※人数は2023年4月末現在
PROFILE
日本のホテルでコンシェルジュ、マカオ支店でゲストリレーションズマネージャーとして8年働いた後、国際協力の道に進む。海外協力隊の任期終了後は、スイスの大学院でホスピタリティを学び、ルワンダの学校プロジェクトに参画。現在は日本国際協力センター(JICE)に勤務している。
配属先:カヨンザ職業訓練校
要請内容:ホテルコースにて授業を担当し、インターンシップ受け入れ先のヒアリング調査、学校への情報共有を通じて授業の質の改善、就職率向上を目指す。
PROFILE
大学卒業後、システムエンジニアとしてJTBグループに勤務。旅行予約サイトの開発・運用を担当。「観光の第一線で活躍してみたい」と海外協力隊に応募。コロナ禍で緊急帰国した後、JICA帰国隊員奨学金事業を利用し、京都大学経営管理大学院観光経営科学コースに進学。
配属先:ベンゲット州ラ・トリニダード町役場観光課
要請内容:近隣の観光地バギオ市からの旅行客の流入を狙い、観光スポットの開拓、観光マーケティング、観光開発プランの策定を行う。
「観光」職種の活動内容は、観光省や地方自治体で観光政策・振興を行うほか、観光協会などでマーケティングやプロモーションの企画・実施を行う。
また、大学や職業訓練校に赴任して、観光サービスに従事する人材を指導したり、日本人観光客対応のための日本語教育など、人材育成に関わることも多い。
現地のニーズと現状をしっかりと把握し、それに応じたノウハウやスキル、実務経験を提供することが大切になる。
井上理恵さんがホテル勤務経験を生かして赴任したのが、ルワンダ東部県カヨンザ郡の職業訓練校。ホテルコースで学ぶ約100人の学生に、カスタマーケアやハウスキーピングなど、ホテル業務に必要な教科を教えた。
赴任3カ月後にカウンターパート(以下、CP)が退職し、突然、授業を一人で任されるという試練が襲った。しかし、程なく経験豊富なCPがつき、そこからは二人三脚で、さまざまな企画を実現させていった。
「ホテルに行ったことがない、エレベーターにも乗ったことがない、という学生が多かったんです。私自身、日本での上司から『現場を見て歩けば、お客様が求めるサービスがわかる』と指導され、実際に見て歩いたからこそ得られることがたくさんありました。だから学生たちにも本物のホテルを見せてあげたら、学ぶ姿勢が変わるだろうと思ったんです」
そこで企画したのが「ホテルツアー」だ。井上さんは、自ら首都の一流ホテルに出向き、学生たちにホテルを見学させてほしいと交渉して回った。結果、7カ所のホテルから受け入れOKをもらった。1回目はバス1台を借りて、学生20人と1日かけて四つのホテルを巡った。各ホテルでは、ランドリーやキッチンなどのバックヤードも解説つきで見学させてくれた。
「初めてのホテル体験に、学生たちは大いに刺激を受けていました。こんなホテルで働きたい、こんなスタッフになりたい、と働くイメージが初めて具体的に描けたようでした」
同時に近隣の小規模なホテルやレストランで学生が働きながら学べる「1日体験トレーニング」も企画。こちらはCPと共に交渉に回った。
「ホテルツアーに参加した子が1日体験トレーニングに参加すると、目的意識を持って働くので、働き方が違うんです。ダラダラ働いていた子も、それを見て良い影響を受けていきました」
首都の一流ホテルや近隣のホテル、レストランとつながったおかげで、インターンシップ先も一気に広がった。
「ホテルのインターンシップからそのまま就職できた学生もいて、ホテルのほうから学校に声がかかるようになりました。また1日体験トレーニングからレストランに就職が決まる学生もいて、就職率も向上しました」
井上さんが立ち上げた企画は、今も続いている。〝一流のサービス人材を育てたい〟という目標を達成するために、自ら行動を起こしたことが、要請内容以上の成果につながった。
旅行会社でシステムエンジニアをしていた淺井香澄さんは、2018年、フィリピンのベンゲット州ラ・トリニダード町に派遣された。
同町は、観光客が増えている近隣の観光都市バギオからの観光客の流入を目指し、観光政策強化を急いでいるが、人材・資金共に不足しており、成果につながっていなかった。淺井さんには、観光スポットの開拓やデジタルコンテンツの制作支援が求められた。CPは観光課長で、日々の業務で多忙ながらも新たな観光振興の取り組みを模索していた。
「ここでは初めての隊員だったので、素材は全くない状態。まず写真素材や動画を撮ろうと、日本から持参した一眼レフカメラやドローンで観光地やレストランを撮ることから始めました」
山岳地帯に位置するラ・トリニダードは観光資源が豊富でプロモーションには有利だった。素材を集めてからは、ウェブサイトの作業に取りかかった。
JICAフィリピン事務所主催のバザーで、観光プロモーションもかねてラ・トリニダードの特産品を販売するイベントにも参加した。
「CPと観光課職員、インターンシップ生2人と首都の会場に出向き、全員が民族衣装を着用し、特産品のイチゴやコーヒーなどを売りました。イチゴは、開始約10分で完売し、日本円で約3万5000円の利益を上げました」
成功の要因を淺井さんはこう語る。
「現地の方のやり方、視点を取り入れたほうが物事がより良くスムーズに進行することもあります。特にフィリピンは縦社会なので、権限のあるボスの協力を得るのが一番の秘訣(ひけつ)です」
赴任1年3カ月でコロナ禍のため緊急帰国となったが、サイト構築は帰国後も現地とやりとりしながら進めた。
完成したサイトでは、淺井さんが撮りためた写真を豊富に使い、観光スポットやイチゴ農園、山岳民族の文化を反映したアート、魅力的な風景やアクティビティなどが紹介されている。
「現地の方でも編集が容易なワードプレスを用いたサイトで、観光課職員、インターンシップ生、地域の観光従事者の方々それぞれに編集権限を設定して、記事の寄稿を依頼し、皆で運用できるような形で提案しました」
残念ながら、パンデミックによる緊急帰国と観光業への打撃で運用までは果たせなかった。
「隊員には任期があり、私一人の力でできることは限られています。だからこそ、現地の方が自らできるようになることを優先すべきでした。また、私のほうも現地の方から学ばせていただいたことも多く、協力隊での経験を糧に現在観光を学修しています」
Text=池田純子 写真提供=井上理恵さん、淺井香澄さん