[特集]隊員同士の知識やアイデアを持ち寄る!
分科会活動のいろは

CASE3   パプアニューギニア教育系分科会

服部晃平さん
服部晃平さん
パプアニューギニア/理科教育/2017年度3次隊・岡山県出身

大学卒業後、公立高校の教員として生物の授業を担当。2018年、協力隊員としてパプアニューギニアへ赴任。帰国後は漫画家として活動し、YouTubeチャンネル『パプア服部くん』、ブログ『パプア服部くんのPNG日記』などを運営する。


国内移動の難しい国で
分科会の催しを機会に見聞を広める

アルコールの爆発でコップを吹き飛ばす実験

アルコールの爆発でコップを吹き飛ばす実験

   パプアニューギニア(以下、PNG)での分科会活動において特異な事情は、同じ国内であっても、治安上の理由で訪問できる地域や移動手段に制約が多いことだろう。そうした中でも、有志の隊員たちによる「教育系分科会」が活動していたのだが、分科会の会合ができるのは首都で年に2回開催される隊員総会の時に限られており、活動に関する打ち合わせはその場で行うのが主だった。

   2017年にニューブリテン島西部の高校へ派遣されて理科の授業を担当した服部晃平さんも、分科会メンバーとして活動した一人だ。当時は10人ほどのメンバーがアイデアを持ち寄り、隊員の配属されている学校を訪ねて「サイエンスショー」と題した実験会を披露することが主な活動だった。

   通常、分科会では年間スケジュールを立てて活動するが、前述のように隊員同士が直接集まる機会も少ないPNGでは、事情が異なっていた。

分科会イベントを行った学校の生徒や関係者らと両国の国旗を掲げて記念撮影

分科会イベントを行った学校の生徒や関係者らと両国の国旗を掲げて記念撮影

「まず会合の席で次のイベントを実施するか否か決めた上で、自分の配属先で開催したいという希望者を募りました。メンバー数が多くなかったので、決まった役員は置かず、イベントごとに実施先の隊員がリーダーとして仕切りました。治安上の制約からJICA事務所に企画を説明して許可を得たり、移動申請を行ったりするので、企画調査員(ボランティア事業)にも会合に同席してもらって情報共有しました」

   リーダーによるJICA事務所への企画の申請が無事了承された後は、隊員相互の行き来が難しいため、メールやSNSでやりとりしながら進捗を確認し合い、各自で準備を進めて本番に臨む流れとなる。服部さんの赴任中は、分科会としておよそ1年に1回のペースでイベントを行っていた。

   服部さんが特に印象に残っていると振り返るのは、首都から飛行機と車を乗り継ぐこと半日近く、東ニューブリテン州のブナカナウという村の小中学校で、教員や生徒を対象に実施したイベントだ。理数科系隊員や、その他の教育系やコンピュータ系のメンバーが参加したが、外国人がほとんどいない地域に何人もの日本人がやって来たので、「ホワイトマンが来た!」と子どもたちは大興奮。入村の儀式など村中の人から熱烈な歓迎を受け、3日間にわたって、サイエンスショーや現地教員向けの研修、日本文化紹介のイベントを実施した。

日本文化紹介の一環で空手を披露

日本文化紹介の一環で空手を披露

   サイエンスショーでは、他の隊員が絵の具をはじくロウを使った文字クイズを行ったり、アルコール爆発やペットボトルロケットといった実験を披露。服部さんは粉塵爆発の実験を紹介した。粉塵爆発とは、小麦粉や細かい砂糖などが空気とよく混ざり合った状態で着火すると、瞬間的に炎が燃え広がる現象。より安全に大きな炎を燃え上がらせることができるよう、イベントまでの準備期間中に配属先の生徒や先生、 地域の人たちの協力を得ながら何度も改良を繰り返した。「最初は細いストローなどを使って粉塵を吹き上げようとしていたのですが、近所のおじさんが持ってきてくれた中空のパパイヤの茎を使うと火が大きく舞い上がりました」。試行錯誤の結果を携えて赴いたサイエンスショーの場で、粉塵爆発は大成功。会場は「すごい!」と盛り上がった。

   サイエンスショーなどのイベントを通じて、服部さんは「他の隊員の実験を見ることができて、理科教育隊員としての活動の幅が広がりました」と振り返る。自身の任地に戻った際、メンバーが行っていた長い糸を使った糸電話やペットボトルロケットなど、生徒たちが喜びそうな新しい実験を授業で取り入れた。

他の隊員から刺激を受け任地で理科実験道具を見直し

現地の材料でできる実験の一つとして、ペットボトルロケットの発射も実施した。一度に大勢に見せるにも派手なデモンストレーションは有効で、「敷地の広いPNGの学校で、粉塵爆発など日本ではできないようなダイナミックな実験ができました」

現地の材料でできる実験の一つとして、ペットボトルロケットの発射も実施した。一度に大勢に見せるにも派手なデモンストレーションは有効で、「敷地の広いPNGの学校で、粉塵爆発など日本ではできないようなダイナミックな実験ができました」

「個人で申請して国内移動するのはなかなか難しかったので、イベントの機会に他の地域を訪問して、現地の人の生活や、他の隊員の活動について知ることができ、大いに刺激を受けました。みんなが各地で奮闘しているとわかったことも励みになりました」と振り返る服部さん。他のメンバーが自らの任地で、配属先の学校にパソコンを増やせるよう取り組んだり、現地業務費を活用して学校に必要な機材を整備したりと、それぞれに生徒たちの学びやすい環境づくりに努めている様子を見て、服部さんも配属先の学校に必要な理科の実験道具を見直した。

   PNGの教育系分科会では年間スケジュールを立てたり役員を決めたりという組織立った動きは少ないが、治安や交通上の事情から交流が難しい中、それぞれの活動を知り、自らの取り組みに生かす有意義な研修の場になっていた。個人ではなく分科会のようなグループで動くことで、活動上の制約がある国でも、ハードルを低くできる側面もありそうだ。



PNG教育系分科会の年間スケジュール例(当時)

1月
■隊員総会で分科会の会合を行う

イベントの開催を決定。その回のリーダーも決める

6月
■リーダーが代表としてJICA事務所に必要な申請書を提出

主に移動計画や現地業務費の活用の計画などを示す。
事務所のOKが出ずに、イベントの正式決定まで時間がかかることも。

7月
■イベント内で実施するサイエンスショーなどの準備開始

8月
■サイエンスショーを含むイベントを実施

Text=新海美保 写真提供=服部晃平さん

知られざるストーリー