[特集]私はこうして乗り越えた   語学の壁との向き合い方

CASE3【ピジン英語】
英語も現地語も苦手ながら書評ゲームを催してリスニング力UP

益井博史さん
益井博史さん
ソロモン/青少年活動/2015年度3次隊・京都府出身

2014年3月、神戸大学理学部地球惑星科学科卒業。16年から青年海外協力隊としてソロモン諸島に赴任。18年、立命館大学情報理工学部創発システム研究室で、人同士のコミュニケーションに関する研究に携わる。同年、ビブリオバトル普及委員会理事に就任、20年から一般社団法人ビブリオバトル協会事務局長兼務。


「最初は現地の人が何を言っているのかわからず、冷や汗をかいていました」と振り返るのは、ソロモンのイザベル州で児童の読書習慣の向上のために活動した益井博史さんだ。派遣前訓練では一般的な英語を学んだものの、ソロモンで主に話されるのはピジン英語。「島や村落ごとに異なる言葉を話す人々の共通言語が、英語を簡素化したピジン英語です。英語が得意な人ならすぐに習得できると思いますが、私は英語自体が苦手。ソロモン独特のなまりもあって、コミュニケーションを取るのもおぼつきませんでした」。

巡回先の学校図書館でビブリオバトルを開催。「子どもたちの表情がキラキラ輝く瞬間を見るのが楽しかったです」

巡回先の学校図書館でビブリオバトルを開催。「子どもたちの表情がキラキラ輝く瞬間を見るのが楽しかったです」

   そんな益井さんが語学力をアップさせられたのは、活動の一環で「ビブリオバトル」という書評ゲームに取り組んだことがきっかけだった。

   ビブリオバトルでは、好きな本の魅力を人前で紹介し、一番読みたくなる「チャンプ本」を参加者全員の投票で選ぶ。赴任当初は自己紹介の壁新聞を作ってみたりしながら子どもたちとのコミュニケーションの糸口を探していたが、図書館に2000冊以上の蔵書があることに目をつけ、子どもたちに好きな本を選んでもらってビブリオバトルを始めた経緯がある。

「言葉をろくに話せないからこそ、子どもたち同士で本を紹介し合って対決してもらう手法を取りました。最初の回をやった時、思った以上に盛り上がって手応えがありました」

得意分野の〝型〟を持ち込み
歯車が動きだす

   益井さんは元々、大学時代にビブリオバトルの大会に出場してのめり込み、大会運営などにも携わった経験があった。それでも言葉に不慣れな状況で人前に立って話すのは緊張したが、職場の同僚たちがやり方を理解してサポートしてくれて、どうにか進行できた。

「最初は子どもたちが話している言葉も少ししか聞き取れなかったのですが、ビブリオバトルの場であれば、話す内容は本を紹介するためのものに絞られます。流れは熟知しているので、本の中身まで把握していなくても『今は感想を話しているな』などと何を話しているか予想しやすく、そうして少しずつ聞いて理解する経験を重ねるうちに、聞き取る力が上がっていきました」

   得意分野の〝型〟を持ち込むことで、わからないことだらけだった状況から抜け出し、歯車が動きだしたのだ。

「必ずしもビブリオバトルである必要はありません。何か自分が得意だったり、詳しく知っていたりする分野に持ち込めば、おのずと理解は深まります。それを足がかりに、聞き取れる語彙の範囲を広げていけるはずです」

私の語学メモ

自分自身の語学力が向上したことで、子どもたちがピジン英語で発言したり質問したりする場面を多く設け、盛り上げるポイントを押さえることもできるようになり、活動の面では生徒の主体的な参加につながりました。複数の島の図書館を巡回するようにもなって、100回以上のビブリオバトルを開催でき、延べ3000人が参加してくれました。


言語を学ぶための参考ツール

益井博史さん

Text=新海美保   写真提供=益井博史さん

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