派遣から始まる未来
進学、非営利団体入職や起業の道を選んだ先輩隊員

NPO法人コーヒー生産地と協働する会 を立ち上げる

古賀聖啓さん
古賀聖啓さん
ルワンダ/果樹栽培/ 2014年度2次隊・兵庫県出身





持続可能な生産のため、
ルワンダのコーヒー農家と土壌改良に挑む

協力隊時代。コーヒー生産者を訪問し、コーヒーチェリー(コーヒーの実)の品質をチェックしている様子

協力隊時代。コーヒー生産者を訪問し、コーヒーチェリー(コーヒーの実)の品質をチェックしている様子

   100年以上のコーヒー栽培の歴史を持つルワンダ。この地でコーヒー畑の土壌改良に挑み、農家と共に持続可能なコーヒー栽培に取り組んでいるのが、NPO法人(特定非営利活動法人)コーヒー生産地と協働する会の代表、古賀聖啓さんだ。

   現在の主な活動地域は、ルワンダ・フイエ郡ギシャンブ地区とルワムウェル地区。いずれもコーヒーが主要な栽培作物だが、土地が痩せ、必要な肥料を手に入れにくい状況に置かれていた。農作物の生育や収量に大きな影響を与える土壌は、いったん劣化してしまうと蘇らせるのが難しい。そこで古賀さんは、毎年収穫期である春に畑の土壌調査を行い、窒素、リン酸、カリウムといった土に含まれる養分やpHなどを調べ、それに基づいて肥料を用意し、農閑期である秋に施肥するというサイクルを回すことで土壌改良を行っている。政府から支給される化学肥料だけでは量が足りないため、牛糞堆肥以外にも、コーヒーチェリー(コーヒーの実)のパルプ(果肉と外皮)を発酵させた有機肥料も取り入れた。

コーヒーの花

コーヒーの花

   一方、コーヒーノキ(コーヒーの木)一本一本の根本に肥料をまくなど、農家にかかる手間や負担は増えるため、本質的な意義を理解し、共に持続可能な農業に取り組める農家を増やすことも古賀さんの使命だ。同時に、同団体が支援するコーヒー農家のコーヒーチェリーを生豆に加工してくれているコーヒー会社・フイエマウンテンコーヒーの生豆、焙煎豆の卸も行っている。

   活動の原点は、協力隊員としてルワンダのコーヒー栽培に関わることになった9年前にさかのぼる。「はじめは栽培技術を教えたり、知名度が低いルワンダコーヒーを日本に売り込んだりすれば、農家の収入向上につながると考えていました」。ところが半年ほどたつと、問題はそれほど単純ではないことがわかった。「例えば、コーヒーノキは植えてから10年ほどたつと生産量が減るため、幹を根本から剪定するのが定石です。2年ほどで幹は再生し、再びたくさん収穫できるようになる。ところが、それを農家に伝えても、笑顔で『わかりました』と言うだけで、実行には移さないんです。たった2年でも収量が減れば生活ができなくなってしまうため、農家として合理的な判断をしているのだと後に気づきました」。

収穫したコーヒーチェリーを手作業で精選する生産者。コーヒー豆の品質と味を決定づける大事な作業だ

収穫したコーヒーチェリーを手作業で精選する生産者。コーヒー豆の品質と味を決定づける大事な作業だ

   そのことを痛感した現地の農家からの一言がある。「教科書の知識は役に立たない、簡単に現場を変えられると思ってはいけないよ」。――「言われた時は腹が立ちましたが、それが現場の本音。よくぞ言ってくれたと今では感謝しています」。

   任期終了後、古賀さんはコロンビアに渡り、コーヒーにおける栽培・加工・流通の各バリューチェーンの工程をひととおり学んだ。その後、日本とルワンダを行き来しながら「ルワンダの農家のために自分ができることは何か」を考え続けた。そして、2018年9月、「土とコーヒーをテーマに、ルワンダの農家に持続可能なコーヒー栽培を波及させたい」と立ち上げたのが現在のNPOだ。

   農家を取り巻く数ある課題の中でも土壌に着目したのは、学生時代、農学や土壌学を学び、砂漠化するモンゴルの草原を研究していたという背景がある。自分の専門分野でルワンダの農家の役に立ちたかった。

土壌改良に必要な肥料をまく支援農家。手間がかかる作業だが自分たちで行うことを大事にしている

土壌改良に必要な肥料をまく支援農家。手間がかかる作業だが自分たちで行うことを大事にしている

   活動を始めて6年目。「まだまだ苦戦している」と古賀さん。農家の施肥への意識は高まったが、それは目の前の収量を増やすためであり、目指すのは持続可能な生産が続けられる土壌作りだ。「やっていることは同じでも、見ている先が違うのです。それに、ルワンダには約40万の小規模農家がいて、自分が関わっているのは60世帯ほど。資金集めにも苦戦している状況なので、うちのような小さな団体が細々と活動をしていても効率が悪いのではと思い落ち込むこともあります」。

コーヒーチェリーの果肉を除去したパーチメントコーヒーの選別作業

コーヒーチェリーの果肉を除去したパーチメントコーヒーの選別作業

   それでも、古賀さんは歩みを止めない。「今でも農家から教えられることのほうが多いんです。ルワンダ人は本当に真面目で働き者です。そういう人たちが十分な収入を得られず、空腹によって農作業中にへたりこんでしまったり、子どもたちが学校に行けなかったりする状況を目の前で見て、放ってはおけません。今後はもう一つ団体をつくって、今の団体ではできない栄養改善にも取り組んでいけたらと考えているところです」。

古賀さんの歩み

1986年、兵庫県に生まれる。

幼少期にテレビで気候変動について知り、環境問題に興味を持つ。

2005年4月、鳥取大学農学部生命環境農学科に入学。

大学院でモンゴルの乾燥地の研究をしたことで、自分の中のテーマが環境問題から収入向上にシフトしました。

2011年〜14年、作業服メーカーに勤務。

炭化する素材の警備服を回収して土壌改良をする事業に参画する予定でしたが頓挫してしまい、営業として作業服を売っていました。

2014年10月、協力隊としてルワンダへ。

ルワンダ人はとても真面目で働き者。教えたことより教えられたことのほうが圧倒的に多く、行く前と行った後では見方が大きく変わりました。

2017年1月から2カ月間、コロンビアでコーヒーバリューチェーンを学ぶ。

帰国後に知り合った日本のコーヒー会社の方にコロンビアのコーヒー輸出会社に紹介状を書いてもらいました。

2017年3月以降、堀口珈琲からの「ルワンダの良質な豆や生産者を探してほしい」という依頼に応えるために、日本とルワンダを行き来する。

2018年9月、特定非営利活動法人コーヒー生産地と協働する会を立ち上げる。

JICA草の根技術協力事業にも採択されました。今は土壌改良による持続可能な生産をサポートしていますが、今後は、栄養問題にも取り組んでいきたいです。

Text=秋山真由美 写真提供=古賀聖啓さん

知られざるストーリー