失敗に学ぶ
~専門家に聞きました!   現地で役立つ人間関係のコツ

今月のテーマ:任地に頼れる相手がいない

今月のお悩み

▶地方の町に配属されたばかりで、頼る人もいなくてつらいです
(コミュニティ開発/男性)

   地方にたった1人の日本人として赴任したのですが、カウンターパートや配属先の同僚たちは忙しくて時間が取れず、現地での生活や活動を始めるにあたって、必要な情報を気軽に聞ける相手がいないことに困っています。

   地域社会にもう少し溶け込むことができれば、何かあった時に相談したり助けを求めたりできる人ができて少しは楽になるのではないかと思うのですが、まだ言葉が拙く尻込みしがちで、どのようにアプローチすべきか悩んでいます。

今月の教える人

渡邊雅行さん
渡邊雅行さん
ネパール/作業療法士/1986年度1次隊・愛知県出身

隊員時代はネパールの首都カトマンズのリハビリテーションセンターで活動し、入所者の機能訓練や日常生活指導に従事。任期延長して取り組んだコミュニティ・ベースド・リハビリテーション(CBR)がライフワークとなる。常葉大学准教授を経て、現在は富山県内の精神科病院で作業療法士・理学療法士として勤務。JICA海外協力隊技術顧問(リハビリテーション分野)を務める。

渡邊先生からのアドバイス

▶活動の序盤では暮らしの拠点と人間関係づくりに注力するとよいでしょう

   任地に配属されたばかりの時期は、何かと苦労しますよね。私が協力隊員としてネパールに派遣された時、最初の半年ほどは言葉が拙く、しかも配属先のリハビリテーションセンターで要請を出した施設長がすでに辞めていて、カウンターパート(以下、CP)がいないまま活動を始めることになるなど、現地での生活や活動の態勢が整わない状況に苦労しました。

   幸いに仕事がない状況ではなかったのですが、日本の作業療法の現場では見たことのない種類の障害を目の当たりにしたりと、当時まだ臨床経験の少なかった私には大変でした。ストレスのためか、最初の半年間は不眠症にも悩まされました。隊員連絡所(ドミトリー)で会った同期隊員に眠れない悩みを話したところ、どうしたわけかその夜から眠れるようになって解決したのですが、配属先が別のCPを用意してくれたのはさらに数カ月後だったので、落ち着かない状況が1年ほど続いたことになります。

   周囲の助けが少ない状況で、早く活動を軌道に乗せなければと焦ることもあるかもしれませんが、最初は言語習得を中心に、人間関係を構築することや、生活上の拠点をつくることに集中するのが大切でしょう。それで周囲との関わりが良くなれば、中盤以降の活動はおのずと展開していくものです。

   まず言語の問題については、私の場合CPを頼れなかったので、任地の子どもたちに「あれは何?これは何?」といろいろ聞いて語彙を増やしていました。おかげで幼稚な話し方になっていたかもしれませんが、子どもは概して時間に余裕があるので、よくつき合ってくれました。お年寄りの方に聞くのもよいでしょう。

   人間関係づくりでは、職場の人らが昼食に誘ってくれたり、家に呼んでくれたりした機会は断らないようにしていましたし、なじみの店を持つことも有効だと思います。飲食店などで店主と親しくなれば、さまざまな情報を教えてくれると思い、特にCPがいない頃には努めてそうしていました。

   人とつながりをつくる上での私自身の失敗経験は、ネパール人からわかりやすく道を教えてもらった時に、ただ「知っています」という受け答えをしてしまったことです。その時は特に気に留めていなかったのですが、後で共通の知人から、そのネパール人が私の態度に面食らっていたようだと聞きました。隊員時代ではありませんが、イギリスのカメラ店で店主から製品のアドバイスをもらった時に「I know」とだけ答えてけげんな顔をされたこともあります。相手も、せっかく親切で教えたのに淡泊な態度を取られればムッとしますし、話もそこで終わってしまいますよね。特に活動初期、頼れる人が少ない土地に一人でいる時は、わかっていても「そうなんですか?ありがとうございます」と会話を広げるようなスタンスで、積極的に情報収集や交流の輪を広げていきたいところです。

   派遣当初は言葉が不慣れなこともあり、つい面倒になって適当な対応を取ってしまったという隊員のケースもありますが、人間関係づくりの面でも、語学力向上の面でも、積極的なコミュニケーションに勝るものはありません。以上をまとめると、
①時間のある人をつかまえて語学の基礎を磨く。
②食事などの誘いには積極的に参加する。
③行きつけの店をつくって店主と顔なじみになる。
④話を断ち切ってしまうような言葉・態度には要注意!
   交流のチャンスは逃さずに。

   自身が大きく成長する機会でもある協力隊経験。こうしたことも心がけつつ、活動初期の苦労する時期を乗り越えていただければと思います。

Text =飯渕一樹(本誌) 写真提供=渡邊雅行さん  ※質問は現役隊員やOVから聞いた活動中の悩み

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