この職種の先輩隊員に注目!   ~現場で見つけた仕事図鑑

栄養士

  • 分類:保健・医療
  • 派遣中:12人(累計:500人)
  • 類似職種:保健師、看護師、料理、公衆衛生、家政・生活改善

※人数は2023年3月末月現在

CASE1

飯田晃生さん
飯田晃生さん
グアテマラ/2016年度3次隊・大阪府出身

PROFILE
大学で栄養教諭の免許を取得。兵庫県で2年間、学校給食や小学校の食育授業に携わった後、協力隊に参加。帰国後は栄養教諭として兵庫県の学校に勤務しながら大学院へ。協力隊の活動を基に、グアテマラの学童期の栄養課題と学校を基盤とした改善方策に関わる研究を行い、修士号を取得。

配属先:トトニカパン県教育事務所

要請内容:地方都市の教育事務所に所属し、小学校児童への食育、教職員や給食の調理担当者に対する研修を通じて、給食の内容を改善し、慢性栄養不良の改善と共に児童の健全な発育と将来の生活習慣病リスクの低減を図る。

CASE2

佐野亜衣子さん
佐野亜衣子さん
フィジー/2016年度3次隊・北海道出身

PROFILE
大学で管理栄養士の資格を取得。病院や高齢者介護施設などで約6年、給食・栄養管理に携わった後、協力隊に参加。公衆衛生の仕事に魅力を感じ、将来は保健医療分野で国際協力に携わることを視野に入れ、現在、医療コンサルタント会社で在宅医療サービスを希望する人の相談員を務める。

配属先:ナウソリヘルスセンター

要請内容:配属先の栄養士の一員として管轄の病院やヘルスセンター、学校などを訪問し、食生活改善をアドバイスする。その他、生活習慣病対策のプロモーション活動やイベント開催のサポートも行う。

   専門的な知識と技術を持ち、対象者の栄養指導や栄養管理、給食の管理・運営、食育などを行う栄養士職種。

   要請内容は、地域住民への栄養教育プログラムの開発、疾病治療における栄養管理・栄養指導、学校給食の改善、低栄養児とその母親などへの栄養教育の提供、地域の糖尿病患者対象の栄養管理・教育まで幅広い。

   所属組織、施設内の仕事にとどまらず、地域全体を視野に入れ、柔軟な発想で課題解決を図る。

CASE1

3800人の身体測定から始まった給食改善と食育

食育の授業で、身体を動かす熱や力になる「黄色」の食品について教える飯田さん。「グアテマラは栄養士隊員や家政・生活改善隊員が多く、先輩が残した教材を使わせてもらいました」

食育の授業で、身体を動かす熱や力になる「黄色」の食品について教える飯田さん。「グアテマラは栄養士隊員や家政・生活改善隊員が多く、先輩が残した教材を使わせてもらいました」

   協力隊に参加するために2年間、学校給食や小学校の食育授業に携わった後、グアテマラのトトニカパン県教育事務所に赴任した飯田晃生さん。要請内容は、先住民族が約9割を占め、うち8割が貧困層というサンアンドレスシェクル市の公立小学校21校が提供する給食の栄養改善と、教職員や地域住民への食育だった。

   提供されていたのは「レファクション」(※1)と呼ばれる間食で、主食のトウモロコシの粉に砂糖を入れて煮込んだ「アトル」という飲み物とパンか、アイスやスナック菓子といった内容で、教師がメニューを決め、児童の母親たちが交代で学校で作って提供していた。

   飯田さんは、まず児童の栄養状態を調べようと、自ら測定器を持って市内の全小学校を回り、児童約3800人を測定した。

「児童や先生、お母さんたちと接して確認できたのは、栄養についての知識がないために炭水化物や砂糖を取り過ぎていること。インスタントコーヒーを薄く作り砂糖をスプーンで5杯ぐらい入れて飲んでいました」

   飯田さんは、現地の人々は、そもそもなぜ健康に良い食事を取らなければならないのかを理解できていないと感じ、食事を改善することのメリット、偏った食事のデメリットを伝えることが大切だと考えた。

給食調理を担当するお母さんたちへ野菜の取り入れ方などを教えた飯田さん。「食文化が異なるとおいしいと感じる味も違ってきます。私が考えた献立を一緒に調理して『おいしい』と言われると嬉しかった」(飯田さん)

給食調理を担当するお母さんたちへ野菜の取り入れ方などを教えた飯田さん。「食文化が異なるとおいしいと感じる味も違ってきます。私が考えた献立を一緒に調理して『おいしい』と言われると嬉しかった」(飯田さん)

   児童への食育授業では、クイズ形式で三色食品群(※2)による栄養の知識や栄養バランスの良い食事について紙芝居で教えた。教師や保護者向け講習会では、糖質を取り過ぎると病気のリスクが高まることなどを伝え、「コーヒーに入れる砂糖を今日から5杯から4.5杯にしてみませんか。それができたら来月は4杯にしてみましょう」と働きかけた。

   飯田さんは児童の測定データをまとめる中で、年齢の割に身長が伸びていないこと、その体格が第2次世界大戦終了後の食糧難の時代にあった日本の子どもとほぼ同じことに気づいた。

「グアテマラの先住民の人種的なルーツは日本人と同じモンゴロイド系だと知られています。給食担当の先生や保護者には、当時と60年後の日本の子どもの体格の変化をグラフで見せ、栄養バランスの良い食事に改善していったことや学校給食の役割を話し、栄養状態が改善されればこの国の子どもの体格も向上させられると伝えました」

   活動終盤には、モデル校の給食にタンパク質や野菜を取り入れた具体的な改善を提案、保護者への料理指導も行った。

CASE2

食べることが大好きな人たちに無理なく続けられる栄養指導を

   糖尿病や心血管疾患など生活習慣病が死因の約8割と社会問題化しているフィジーで栄養指導に取り組んだのが佐野亜衣子さんだ。

巡回活動中に、食べ物に含まれる「見えない砂糖」の量について話す配属先の栄養士(左)と、食べ物のイラストの隣に含まれる糖質量を砂糖で示した自作の資料を掲げる佐野さん。「人手が少ない巡回医療チームの一員として、同僚の栄養士を補佐する形で活動しました」(佐野さん)

巡回活動中に、食べ物に含まれる「見えない砂糖」の量について話す配属先の栄養士(左)と、食べ物のイラストの隣に含まれる糖質量を砂糖で示した自作の資料を掲げる佐野さん。「人手が少ない巡回医療チームの一員として、同僚の栄養士を補佐する形で活動しました」(佐野さん)

「食べることが大好きな国民なんです。海外から安価な食品が入るようになってから、インスタントラーメンをご飯にかけて食べたり、フライなど油を使う料理が増えたそうです。炭水化物と脂を取り過ぎる食生活が日常化しているようでした。多民族国家ですが、人種に関係なく共通の課題でした」

   佐野さんのメインの活動は、ヘルスセンター(※3)の医療スタッフと管轄地域の学校や村を巡回し、住民の身長・体重測定、血圧・血糖値測定や健康・栄養指導を行うこと。島しょ国でボートと車を乗り継がなければ最寄りのヘルスセンターにたどり着けない地域が多いため、医療側が出向く。佐野さんはチームの一員として、同僚の栄養士をサポートした。

   同行する中で、健康・栄養改善のための啓発資料は多くあるが、同僚たちは口頭で説明する講義が中心で、住民に内容は響いていないように感じられた。人々は生活習慣病のリスクを知りつつあったが、楽観的に捉えていた。

「糖尿病の人から『食べる楽しみが奪われるくらいなら足を切断したほうがいい』と言われたときはショックでした」

山奥の村では交通手段がないため買い物や受診すら困難だ。ヘルスセンターの巡回はボートに乗っての移動から始まった

山奥の村では交通手段がないため買い物や受診すら困難だ。ヘルスセンターの巡回はボートに乗っての移動から始まった

   佐野さんは住民に栄養や食事についてきちんと理解してもらえるよう、視覚に訴えるポスターや教材を作成し、講義に採り入れてもらった。炭水化物に糖質が多く含まれることを知らない人が多いため、「見えない砂糖」の量を理解してもらうための教材も工夫した。

   講義後にはグループワークを取り入れた。「患者さんが一緒になって学ぶことで理解が深まり、日々の生活改善に取り組むモチベーションもアップしているようでした」。

   また、食事改善の指導では、本人が無理なく続けられる取り組みを考えた。大皿に好きなおかずをたくさん盛って食べる習慣が肥満に結びついているため、皿に盛る主食とおかずのバランスや野菜を意識して取ることなどを伝えた。

   一方、忙しくて測定データを紙でしか保存できていなかった同僚のためには、小学1年から高校3年までの延べ56校1万4238人のデータを集計・分析し、子どもの肥満がおやつの買い食いと共に始まることなどを指摘するレポートを残した。

「草の根レベルで健康課題に取り組むためには、現地の生活スタイルを理解した上で、小さなことから意識や行動変容につなげること。その大切さを実感しました」

活動の基本

任地の食事や生活習慣を体験し理解した上で、対象者が取り組みやすい課題解決の方法を考える

※1 レファクション…朝食と昼食の間、昼食と夕食の間と1日2回ある軽食。
※2 三色食品群…食品が持つ栄養素の働きの特徴によって、食品を「赤色・緑色・黄色」の3つに分類したもの。
※3 ヘルスセンター…3つの国立病院の下にあり、地域の中核医療機関として診療などを行っている。

Text=工藤美和 写真提供=飯田晃生さん、佐野亜衣子さん

知られざるストーリー