気候変動のような世界規模の課題にも協力隊員としてできることがあるはずだ。社会に大きな変化をもたらすプロジェクトの一翼を担う活動や、気候変動対策につながる取り組みを行った事例を見ていこう。
会社員時代は、環境コンサルタントとして主に環境影響評価(環境アセスメント)に携わり、廃棄物処分場関連の業務も数多く経験。定年退職後、シニア海外ボランティアとしてマーシャルで活動し、2023年4月からはフィジーに赴任予定。
ポイ捨てされた飲料容器を子どもたちが一生懸命集め、町外れのマジュロ環礁廃棄物管理公社(以下、公社)まで持ってくる。販売された飲料容器がほぼ100%回収され、路上から一掃。任地であるマーシャルのマジュロ島で実現した、信じられないような光景です。感動すると同時に、「キレイゴトでは環境問題は解決しない」とも実感しました。ビン、缶、ペットボトルを公社に持参すると、その場で5セント(約7円)を受け取れるという仕組みができたからこそ、老若男女が競うようにして容器を集めた結果です。
飲料容器デポジット制度(以下、CDL ※1)と呼ばれるこの仕組みは、飲料の販売額に6セントのデポジットが上乗せされ、差額の1セントと、空き缶を海外へ売却した収益を公社の運営費用とします。回収量は空き缶とペットボトルでほぼ半々。ペットボトルは受け入れ先がなかったのですが、集まったものを散逸させずに保管するだけでも環境保全の意味があるので、国内でまとめて埋め立てていました。
これはJICAの「大洋州地域廃棄物管理改善支援プロジェクト」の一環で、私はマーシャルでの事業と連携する5代目のシニアボランティアとして公社に配属され、CDLの立ち上げと共に、運営状況をモニタリングしたり、時には空き缶を圧縮するプレス機の故障対応も行いました。現地の物価はビール1本が1ドルほど。5セントはごく少額ですが、アメリカからの補助に頼っているマーシャルでは現金収入の手段が乏しく、手軽に現金を手にできる制度は大いに機能しました。他にも、学校や職場で環境教育を兼ねて制度を周知・啓発したりと、CDLを広めるお手伝いはいろいろできました。
私が関わったもう一つの取り組みは落ち葉や剪定枝を使ったコンポスト(堆肥)。マーシャルの国土はサンゴ礁から成り、野菜などを栽培するための土がほとんどありません。野菜類をほぼ輸入に頼っているため、家庭菜園などで野菜を育てたいというニーズは多く、良質のコンポストを作れば販売できる可能性がありました。CDLに並ぶ安定収入にもなるため、ごみ処理ありきではなく、良いコンポストを作ることを主眼に試作を行いました。
コンポストに関しては事業化を見届けられずにコロナ禍で一斉帰国となりましたが、配属先では取り組みを続けてくれて、同僚から「売れるものができたよ」とメールが届きました。やはりお金はモチベーションにつながる有効な要素ということでしょう。次の派遣国のフィジーでも「売れるコンポスト」作りに取り組むつもりです。
平均海抜が2メートルほどしかなく、気候変動による海面上昇の影響が懸念されるマーシャルですが、一般国民の環境意識はごく薄い印象でした。お金という切り口を示すことでも人々の意識や行動を変えられれば、立派な貢献の形といえるのだと思います。
大学卒業後、青森県庁に入庁。出先機関では土砂災害の復旧業務に携わったほか、本庁では松くい虫被害などの森林病害虫等防除業務を担当。現職参加で2018年から20年までソロモンで活動後、復職し、現在は県上北地域県民局林業振興課に勤務。
日本の森林面積は国土の約67%。ソロモンは約78%で、私が大学時代を過ごした岩手県の森林率とほぼ同じです。奇遇を感じながら、ソロモンの豊かな森林資源の有効活用と保全に努めた2年間でした。森林は二酸化炭素の重要な吸収源であり、気候変動対策に欠かせない要素である一方、ソロモンでは林業が国の主要産業。木を切るのは仕方ないことでもあり、その持続可能な活用を担保しなければなりません。
私は森林資源の有効活用と保全という要請で森林・研究省の地方事務所に所属し、5人の職員と一緒に事務所の業務に携わりました。例えば、海外企業による森林伐採と丸太輸出の検査、河川周辺などの保安林における違法伐採の調査、森林所有者への樹木の種の配布、育てた苗の安価での販売など。また、丸太の輸出だけでは収益が限定的という課題があり、木材の付加価値を高めるため、移動式の製材機械をボートに載せて管轄地域内を回り、木材加工技術の指導・普及にも関わりました。
要請以外に自ら発案した活動としては、配属先が大きな街の中心部に立地していたことから、日本人の私が何か目立つ展示物を常設すればいろいろな人の目につくと思い、着目したのがキノコ原木です。ソロモンでは木材にならない細い丸太は捨てるか薪にしてしまいます。しかし、それを原木として活用すればキノコを栽培でき、森林資源の有効活用につながります。法律上の問題がない範囲でサンプルとなるキノコの種菌を持ち込み、植菌した原木をデモンストレーションとして敷地内に展示しました。その後、現地でも切り倒したサゴヤシ(※2)の幹を腐らせてフクロタケというキノコを栽培する地域があると聞きつけ、ヒアリング調査により事例を整理しました。
国内でキノコを食用とする習慣は一般的ではないため、こうした取り組みからキノコなどの特用林産物(※3)への関心が高まることを期待しています。国内には国立大学が1校しかなく、ソロモンの人が森林分野の教育を受ける機会も限られていたので、私たち協力隊員の活動が持続的な森林利用を意識する刺激となれば嬉しいです。
また、活動を経て、途上国の現況調査などに関しては協力隊員が貢献できる側面があることも感じました。私はフクロタケの調査結果をまとめて日本のサゴヤシ学会に論文を出したことがありますが、気候変動と関連した規模の調査も含め、何をするにも世界各地の現場のリアルな情報が必要です。地域住民に身の回りの環境変化について聞き取ったことを日本の研究者に共有する機会があれば、それだけでも貴重な情報となるかもしれず、その点においては地域密着で2年間暮らす隊員だからこその優位性があると思います。
※1…Container Deposit Legislationの略。太平洋島しょ国の他の地域でも導入された実績がある。
※2…東南アジアや大洋州に分布するヤシの一種で、幹に含まれたデンプンが食用になる。
※3…森林由来の生産物のうち、木材を除いたキノコ、山菜、木炭などの総称。
Text=大宮冬洋 写真提供=金沢正文さん、蝦名雄三さん