[特集]隊員同士の知識やアイデアを持ち寄る!
分科会活動のいろは

CASE2   スリランカ環境教育分科会

飯野 亮さん
飯野 亮さん
スリランカ/環境教育/2012年度2次隊・東京都出身

大学卒業後に民間企業で廃棄物関連の仕事に携わった後、協力隊員としてスリランカへ。帰国後、福岡県北九州市のまちづくりNPOなどを経て、現在は熊本県上天草市役所で地方創生などを担当する。


ゴミ問題に向き合う
環境教育隊員たちの情報共有の場

世界63カ国で導入されている生ゴミリサイクル技術「高倉式コンポスト」を開発した髙倉氏(写真中央)を招いたセミナー

世界63カ国で導入されている生ゴミリサイクル技術「高倉式コンポスト」を開発した髙倉氏(写真中央)を招いたセミナー

   2012年に環境教育隊員としてスリランカのコロンボ郊外に派遣された飯野亮さん。当時、スリランカでは経済発展に伴うゴミ排出量の増加や不適切な処理で、環境悪化が大きな問題となっていた。そこで、07年から11年にかけてJICAが「全国廃棄物管理支援センター(以下、NSWMSC ※1)能力向上プロジェクト」を実施。スリランカ政府の機構としてNSWMSCが設置され、地方自治体でのリサイクルシステム構築や適正な最終処分などを支援していた。NSWMSCの出先機関が各地の自治体に設置されており、飯野さんら環境教育隊員の多くは、そこに派遣されて活動していた。

   当時すでに環境教育隊員から成る「環境教育分科会」が活動していて、「NSWMSCの地方出先機関への派遣という立場が隊員間で共通しており、自治体の規模感などに多少の差があるものの同じような課題を抱えることが多かったので、情報共有のため分科会が立ち上がったようです」。

家庭を回って通気性の良い容器を配り、コンポストのやり方を説明する飯野さん

家庭を回って通気性の良い容器を配り、コンポストのやり方を説明する飯野さん

   飯野さんが環境教育分科会の活動で最初に取り組んだのは、子どもたちの環境意識を高める「環境替え歌コンテスト」というイベントだった。スリランカ国内各地の5校ほどの学校の生徒たちに、ポイ捨てへの注意喚起など環境に関するメッセージを考えて流行歌のメロディに合わせて歌い、競ってもらうという内容だ。各地域で予選を行い、勝ち進んだ2校がコロンボのJICAスリランカ事務所で決勝戦に臨むという企画だった。

   「まだ赴任したての状況で、先輩隊員の助言を受けながら予選会まで3、4カ月で準備しました。私は市役所で活動していましたが、地元学校の協力を頼むには校長宛てに正式の依頼書をNSWMSCから送付してもらう必要があることなど、現地での仕事の進め方を知らなかったので、先輩に教わって覚える良い機会にもなりました」

   なお、コンテストでの生徒らの移動費や滞在費などの経費は、関わった隊員の連名で現地業務費(※2)として精算した。

個人の活動にもつながる高倉式コンポストのセミナー

シンハラ語でまとめられた高倉式コンポストのマニュアル

シンハラ語でまとめられた高倉式コンポストのマニュアル

   飯野さん自身が発案した分科会活動もある。自身の活動の一環で、生ゴミを堆肥化する家庭用コンポストの普及に取り組んでいた飯野さん。家庭への普及後に、コンポストの管理方法などをフォローアップできる人材の育成が必要な中、派遣前の技術補完研修(当時)で学んだ「高倉式コンポスト」(※3)の技術を生かしたいと考えていた。そこで、分科会メンバーたちと協力してスリランカ国内の約100の自治体の職員を対象にセミナーを企画。JICA事務所による費用面の協力も得て、高倉式コンポストの考案者である髙倉弘二氏らを日本から招き、現地の材料で比較的早く手軽に取り組める高倉式コンポストの有用性や手法を伝えた。

   さらに、セミナー後に自治体職員が主体的に家庭へのコンポスト普及に取り組めるよう、「タカクラコンポストネットワーク」を設立。各地の環境教育隊員に担当の自治体を割り振り、フォローアップ体制を取った。その際、定期的な会議の開催やマニュアル作りといった基盤整備を行っており、コンポストに関するマニュアルは分科会の成果物としてデータベースが共有され、後輩隊員に引き継がれていった。

視察や勉強会で学び合い横のつながりをつくる

   コンテストやセミナー以外にも、ゴミの最終処分場やリサイクル工場の視察を企画したり、活動状況をシェアする定例会を行うなど、分科会は各地で活動する隊員が一堂に会して学び合う場として機能した。

「処分場見学ではバスで数時間の移動があり、他の隊員と雑談する時間がたっぷり取れました(笑)。対面で話すのは横のつながりをつくる機会になりますし、やはり同職種で地方自治体に派遣されて似たような課題感を共有している中で、解決策を持った先輩もいるので、ノウハウの共有や蓄積の場として分科会が機能したと思います」

   会の歴代隊員が作ってきたシンハラ語のプレゼン資料なども、メンバーがいつでも利用できるようにオンラインで共有した。任期序盤は資料作りや状況把握だけで時間がどんどん過ぎてしまうこともあるが、資料の引き継ぎがあれば準備期間が短縮され、本格的な活動を開始するのも早くなる。職種や活動内容が近い隊員同士であれば、特にその効果は大きいだろう。

スリランカ環境教育分科会の年間スケジュール例(当時)

<替え歌コンテスト>

3月
■コロンボでの報告会の時に会合を実施

各人の課題を共有する中で、コンテストの企画が発表された。

5月
■参加校の募集開始

6月
■コンテスト予選

9月
■コンテスト決勝戦

決勝戦に合わせて、ストローで笛を作るワークショップも実施。


<高倉式コンポストセミナー>

10月
■セミナーの企画立案

翌年2月
■全国の自治体への案内状送付

3月~4月
■セミナーを実施

反響のあった10自治体と共に、コンポスト容器のパッケージ作成とモニタリング手法のガイドライン作成。

10月
■家庭用コンポストの普及開始

※1 NSWMSC…National Solid Waste Management Support Centerの略。

※2 現地業務費…配属先の予算的な問題で隊員活動に支障が出る場合などに、自助を損なわない範囲でJICAが一部支援する活動経費のこと。

※3 高倉式コンポスト…現地で手に入る発酵菌を活用するなどして、早く簡単で安価に生ゴミコンポストを作る技術。開発した髙倉弘二氏にちなんで高倉式と呼ばれる。

Text=新海美保 写真提供=飯野 亮さん

知られざるストーリー