派遣国の横顔   ~知っていますか?
派遣地域の歴史とこれから[モロッコ]

2022年のサッカーW杯でアラブ、アフリカ諸国として初の4強入りを果たしたモロッコ。
青年海外協力隊の派遣は1967年からと長い歴史がある。
モロッコ

モロッコ王国

  • 首都:ラバト
  • 民族:アラブ人(65%)、ベルベル人(30%)
  • 言語:アラビア語(公用語)、ベルベル語(公用語)、フランス語
  • 宗教:イスラム教(国教)スンニ派がほとんど

※2020年3月16日現在
出典:外務省ホームページ
免責:本地図上の表記は図示目的であり、いずれの国及び地域における、法的地位、国境線及びその画定、並びに地理上の名称についても、JICAの見解を示すものではありません。


  • 派遣実績
  • 派遣締結日:1967年9月11日
  • 締結地:ラバト
  • 派遣開始:1967年9月
  • 派遣隊員累計:1,166人

※2023年2月28日現在
出典:国際協力機構(JICA)

日本企業も多数進出。大西洋と地中海に面した
ヨーロッパとアラブ、ベルベル文化の融合地

1967年、アラブ圏で初めて協力隊派遣が始まったモロッコ。派遣人数は1200人近くにのぼり、2011年に中東で広がった民主化運動「アラブの春」の際にも大きな混乱に至らず派遣は続いた。モロッコ協力隊OVの工藤健一さんに協力隊の歴史と共に社会や人々について話を聞いた。

お話を伺ったのは

工藤健一さん
工藤健一さん
測量/1983年度1次隊・岩手県出身

PROFILE
測量会社を休職して協力隊に現職参加し、ラバトの都市開発のための測量を行う。帰国後、復職。1999年に独立し海外のODA事業のプロジェクトに従事。2005~07年、草の根・人間の安全保障無償資金協力の外部委嘱員として在モロッコ日本国大使館で勤務。09年より約10年、JICAモロッコ事務所で円借款事業とボランティア事業に携わり、定年退職。現在、在モロッコ日本国大使館外部委嘱員、モロッコ隊員で構成するフェイスブックグループの管理人。

   モロッコはアフリカ北西部に位置し、大西洋、地中海に面し、アトラス山脈を挟んで、サハラ砂漠に接している。ヨーロッパから見て最も近いアフリカの国で、フランスをはじめヨーロッパ諸国と深い関係にある。2011年来の「アラブの春」では、国王主導の政治改革によって早期に安定を取り戻した。

携帯電話やインターネットもない当時、隊員同士で集まることは何よりの励みになった。「隊員有志でバレーボール隊員の任地でモロッコチームと対戦したことはいい思い出です」(写真提供=工藤さん)

携帯電話やインターネットもない当時、隊員同士で集まることは何よりの励みになった。「隊員有志でバレーボール隊員の任地でモロッコチームと対戦したことはいい思い出です」(写真提供=工藤さん)

   日本はモロッコ独立の1956年に外交関係を樹立し、皇室と王室の親交も深い。「89年、皇太子だった現国王モハメド6世が、昭和天皇の大喪の礼に出席した際の通訳の一人は、モロッコOGでした」と83年から同国で青年海外協力隊員として活動し、後にJICAモロッコ事務所でボランティア事業に携わった工藤健一さんは言う。

   協力隊の歴史は古く、派遣開始は全派遣国中8番目。アラブ圏では最初の派遣国で、2017年には派遣50周年を祝った。

   当初は、農業土木、建築、自動車整備、電子機器などの職業訓練の職種が多く、空手、バレーボール、水泳などのスポーツ隊員もいた。1980年代までは男性隊員がほとんどだったが、90年代になると女性隊員の派遣が増え、SE、服飾、日本語教師、青少年活動、コミュニティ開発、保健医療などの分野で活躍してきた。

   また、モロッコはアフリカ第1位の漁獲量を誇る。日本に輸入されるタコの2~3割を占め、マグロやイカの輸出も多い。日本は70年代から水産業を支援し、零細漁村を支援する隊員の派遣も行われた。

   現在、モロッコに進出する日系企業は約70社とアフリカ諸国の中で多く、アフリカや欧州市場への拠点として関心を寄せる企業も増えている。

左:カサブランカのメディナ(旧市街)、右:フェズのモスク(どちらも1999年 写真提供=ホシカワミナコ・本誌)

左:カサブランカのメディナ(旧市街)、右:フェズのモスク(どちらも1999年 写真提供=ホシカワミナコ・本誌)

   近年の経済成長により1人あたり国民所得が3000ドルを超え、以前よりも開発が進んでいるように感じるが、現在、草の根・人間の安全保障無償資金協力に携わる工藤さんは、「国民の約25%が貧困層で、都市部と内陸部・山岳地域との社会・経済の格差が大きい。特に地方の飲料水供給、社会福祉、教育、雇用創出は喫緊の課題です」と話す。

   モロッコで活動する上では、「隊員が任地で何か提案する際も、議論することから始めなければうまくいかない」と工藤さん。幼い頃から自分で考え自らの言葉で伝えるよう育つため、「モロッコ人はよくしゃべる」のだという。

「なぜそうしたいのかを説明し、相手はそれをどう思うのかを丁寧に聞く。誇り高い人たちですから、彼らがイニシアティブを持つように働きかけていくことが大切です。日本人がフランス語やアラビア語をうまく話せないのは当たり前ですから、それを理由とせず、開き直って、積極的に自分の考えを伝えてください」

Text=工藤美和

知られざるストーリー