国です」と伊藤さんは隊員活動に期待を込める。
Text=三澤一孔