失敗に学ぶ
~専門家に聞きました!   現地で役立つ人間関係のコツ

今月のテーマ:トイレ・月経の憂鬱

今月のお悩み

▶月経時は精神的にも余裕がなくなり、トイレの汚さもストレスです。(女性のOV)

   派遣国では公衆トイレがとても汚く、個室のドアが閉まらなかったり、トイレットペーパーや使用済みナプキンを捨てるサニタリーボックスの設置がなかったりすることがほとんど。特に月経時は自宅以外のトイレに入りたくありません。

   月経痛があるときは余裕がなくなり、不機嫌になったり、気持ちが落ち込んだりすることもあり、現場の空気を悪くしているようにも感じます。

今月の教える人

小國和子さん
小國和子さん
インドネシア/村落開発普及員/1994年度2次隊、シニア隊員/インドネシア/村落開発普及員/1998年度0次隊・大阪府出身

日本福祉大学国際福祉開発学部・同大学院国際社会開発研究科教授。開発人類学をベースに農村開発援助実務および研究に携わる。研究テーマは農村開発・生活改善・フィールドワーク論・文化と開発・月経衛生対処など。

小國先生からのアドバイス

▶あなたの不便は現地の女性たちの不便でもあるかも。
現地の女性の声に耳を傾けて、
皆でストレスを減らしていきましょう。

   トイレや月経の悩みは、プライベートな問題として周囲に相談することなく、自分の中でなんとか工夫して折り合いをつけている隊員が多いように思います。私自身も農村部での隊員活動だったので、〝外に出たら家に帰るまでトイレに行きたくない〟と思っていましたし、月経が来るとさらに憂鬱でした。

   後に月経を研究対象とするようになってから、女性の協力隊員に派遣国で外出の際、使用済みの生理用品をどうしているか聞いたところ、トイレにサニタリーボックスがないため、ビニール袋に入れて住まいに持ち帰って捨てているという隊員がいました。また、外出先でトイレを我慢して健康に支障をきたした隊員がいたり、住まいの外にトイレがあって夜は行きたくないため、夕方以降は水分を取らないようにしている隊員もいました。

   日常的に避けては通れない生理現象なのに、それぞれの女性隊員が不便を抱えていますね。では、現地の女性はどうしているのか、聞いてみたことはありますか。

   私が行ったインドネシアの農村部の女性たちへの調査では、「使い捨てナプキンを洗って捨てる」と聞き、大変驚きました。月経の際の経血が不浄とされていて、使用済みナプキンをそのまま捨てることはゴミ処理の方に失礼であり、また、経血は悪いものに取り憑かれやすいといった考えもあるそうです。

   例えば学校のトイレの個室内で使用済みナプキンを洗おうとすると、片手で桶から水をすくい、左手を使って床で洗わなくてはなりません。それをトイレに流せば詰まってしまうので、外出先ではナプキンを取り替えたくなくなります。中には下着を2枚はいてその間にナプキンを挟むことで、ナプキンへの汚れを最小限にする工夫もされているとのことでした。

   こうした現地の人の苦労を、恥ずかしながら私は何十年間も知りませんでした。毎年のように通っていたのに、「プライベートなこと」だからと、質問していなかったためです。

   だから、私が声を大にして言いたいのは、「自分が不便を感じることは、現地の人も不便やストレスと感じていることかもしれないから、現地の人の月経事情を聞いてみて」ということです。

   現地の人がやっていることを試してみて、不便や、不衛生だと感じたりしたら、それは現地が抱える課題でもあります。もしかしたら、その気づきが自分の不便を解決するだけでなく、現地の「一大トイレ・月経プロジェクト」に発展する可能性もあります。実はインドネシアでは、日本のメーカーが商品化した「洗いやすいナプキン」もあります。企業もこうした地域独特の不便さに着目していると知って目から鱗が落ちる思いでした。

   トイレの話でいえば、戦後、日本の農村部で、皆のトイレの悩みを自分事にしたことで解決した事例があります。生活改良普及員(農民が農業や生活に関する科学的・実用的な技術や知識を取得し、それを普及して有効に活用できるようにすることを目的に、全国各地に配属された県職員)の女性の話です。

   巡回していた水田地域に公衆トイレがなく、仕方なく風呂敷を自転車に結んで目隠しにし、その陰で用を足していたその女性は、自分の不便を農家の女性と共有して、竹と風呂敷で簡易式田んぼトイレを作りました。根本的な衛生課題の解決ではありませんが、「今よりちょっとでも恥ずかしくなく、安全で安心できる状態にするにはどうしたらいいか」、それを農家の女性と一緒になって考えた好例です。

   月経の話と聞いて、自分は関係ないと感じた男性隊員も多いことでしょう。でも、家庭で、職場で、女性の抱えるこうした課題を知ることで、トイレや衛生、環境課題の解決や、現地ニーズに見合う教育機会の検討など、より広い職種で活動の幅が広がるかもしれません。

   近年、SDGsの観点からも世界的に「生理を語ろう」という風潮が出てきたり、フェムテック(女性がライフステージごとに抱える健康の課題に応える商品)が出てきたりと、医療系の隊員でなくても、月経や衛生関連の話を切り出しやすくなっています。私たちの月経研究チームでも、男性研究者と一緒に取り組んでいます。生理現象への対処の仕方や意味を知ることは、現地の文化や風習を理解する糸口にもなるので、性別にかかわらず、現地のトイレや月経事情に耳を傾けてみませんか。

Text&Photo =ホシカワミナコ(本誌)  ※質問は現役隊員やOVから聞いた活動中の悩み

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