この職種の先輩隊員に注目!   ~現場で見つけた仕事図鑑

環境教育

  • 分類:人的資源
  • 派遣中:40人(累計:1052人)
  • 類似職種:コミュニティ開発、青少年活動、廃棄物処理

※人数は2023年1月末現在

CASE1

中ノ瀬寛明さん
中ノ瀬寛明さん
インドネシア/2016年度4次隊・長崎県出身

PROFILE
大学で国際協力や環境、貧困などを学ぶ。自転車販売会社に3年半勤務した後、協力隊に参加。帰国後はIT企業勤務、JICA東北での勤務を経て、現在、NPO法人九州海外協力協会に勤務。JICA九州から受託している開発教育支援事業を担当。

配属先:南スラウェシ州ブルクンバ県環境・林業局

要請内容:地方都市の環境・林業局に所属し、地域の小中学校や高校を巡回し、生徒や先生に対して環境教育を行う。地域や学校を対象に廃棄物の管理、3R、コンポストなどに関する取り組みを実施する。

CASE2

尾崎友紀さん
尾崎友紀さん
ペルー/2014年度2次隊・東京都出身

PROFILE
大学で環境情報学を学ぶ傍ら、NGOラムサールセンターのスタッフとしてタイと日本の子どもの湿地保全の交流イベント運営などに携わる。新卒で協力隊に参加。大学院留学などを経て、現在、インテムコンサルティング株式会社に勤務し、技術協力案件に携わる。

配属先:国家自然保護区管理事務局パラカス事務所

要請内容:自然環境保護、生態系保護、海岸汚染防止に関して住民や観光客への啓発、環境教育の内容および教材・手法の改善、自治体など関係機関との連携、より効果的な環境教育実施のための支援。

「環境教育」の活動には大きく分けて、廃棄物や衛生など生活に密着した「ブラウン系」と、豊かな自然環境の保全に取り組む「グリーン系」がある。

   行政機関、自然公園などに配属され、教材・プログラム開発、イベントの企画、指導者層への助言、廃棄物処理の現状調査やゴミ処理・収集ルートの分析・モニタリング、エコツーリズムの提案など、多様な活動を行う。

   資格や専門知識よりも、自らの経験やスキルを生かして、任地の課題を明らかにし、わかりやすく魅力的な活動につなげていく力が求められる。

CASE1

子どもたちにゴミ問題を根本から考えてもらう授業

   インドネシアの南スラウェシ州のブルクンバ県環境・林業局に環境教育隊員として赴任した中ノ瀬寛明さん。メインの活動は、地域のゴミ問題解決のために、学校を巡回し校内環境やゴミ分別方法のアドバイスをし、コンポストの普及や環境をテーマにした授業を行うこと。

   配属は3代目で、中ノ瀬さんは市中心部から郊外の学校まで趣味の自転車を使って一人で巡回した。「町中でのゴミのポイ捨てが多いし、分別もできていない」と感じた。

「自分のお気に入りの場所を絵に描いてみよう」。活動を始めて9カ月がたった頃、中ノ瀬さんは小学校での授業の構成を変更した。

「それまでは単発授業が多く、ゴミのポイ捨てが自分たちの生活にどう影響するか話したり、分別方法をゲーム形式で教えたりしていましたが、ゴミ問題に焦点を当てることを急ぐあまり、生徒になぜ環境を守ることが大切なのかが伝わっていない気がしたのです」

   巡回先の学校の教師とも信頼関係ができ、連続した授業も行えるようになっていた。

自分のお気に入りの場所を描いてという中ノ瀬さんの提案に応え、さまざまな場所の絵を掲げる児童たち

自分のお気に入りの場所を描いてという中ノ瀬さんの提案に応え、さまざまな場所の絵を掲げる児童たち

「絵なら勉強の得意不得意に関係なく自由に表現できます。お気に入りの場所にゴミがあったらどんな気持ちになるのか想像してもらうことから始め、段階を経て環境について考える授業を3回に分けて行いました」

   子どもの見本となる大人の意識と行動の改善も必要と考え、同期の隊員たちとのアイデア共有から思いついた地域の清掃活動も行った。

「地域の大人たちや先生、生徒に声をかけてゴミ拾いをしながら、周辺の人々にも呼びかけると協力してくれて、毎回大量のゴミが集まりました」

   活動終盤には、前任の隊員が温めてきた企画を引き継ぎ、小中高生のゴミ処理施設見学ツアーも実現させた。配属先には参加校の募集から見学先の調整、当日の運営を主体的に行ってもらった。

「ツアーを実施することによって、同僚たちに生徒たちの反応を直接見てもらうことができ、実際に体験して学ぶ大切さを感じてもらえたように思います。ゴミのポイ捨てなどの行動をすぐに変えることは難しいと思います。でも、関わった人の心に引っかかるものが生まれると嬉しい。環境問題は地道に取り組むことが大切だと学びました」

CASE2

豊かな自然保護区で働く職員が環境教育に取り組めるように

   ペルーの首都リマから南に約250㎞、太平洋に突き出たパラカス半島。半島周辺には栄養豊富なフンボルト海流が流れ、フラミンゴやペンギンなどさまざまな生物が生息する。多くの渡り鳥が飛来する湿地を擁し、1992年には同国で初めてラムサール条約に登録された。国立自然保護区管理事務局・パラカス事務所に赴任した尾崎友紀さんは、同僚と共に、地域住民や子どもたちへの環境教育に取り組んだ。

ペンギン(約60cmで4kg)と同じ重さの石を探す子ども。140cmあるのに2kgのフラミンゴと比べ、飛ぶ鳥と飛ばない鳥の違いや骨の密度の違いについても話した

ペンギン(約60cmで4kg)と同じ重さの石を探す子ども。140cmあるのに2kgのフラミンゴと比べ、飛ぶ鳥と飛ばない鳥の違いや骨の密度の違いについても話した

   琵琶湖5つ分という広大な保護区の管理にあたるのが生物学者を中心とする25名ほどの職員で、パトロール、生態系の調査、観光客への対応、自然保護のための普及啓発・環境教育までを行っていた。

   しかし、事務所の寮に住み込み、24時間体制の業務を目の当たりにした尾崎さんは、職員はパトロールや生態調査に忙殺され、環境教育に手が回らないことに気がついた。

「職員たちは、いいアイデアをたくさん持っていました。そこで私は同僚が環境教育に取り組みやすくなるよう生態調査や観光客対応などの業務を手伝いながら、絵画コンテストなどのアイデアの実現をサポートしました」

   尾崎さんは毎月、近隣の小中学校で授業を行い、教材開発や授業の改善も行った。「配属先の環境教育用の予算が少ないため、手に入るもので試行錯誤しながら教材を作りました」。

   まずは興味と関心を持ってもらい、そこから生態系や自然環境を考える人に育って欲しいという尾崎さん。動物の生態について教えた際には、ペンギンの模型を雑誌や古紙を丸めて作り、いろいろな大きさの石を用意してクイズでペンギンの実際の重さを当てて、体感してもらう工夫をした。日本の自然公園のビジターセンターの展示を参考にした。

尾崎さん自身も驚いたオタリア(※2)の大きさを、ゴミ袋で作った着ぐるみで表現。実物を見たことがない子どもたちの関心を惹いた

尾崎さん自身も驚いたオタリア(※2)の大きさを、ゴミ袋で作った着ぐるみで表現。実物を見たことがない子どもたちの関心を惹いた

   回を重ねるうち、カウンターパートは刺激を受け、話すだけだった授業に写真や映像、クイズを取り入れるようになるなど工夫をするようになった。

   活動の終盤には、他の自然保護区に派遣されていた隊員2名と、同僚たちを対象にした「環境教育インタープリテーション(※1)研修」を企画した。

「同僚たちは観光客などへの解説に慣れていませんでした。知識や情報をただ伝えるのではなく、他の生物や人との関係など背後にある物語を含めて、わかりやすく伝える能力を高めてもらおうと考えました」。

   JICA事務所の支援を得た結果、中南米7カ国の隊員とその同僚45名がパラカス自然保護区に集まり学んだ。

「具体的な成果を説明するのは難しいのですが、同僚たちには環境教育の幅を広げる意識、興味や関心を残すことができたのではと感じています」

活動の基本

なぜ自然環境を守ることが大切なのか伝える努力を続け
対象者が自ら考え行動に結びつくよう地道に働きかける

※1 インタープリテーション=自然・文化・歴史をわかりやすく人々に伝えること。知識だけでなくその裏側にあるメッセージを伝える行為。
※2 食肉目鰭脚類アシカ科オタリア属の海棲哺乳類。典型的な雄の成体は体長2.6m、体重300kg程度もある。

Text=工藤美和 写真提供=中ノ瀬寛明さん、尾崎友紀さん

知られざるストーリー