▶お金や物をねだられる。
自分はただの金づるなのかと思えてきてつらいです。
(小学校教育/女性)
「協力隊員は予算を持っていない」と何度も断っていても、配属先や地域の人たちには「わざわざ日本からボランティアに来たんだから、お金や物を持ってきてくれているはず」「機材を買ってくれるはず」といった意識があるようです。
貸した物が返ってこないことも少なくなく、返ってきても壊れていたりすることもあり、お気に入りの物だと悲しくなります。仲良くなったら「おごって」「お金を貸して」と言われて、なんだかガックリきてしまいます。
日本シェアリングネイチャー協会専務理事・トレーナー、海の環境教育NPO bridge理事。「自然・異文化・体験からの学び」をキーワードに、ネイチャーゲームの指導・普及、海の環境教育教材「Lab to Class」の普及など、体験型の環境学習・国際交流を行う。
▶貸すとしたら返ってこない前提で。
金銭の貸し借りに対しても、日本との感覚やカルチャーの違いを探る機会にしてみては。
現地の方から「お金を貸して」と言われたり、「物を買ってほしい」と言われたりして困ったといった経験は、多くの隊員にあると思います。
「日本からわざわざ来てくれているんだから、何かしらお金や物をくれるはず」と期待されたことに「信頼関係ができていたと思っていたのに、私のことを金づるだと思っていたのか」と傷ついているかもしれませんが、相手の感覚からすると、「取りあえず言ってみた」というくらいで、深刻に悩むことではないのかもしれません。
いったんその落ち込んだ気持ちを置いて、相手のことを考えてみましょう。
社会保障制度が整っている日本では、病気やけがで病院に行ってもある程度は健康保険が利きます。でも世界にはそうではない国もあります。「富める人、持っている人がお金を出すのは当たり前。お金を出した人は徳を積ませてもらえたのだからよかったでしょ」といったカルチャーもあります。
さらに、お金を借りた人が返す相手が、必ずしもお金を貸してくれた相手ではないという考え方もあります。相互扶助の精神で、「困った時に誰かから助けてもらい、自分がお金がある時に困っている人がいたらその人を助ける」など、別の人に還元されるのが一般的といった国や地域もあるからです。
「借りたお金は必ず貸してくれた人に返すべき」「周囲に頼ると後でお礼が必要になったりしてかえって面倒。有料業者に頼んだほうが後腐れなくていい」といった日本的な考えと比較すると、面白いと思いませんか。ポジティブに「頼まれる間柄になった」と捉え直してみると、嫌悪とは違う感情が湧いてくるかもしれません。
実際にお金を貸す場合は、「返ってこなくてもいい」という前提の下、それでもいいなら貸し、できない時には「貸せない」「貸さない」とキッパリ伝えてよいと思います。いずれにしても「日本の当たり前が当たり前ではない」ということに直面すること、そしてその背景を洞察することは、自分の当たり前を問い直す機会にもなるように思います。
ところで、よく受ける隊員からのお金絡みの相談事といえば、「予算がないから何もできない」といった悩みです。
隊員活動の中では、現地業務費など、JICAの制度にも少額サポートできるものもあります。(一社)協力隊を育てる会が運営する「小さなハートプロジェクト」(※)を利用してもいいでしょう。
また、お金そのものを渡せなくても、何かやる時の「力」になれる存在にはなれます。例えば、配属先でやりたいことの助成金や物品寄付の制度などがないか調べて、申請方法などを教えてあげるといったことならできるのではないでしょうか。
「お金」は誰もが注目しやすいワードなので、うまく利用して活動を広げてみるのもいいかもしれません。
例えば、学校でゴミの分別を伝えて実行させるために、「売れるゴミ」「売れないゴミ」といった表記にして分別を促した隊員がいます。お金になるゴミを売って得たお金をボールや遊具の購入に使い、みんなのやる気を引き出しました。
日本のある施設の展示では、ゴミ箱のふたを開けると大量の偽物の札束が入っているというものがありました。「その地域の1年間のゴミ処理にかかるお金」を札束で表した展示です。自分たちの税金がゴミ処理にこれだけ投入されているということが一目で分かる、インパクトのある展示でした。
お金をめぐるもやもや、困惑、嫌悪から一歩踏み込んで、相手の価値観、社会のありようを少し俯瞰する目線をぜひ持ってほしいと思います。
※小さなハートプロジェクト…メインの活動以外の任地の課題を解決するため、27万円を送金額の上限として支援するプロジェクト。(一社)協力隊を育てる会が運営。
Text=ホシカワミナコ(本誌) 写真提供=三好直子さん ※質問は現役隊員やOVから聞いた活動中の悩み