間接的にでも、気候変動対策などに貢献できる活動はある。例えば、ごみを減らせば輸送で消費する燃料の節約になり、薪や炭の使用を減らすことは森を守ることにつながる。任地でも取り組める技術をピックアップした。
高校時代に開発途上国のごみ問題に興味を持つ。大学卒業後、廃棄物処理や資源リサイクル事業を手がけるDOWAエコシステムで5年間勤務。スリランカからの帰国後は、juwi自然電力で太陽光発電所建設のプロジェクトマネージャーを務める。
日本では当たり前のごみ焼却は、衛生面などでメリットがありますが、焼却施設を建設・稼働させるには資金と技術が必要です。多くの国では維持が難しく、私が赴任したスリランカでも同じ事情から焼却は行われず、ごみはじかに埋め立て地へ送られていました。そこで、ごみの減量化のため、生ごみを堆肥化するコンポスト技術の導入が進んできました。果物の消費が多いスリランカではごみの半分以上が生ごみなので、その効果は小さくありません。
日本の支援などで大規模なコンポストセンターが建てられた街もありましたが、私が赴任したキャンディ市にはなく、そこで力を入れたのが、技術補完研修(※)で習った「高倉式コンポスト」です。培養した微生物を加え、酸素量や水分率をコントロールすることで発酵を促進し、バケツ大の小さな容量でも有機物を効率的に堆肥化できる技術なので、各家庭で生ごみが処理できます。通気性・通水性のある容器を用いるなどの条件があり、取り組む時には任地で手に入る素材を探すところから始まります。
配属先の市役所でも関心を持っていたので、450世帯にコンポスト容器を配布して使ってもらう目標を立て、担当者が市内の自治会を巡って環境系の啓発活動をする時に便乗してワークショップを実施。主婦の方などを集め、用意の仕方から日々の管理まで実際に作業しながら説明し、家に持ち帰って使ってもらいました。計200~300世帯に配布できたのですが、なかなか続かない人もいました。趣旨に共感してくれる人は多いのですが、やはり悪臭や虫の発生を抑えるには知識と経験、いくらかのやる気が必要なので、それをサポートする体制が持続性を高める上で重要なのだと思います。
環境意識の面ではスリランカはまだまだ未成熟で、私は学校などでの環境教育にも注力して50回以上の授業を行いました。ただ、何でも焼却炉へ送る日本の状況を振り返ると、水分が多い生ごみは余計な燃料を消費し、余分に二酸化炭素を排出します。日本は最新鋭の焼却施設を持つごみ処理の先進国とされていましたが、気候変動への懸念が高まる現在、焼却は必ずしも正解ではなくなりました。逆に、焼却以外の手段を普及させてきた途上国が時代をリードできる可能性を秘めています。コンポストの情報はウェブ上でも多く紹介されていますから、環境教育以外の方も挑戦してみてほしいと思います。
●発酵食品やキノコ、野菜・果物の表面の酵母菌や乳酸菌といった現地で得られる微生物を培養し、発酵に用いる。
●毎日攪拌することで酸素を積極的に送り込んで発酵を加速し、発生する熱で腐敗菌や害虫の発生を抑える。
●酸素の供給と、余計な水分の排出のため、通気性と通水性のある容器を使う。かごに布で内張りをしたり、素焼きの陶器を使うのもオススメ。
▼つくり方・注意点はコチラ!
https://www.jica.go.jp/kyushu/office/compost_method.html
大学で社会起業を学び、フェアトレード商品販売や植林活動を経験して国際協力に興味を持つ。大塚製薬に入社して7年目に協力隊に現職参加。趣味は楽器演奏。毎日の活動後は、ギターを弾きながら任地の人たちと歌って踊る時間を楽しんでいる。
マダガスカルは固有の動植物が多くてすてきな島国ですが、全国的な森林破壊が問題となっています。主な原因は、焼き畑、材木用の伐採、そして燃料としての利用といわれますが、その影響は二酸化炭素の吸収源が減ることだけではありません。樹木による保水能力が失われ、土砂崩れなどの災害が頻発しています。
ガスのない家庭も多く、燃料として木炭や薪を使わざるを得ない現実もあります。ただ、石やレンガを積んだだけのかまどで炊事をしている家庭が多いため、燃料効率が悪く多くの木を消費し、煙が多く出るので健康への悪影響も課題です。
私は首都に所在する農業畜産局に配属されているのですが、直接の活動先は郊外の市で、市役所の方々と共に地域の生活改善に取り組んでいます。地域長と呼ばれる住民の取りまとめ役にお願いして任地の戸別訪問を続ける中で注力しているのが、マダガスカルのコミュニティ開発分科会に伝わる「泥炭」という代用燃料の普及です。身近な材料を使ってほぼ無料で作ることができると聞き、過去のマダガスカル隊員から引き継がれてきた生活改善に関する資料を基に取り組んでいます。
材料は、乾いた草、木炭の袋の底にたまった炭の粉、牛ふんなど、身近な物ばかりで、子どもでも楽しく簡単に作れます。薪や木炭と比べて火がつくまでに時間がかかりますが、より持久性があり、じわじわと何時間も熱を発し続けます。特に、各国で取り組まれている「改良かまど」と組み合わせれば泥炭3個で一日の炊事が可能です。
各家庭で無理せずに使えて、経済的なメリットがあるため、手応えを感じています。泥炭と改良かまどを導入した家庭にヒアリングしたところ、「遠くまで薪を拾いに行く回数が減った」「子どもたちが泥遊び感覚で泥炭を作ってくれるので助かる」といった嬉しい声があり、薪の使用量は半分以下に減っているようです。森林の減少にまで関心がある人は少ないのですが、泥炭や改良かまどの作り方を教えながら「木の切り過ぎは良くないよね」とも伝えるようにしています。
すでに実用レベルになっている泥炭ですが、より簡単に作れて効果的なものを開発するため、マダガスカルのコミュニティ開発分科会でさまざまな泥炭を作って効果を試しているところです。例えば、唯一お金のかかる材料が木炭の粉ですが、これを抜いてしまうと火がつかないことがわかりました。一方、乾いた草がなくても火はつくことも判明しています。
マダガスカルでは4月から11月にかけての乾期に、土地を掘り起こして粘土を得て建材のブロックなどを作ります。同じく粘土を材料として使う泥炭や改良かまどを作れるのも乾期に限られているので、4月からは自分でもたくさんの泥炭を作って普及活動を一層進めていきたいと思います。
※…活動に必要な技術・技能の向上のため、一部の職種の合格者が訓練所入所前に受けていた研修。現在は課題別派遣前訓練に制度変更。
Text=大宮冬洋(北さん、木川さん)、飯渕一樹(本誌) 写真提供=北 俊宏さん、木川莉江さん