失敗に学ぶ
~専門家に聞きました!   現地で役立つ人間関係のコツ

今月のテーマ:休みと計画達成に向けた感覚の差

今月のお悩み

▶配属先が学校のため、長期休みがあり活動計画に沿って動けない上、達成に向けた感覚の差も気になります
(家政・生活改善/女性)

   文化も時間の流れも日本と違うことは認識していますが、休みが長く、活動が思うように進まず、成果が出ないのではと焦りを感じています。

   配属先でプロジェクトの提案をしても、カウンターパートや上司は長期休みに入るため計画がなかなか決まらなかったり、やっとプロジェクトが動きだしても、同僚がしばしば休んだりします。

   事前準備も直前で、すべてのことに「だいたいでいい」という感覚があるようで、それでいいのかと不安を抱えています。

今月の教える人

藤掛洋子さん
藤掛洋子さん
パラグアイ/家政/1992年度2次隊・福岡県出身

JICA海外協力隊技術顧問(家政・生活改善、栄養士、料理)。横浜国立大学都市科学部長・同大学大学院都市イノベーション研究院教授。お茶の水女子大学博士(ジェンダーと開発)、カアグアス国立大学名誉博士号(地域開発)。社会的弱者のエンパワーメントをテーマに研究を行う。認定NPO法人ミタイ・ミタクニャイ子ども基金理事長としてパラグアイ農村部の女性や子ども、スラムの若者たちの教育、保健・栄養改善を目指して活動。JICA理事長表彰、パラグアイ上院議員表彰ほか、パラグアイにおける国際協力活動に対する表彰多数。

藤掛先生からのアドバイス

▶成果は捉え方によって変わるもの。広い視野を持ってあなたの活動で一番大切なことを見直してみましょう

   私が隊員だった頃も同様の悩みがありました。

   パラグアイ農牧省に配属され、カアグアス県の農業普及局で生活改良普及員として、37の村と、複数の村の学校を巡回しました。衛生・栄養指導のほか、村によっては野菜消費拡大プロジェクトも実施しました。

   計画的に活動したいと思っていましたが、天候もありますし、12月になればクリスマスシーズンに入り長期休みが始まります。1月はニューイヤーがあり、2月までは学校が夏休みで子どもたちが家にいますので、その間にプロジェクトを実施することは容易ではありませんでした。「家族や友人との予定を最優先して休みを取る」といった休日の捉え方の違いも学びました。

   とはいえ、活動は進めたかったので、「自分の活動は誰のためのものか」を見つめ直し、私の活動意義は受益者である農村女性と子どもたちのためにあると考え、村のリーダー的存在の女性をキーパーソンとして、プロジェクトを進めました。その時、活動に消極的だったカウンターパートに対しても、進めているプロジェクトの進捗状況を報告したり、交流を持つことを忘れないようにしました。

「だいたいでいい」という考え方も、パラグアイの農村部にはありました。活動時に隊員が対象地域の文化をどの程度受け入れるのかも、難しい選択だと思います。

   私の場合は、村の女性たちの収入向上のために、野菜や果物を加工して販売する指導もしました。作業する場所の衛生環境が整っているか、食材や使ったもの、手を洗うためのきれいな水があるか、防腐剤を使わなくてもカビが生えないようにできるかなど、途上国ではあらゆることが日本の常識とは違うはずです。

   これらをどこまで許容して譲歩するか。日本の整った環境で調理や食品加工関連で仕事をしてきた隊員たちにとっては「だいたいでいい」とは思えず、ジレンマがあると思います。

   その日のうちに食べるものとして販売するのか、保管する冷蔵庫や冷凍庫がないなら、日本のおせちのように、日持ちさせるために砂糖や塩などを多めに使って調理するのか。それでは栄養改善にならないかなど、家政・生活改善関連の職種の活動は幅が広いので、考えることがたくさん出てきます。

   私は隊員活動終了後に立ち上げたNPOの活動として、現在でもパラグアイ農村部でプロジェクトを続けています。特に栄養改善や生活改善、地元の習慣やコミュニティを変えていくことは難しく、幼い頃から慣れ親しんだ習慣や培った味覚はすぐには変わらないことを実感しています。また、彼ら・彼女らの伝統や文化を完全に否定してしまっては、自尊心を傷つけることにもなりかねませんし、間違うと文化的暴力にもなります。

   何をもって「活動成果」と捉えるかは、考え方によって変わります。例えば、活動計画どおりに講習会やプロジェクトを行えば、「いつ、何を行って、何人集まった」といった事実を報告書に記すことはできます。それを「活動成果」と考えることもできるかもしれません。しかし私は、やろうとしたことが現地の方々に受け入れられ、浸透ししていくことが大きな成果であると考えます。

   いかなる時にも大切なのは、「現場の声に耳を傾けること」です。対象地域の方々の一人ひとり、状況もニーズも違うでしょうし、心を開いてもらうまでには時間もかかります。根気よく地元の方たちの本音を聞く。そうやって現地の方たちの可能性を信じて、現地の方たちのやり方を尊重しながら活動をしていくことが、将来的には持続可能性を担保し、大きな成果につながるのではないかと考えます。他の隊員の方々の活動と比べる必要はありません。広い視野を持って、焦らずに活動していきましょう。

Text=ホシカワミナコ(本誌) 写真提供=藤掛洋子さん  ※質問は現役隊員やOVから聞いた活動中の悩み

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