ほとんどの協力隊員が避けては通れない「語学の壁」。コミュニケーションがままならなければ、活動はもちろん日常生活でも、多くのストレスにさいなまれるでしょう。他方、この壁を乗り越えることは、活動に勢いをつけたり、現地の人々との距離を一気に縮めたりするチャンスでもあるはずです。訓練所で、あるいは任地で、活動言語の難しさに直面した5名の隊員経験者の方々に、どうやって語学の壁に挑み、結果に結びつけたのかを伺いました。ひたすら語学力を向上させたり、うまく意思疎通できるよう工夫したりと多様な取り組み方があるので、自分に合ったやり方を見つけるヒントにしてほしいと思います。
大学在学中にオーストラリアへ1年間留学。卒業後、大阪府内の中高一貫校で英語教員を3年間務め、2019年12月、協力隊員としてヨルダンに赴任。新型コロナウイルス感染症拡大を受けて3カ月半後の20年3月に帰国し、21年10月から再び同国で活動している。
アラビア語は協力隊員が学ぶ言語の中でも特に難しいものの一つとしてしばしば挙げられる。文字がつながって変形したり、日本語にも英語にもない独特の発音があったりと難解で、ビギナー泣かせ。文法も複雑だ。しかも三池さんへの要請はパレスチナ難民キャンプの幼稚園児への英語教育や青少年への情操教育で、なおさら現地語が必須だった。
配属先の女性プログラムセンターでアクティビティを行う三池さん。小学生の少女たちに将来の夢を発表してもらった
そこで三池さんは、訓練の時点から語学習得に熱心に励んだ。訓練所入所前のeラーニングでは「アラビア文字と100の基本単語は完璧にして入所する」との目標を定めて勉強。派遣前訓練中は、授業で学んだ新しい単語を毎夜ホワイトボードに書き出し、同じクラスの候補生とクイズ形式で復習するなど、教わったことの定着に力を入れた。また、ある日の宿題で、新しく学んだ単語で日記を書くという勉強法に手応えを感じ、毎日、自主的に日記を書いて講師に添削してもらった。
「赴任後1カ月間の現地語学研修の最後まで、ずっと続けていました」
こうしてできることはやってヨルダンに赴任した三池さんだが、ニュースや本で使われる正則アラビア語の「フスハー」と、日常会話で使われる「アンミーヤ」の違いに戸惑った。「訓練所で学んだのはフスハーで、赴任後1カ月間の現地語学研修ではアンミーヤを学びました。両者は単語一つ取っても全く違いますが、フスハーでアラビア語の基礎を学んでいたからこそ、アンミーヤもよく吸収できたのだと思います」。
三池さんが挙げる語学上達のポイントは、〝わかったフリをしない〟こと。「わからない部分はその都度聞き直し、聞いた単語を翻訳アプリに入力してもらったり調べたりして、記憶に定着させる努力をしています」。
また、コロナ禍での一斉帰国を経た再赴任後は、小中学生にもアクティビティをしてほしいとの声がかかったことから、さまざまなプログラムを考えてアラビア語の原稿を用意し、周囲の同僚らに言葉をチェックしてもらっている。「添削してもらった原稿を覚えて、紙を持たずに授業をするようにしました。おかげで語彙が増えて、よりうまくしゃべれるようになったと実感しています」。
今ではアラビア語を使いながらダンスや歌を交えた授業をしたり、現地の教員と議論したりと、同僚からは「アラビア語ができる日本人」とのお墨つきを得ている。
コロナ禍による待機期間中は、アラビア語を忘れないようにと、京都にあるイスラム文化センターのアラビア語講座やJICAが用意したオンライン授業を受けました。偶然にも訓練所で教わった先生から一対一のレッスンを受けることができ、「すごく上達したね」と褒めて伸ばしてもらい、モチベーションを維持できました。
Text=新海美保、飯渕一樹(本誌) 写真提供=三池桃那さん