派遣から始まる未来
進学、非営利団体入職や起業の道を選んだ先輩隊員

アフリカ連合開発庁インフラアドバイザー

砂原遵平さん

第1回JICA海外協力隊 帰国隊員 社会還元表彰

砂原遵平さん
マラウイ/コミュニティ開発/ 2014年度1次隊・京都府出身





積み重ねた国際経験を糧にアフリカ投資の懸け橋を目指す

ビレッジバンクに興味を持つ農家にワークショップを行う砂原さん

ビレッジバンクに興味を持つ農家にワークショップを行う砂原さん

『第1回JICA海外協力隊 帰国隊員 社会還元表彰』で国際協力キャリア賞を受賞した砂原遵平さん。国内金融機関や協力隊を経て、OECD(経済協力開発機構)日本政府代表部、AUDA-NEPAD(アフリカ連合開発庁)と、国際的なキャリアを積み重ねていて、隊員活動後に国際協力分野で活躍するモデルとして評価された。

   砂原さんが国際協力の道に進むことを決めたのは大学時代。グラミン銀行(※)のマイクロファイナンスについて知り、金融を通じて貧困問題を解決したいと思ったのがきっかけだ。

「まず日本社会で働く際のルールや一定の専門性を身につけたほうがいい」という周囲の助言を受け、卒業後は信用金庫に就職した。3年9カ月間、法人や個人事業主の融資担当として顧客営業や金融の専門性を身につけ、協力隊員としてマラウイに渡航したのが2014年。北部の農村で農家の収入向上という観点から、自身の金融知識を生かした活動を模索した。

   当時、マラウイの農家は公的な金融機関にアクセスできず、10人ほどの農家(主に女性)から成るグループが毎週決まった日時に集まり、貯金や融資を行っていた。集まった資金で1年分のトウモロコシの種と肥料を買うのが目的で、リーダー、帳簿をつける人、金庫を管理する人などが投票で選ばれていた。ビレッジバンクと呼ばれるその仕組みに着目した砂原さんは10のグループを定期訪問し、帳簿を毎週見せてもらうなどモニタリング調査を図った。「いきなりは見せてもらえないので、現地語を活用しながらさまざまな時間を共にし、記帳や金銭管理の仕方をアドバイスしました」。

1年間留学したイギリス・ブラッドフォード大学院時代。多様な人種の学友と国際課題の議論をするなど刺激的な毎日を送った

1年間留学したイギリス・ブラッドフォード大学院時代。多様な人種の学友と国際課題の議論をするなど刺激的な毎日を送った

   帳簿の調査を1年ほど続けると、お金の動きのみならず、村の人間関係やグループのユニフォームの有無によるモチベーションの差、それによる貯金額の違いなど、ビレッジバンクによる経済的・社会的効果が見えてきた。そこで好事例を他のグループに普及させるなど情報を還元し、集会への出席率や貯金額の向上につなげることもできた。帰国後はビレッジバンクの知見を論文に取りまとめた。論文はJICA緒方貞子平和開発研究所のフィールドレポートとして公表されている。

   砂原さんはその後、イギリスのブラッドフォード大学院で開発経済学の修士号を取得し、「国際機関で働くならまず日本政府の立場を知ろう」と、外務省在外公館専門調査員に応募。38の先進国が加盟するOECDの日本政府代表部員としてパリへ赴任し、投資政策などに携わる。21年3月からは、南アフリカ共和国に本拠地を置くAUDA-NEPADでインフラアドバイザーとして、広域インフラ開発や貿易の円滑化を担当している。

「これまでの経験から得た強みは、第一には、隊員として二国間支援の現場で、国際機関で多国間の現場でそれぞれ経験を積んだこと。第二には、OECDで旧宗主国の立場、AUDA-NEPADで旧植民地側の立場でそれぞれ働いたこと。第三には国際機関と、一加盟国としての日本との両方の立場も経験していること。さまざまな視点を経たことが私の独自性になっていると思います」

   その上で、「現場で何が起きているのか考えて、意思決定できるのはマラウイでの隊員経験があるから」と述べる砂原さん。

AUDA-NEPAD前長官のイブラヒム・アッサン・マヤキ氏と砂原さん

AUDA-NEPAD前長官のイブラヒム・アッサン・マヤキ氏と砂原さん

「草の根にいかに届けるかを考えずして、上流にアプローチすることは適切ではありません。アフリカには発展の余地が十分にあります。日本の優れた技術力や革新的なアイデアなど多くのポテンシャルを最適化していくことが日本・アフリカ双方にとって重要です。根拠に基づく情報を広く正しく伝え、日本とアフリカの橋渡しとなり、現地での日本の投資・関与を増やしていくことが、現場を知る私の重要な役目だと考えています」

   今後も国際機関や開発機関を視野に入れ、さらにステップアップしていきたい考えだ。そして、同じく国際的なキャリアを築きたいという人に向けてはこうアドバイスする。

「協力隊でどういう成果を出したのか、プレゼン用の10分、面接用の1分、立ち話用の5秒と、3種類のストーリーを用意しておくときっと後で役に立つはずです」

※グラミン銀行…女性を中心とした貧困層の自立支援を掲げ、無担保・低金利の融資を行うバングラデシュの銀行。チッタゴン大学教授、ムハマド・ユヌス博士が1976年に始めたプロジェクトが起源で、83年に正式に設立された。

砂原さんの歩み

1987年、福岡県生まれ。2歳の頃京都府に移住。

高校の先生から語学と欧米文化、国際関係論を学ぶことを勧められ、それらが学べる大学に進学しました。

2010年3月、関西外国語大学英米語学科卒業。

国際関係論の授業で、バングラデシュのグラミン銀行のことを知り、国際協力に興味を持ちました。

2010年4月、国内の信用金庫に就職。

苦しい状況に置かれた企業の経営者や個人事業主に融資するという仕事に奔走しました。ここで身につけた顧客営業スキルや問題解決力は今の自分を形成する柱になっています。

2014年6月、協力隊でマラウイへ。

赴任後半年ごろ、活動に苦しんでいた際にJICA二本松訓練所の北野一人所長(当時)からの「現地の物を食べ、現地の人と遊び、現地語を学べ」という助言でシマ(※)を食べまくる中で、人々の懐に入るきっかけができたと思います。シマを食べた量ならどの隊員にも勝ると思います。

2017年、ブラッドフォード大学院で開発経済学修士号取得。

大学院選びは、1年で修士号が取得できることと、多様な人種が集まることが決め手でした。

2018年、OECD日本政府代表部で投資政策および責任ある企業行動(RBC)に従事。

専門調査員の派遣先ではOECDを第一志望にしていましたが、希望がかなうとは思っていませんでした。ここで国際投資の専門性と外交的な英語表現、人間関係の構築、立ち居振る舞いを学びました。

2021年3月〜 AUDA-NEPADに勤務。

驚いたのは、上司がマラウイ北部の出身だったこと。ここでも現地語のトゥンブカ語がきっかけで、上司と信頼関係を築くことができました。

※シマ…トウモロコシの粉をお湯や水で練った食べ物で、ザンビアやマラウイにおける主食。肉・魚・野菜などの副菜と共に食べる。

Text=秋山真由美 写真提供=砂原遵平さん

知られざるストーリー