[特集]座談会・6人の経験に見る協力隊で身につく19の力

山崎さん身に着いた力

〔座談会・Part1〕から続く

編集室
派遣先では、日本とは異なる文化や考え方の違いに戸惑うこともあったと思います。
違和感をどう乗り越えましたか?

小鹿原さん(剣道):日本の侍や刀などに憧れて剣道を始めた剣士たちですので、稽古で意欲を失わせることなく、剣道の持つ礼などの精神文化的な特性や竹刀さばきなどの運動特性に触れることができるよう、指導の工夫をしました。主体性を重んじるようにしましたが、もともと間違えて覚えていることもあったので、本来の意味を説明して伝統文化を学んでもらいました。

   例えば、剣士が正座して上席に礼をしているその先に、子どもたちが遊んでいたことがありました。日本なら「遊んではいけない」と注意するところですが、頭ごなしに伝えても恐らく理解できません。「礼」の意味を一から丁寧に教えました。

   剣道では勝負に勝ってもガッツポーズなどの喜びの表現や勝ち誇った態度はとりません。反対に、サッカーでは点を取ると、体全体で喜びを表現します。ちょうどサッカーワールドカップでアルゼンチンが優勝した時にブエノスアイレスにおり、街中は歓喜・歓声に溢れ、アルゼンチンの人々は国を挙げて勝利を祝福していました。剣道の文化、サッカーの文化両方を経験し、私は喜びなどの表現文化の違いに戸惑うのではなく、その国の文化を受け入れるべきであると思います。むしろ違う文化を楽しむ姿勢が大切で、柔軟に対応する力が試されたと思います。

深澤さん(看護師):日本とは異なる環境下で、現地の状況を観察しながら、課題発見力柔軟に対応する力は、私も磨かれたと思います。

   病院では、なぜかガウンや手袋などは鍵をかけた棚にしまわれていて、活用されていませんでした。整理整頓もなかなか進まず、「なぜだろう」と疑問に思うことばかり。

   でも、ある時、「定位置にモノを置くと、置き場が皆に知れ渡り、盗まれてしまう」と聞き、納得しました。有効期限の切れた物品を使用することや雨水をためるタンクの水がなくなって業務が回らなくなることも含めて、そうせざるを得ない社会状況があることを理解して活動を進めなければならないと感じました。また、資金や資源が限られた中で病院を運営する厳しさを知りました。

山崎さん(体育):私は日本とカンボジアのカリキュラムの違いにまず戸惑いました。日本では全日制で、子どもたちは朝から夕方までしっかり勉強しますが、カンボジアでは2部制で午前か午後の授業がないことがあります。

   ロックダウン後も主要科目が優先されたりしたので、ようやく体育の授業ができたのが赴任1年後で。さらに教員も副業をしていたりしたことや、コロナウイルスの流行によって、私が在籍している間にも任地校の教員が辞めてしまったこともありました。

   仕事に対する責任感の違いや情操教育が軽んじられている現実に直面し、自分の存在意義について悩んだりすることもありましたが、異文化理解に努め、同僚と体育の授業の内容を話し合ったり、運動の大切さを伝えたり、積極的に話しかけるようにしていました。

神崎さん(学校保健):私の場合は、イスラム圏の考え方を知ったことは大きな異文化理解だったと思います。

   スーダンでは、休日はよく女性の同僚の家へ招かれ、朝から夜まで一日中、女性だけで一緒に過ごしていました。皆でご飯を作って食べたり、昼寝をしたりするだけなので、初めは自分の時間がないことが苦痛でしたが、だんだんと慣れていって居心地が良くなりました。日本のように映画館や遊園地など娯楽がなくても、友人との深い関わりの中で過ごす時間の使い方を学びました。

   また、一夫多妻の国では女性の言動が制限されてふびんだ、と勝手に思っていましたが、女性たちの意見を聞くと、「夫が守ってくれている」と感じていることも多く、必ずしも我慢を強いられているのではないと理解し、宗教や文化の違いを「面白い」と感じられるようになりました。

園尾さん(小学校教育):私はホームステイしか選択肢がなかったので、活動先ではなく生活でのストレスがたまりました。

   ちょっとした手伝いをホームステイ先の親が子ども経由で私に伝えてくるので、召し使いとして呼ばれたのでは!?と思ってしまったこともありますね(笑)。

   ホストファミリーからは「協力隊として村全体を盛り上げてほしい」と言われることが少なくなく、家や地域の手伝いに駆り出されていました。現地の人と深く関われる生活は楽しんでいましたが、村にいる時はあまり自分の時間がなくて。

   パラオは小さな国ですが、公共交通機関がなく、自力で都会に出るのは難しいので、気分転換に何時間も島内を歩くこともありました。車移動では気づかなかった景色を楽しんだり、休日に他の隊員と待ち合わせて話しながら一緒に歩いたり。気持ちが晴れて、活動の新しいアイデアが生まれることもありました。ストレスコントロール力が鍛えられたと思います。

神崎さん身に着いた力

編集室
協力隊経験が、現在の仕事や生活にどのように生かされているか、またはどのように生かしていきたいかをお話しください。

園尾さん(小学校教育):今教えている学校には外国籍の生徒も多く通っています。彼らが困っていたらいつでもサポートしたいと思っていますが、他方であまり特別扱いしないよう心がけています。自分が隊員だった時もそうですが、お客さん扱いではなく同じ地域で暮らす仲間として接してもらうことが、受け入れてもらえたことにつながると思います。長期的な視点で彼らの手助けができればと考えています。

深澤さん(看護師):外国で病院を受診するハードルの高さを実感したので、今いる病院でも外国人の患者さんを見かけたら、医師や看護師の言葉を理解できているか確認したり、不安があれば気兼ねなく相談に来てもらえるよう声をかけたりしています。

   また看護学生に協力隊についての話をするなど、ケニアでの経験を周囲に伝えるようにしています。

村上さん(コミュニティ開発):地域の人たちと協力しながら、アイデアをたくさん持ち寄って人々の生活改善につながる活動ができたことは人生において大きな自信になっています。以前日本で働いていた時は自分に自信がなくなることがありましたが、協力隊の経験後は自己肯定感が高くなり、心が強くなった気がします。今後も、この経験を生かしながら、現場に近い立場で関われる国際協力をしていきたいです。

神崎さん(学校保健):今は役場で保健師の仕事をしていますが、「自分がやらなきゃ」という気負いがなくなり、周囲に頼ってもいいんだと柔軟に考えられるようになりました。スーダンやエジプトでは時間がゆっくり流れていて、世間話をしながら日々、互いを思いやる気持ちを実感できました。

小鹿原さん身に着いた力

編集室
協力隊の経験を通じて、価値観や人生観が変わったという実感はありますか?

小鹿原さん(剣道):アルゼンチンにはハグの文化がありますが、高齢者や子どもなども含めて誰もが互いを大切にしているのを感じました。日本とは異なる親密な人間関係の中で過ごしたせいか、帰国後、妻に「変わったね」と言われました(笑)。感謝の気持ちや寛容・優しさをハグで表現することの素晴らしさを感じました。結果を求めて厳しく指導するだけでなく、生徒を褒めたり声をかけたりする余裕も生まれました。

山崎さん(体育):カンボジアの人たちは仕事だけが生きがいではなく、日々楽しみを見つけて生活していて、それまで知らなかった価値観を知り、視野が広がりました。時間どおり授業に来ない生徒や教員の姿勢に最初は疑問を感じましたが、だんだん彼らの「時間に縛られない生き方」にも魅力を感じるようになって柔軟性が育まれました。

   今、大学院で学んでいて、周囲に留学生が多く、さまざまな違いを感じることは多いのですが、それを理解できるようになったのは隊員を経験したからこそ。修了後のことはまだ考え中ですが、日本の子どもたちに海外の魅力を伝えていく取り組みも続けたいです。

神崎さん(学校保健):私は隊員の経験を通じて、以前より人の目を気にしなくなったように思います。異文化の中でさまざまな価値観を知り、「人は人、私は私」と柔軟に捉えられるようになったのかもしれません。

   また、エジプトでは、保育士などの隊員仲間と協力して、保育園の先生向けの巡回セミナーを開きましたが、私は「セミナーに誰も集まらなかったらどうしよう」と心配ばかりしていました。でも「一人でも来てくれたらセミナーをしよう」という仲間の言葉に気持ちが軽くなりました。そうした経験を重ねるうちに、先のことを考えて心配する回数が減っていきました。「もっと気楽に考えていいし、失敗したらまた考えればいい」。そんなふうに思えるようになったと思います。

深澤さん(看護師):いろいろな職種の隊員と話をしながら、国際協力のカタチは医療分野に限らずさまざまだと知りました。これからはより長期的な視点で、国際協力に携わりたいとの思いを新たにしています。

   任地では、ケニア人の同僚の友人がいる病院と協力関係を結んだり、学校でジェンダーや保健分野を教えている韓国人と配属先の病院をつなげたりといったことも実現でき、協力隊や日本人という枠にこだわらず、さまざまな国際協力の方法があると思いました。積極的に働きかけ、巻き込んでいくような国際協力もよいと思っています。

最後に、現在活動中の隊員へアドバイスやエールをお願いします!

深澤千波(旧姓:菊池)さん
深澤さん(看護師)

他の隊員の活動は参考になるのですが、SNSを通して見ると、良いことばかりが目につき、逆に焦りや孤立感を感じてしまうことがあるので、見ないようにしていました。今はオンライン通話が容易にできるので、話したい人と1対1で直接話すようにしています。

村上瑞樹さん
村上さん(コミュニティ開発)

現地の人や文化とじっくり向き合いながら、人々により近い立場で活動できることが協力隊です。自分の活動がうまくいかない時などに他の人と比べてしまうことがあるかもしれませんが、それぞれ状況は違うので、その時自分ができることを精いっぱいやることが大切だと思います。

園尾洋平さん
園尾さん(小学校教育)

任期を満了して振り返ってみると、「いろいろあったけどうまくいった」と思う場合もありますが、派遣中は、日々うまくいかないと感じることのほうが多いと思います。へこたれずに考えて、なにかしらやり続けることが大事だと思います。周囲の人の力も借りてみてください。

山崎鉄平さん
山崎さん(体育)

旅行ではなく仕事(活動)として開発途上国に行き、日本にない環境に身を置いたり、さまざまな人と出会える協力隊経験は貴重なので、何事も失敗を恐れずに動くことが大事だと思います。私はコロナ禍の制限があってあまり行けませんでしたが、現役の隊員の方々には、派遣国内のいろいろな地域に出かけてみることをお薦めします!

神崎早紀子さん
神崎さん(学校保健)

インターネットがつながらず、誰かと話すことでストレス解消もできない……という時には外に出て、出会う人みんなの名前を聞いてみたりして、今後人に会った時にネタになるようなことを探してみるといいです。「この名前の人が多いんだ」と驚いたり、地域の人間関係がわかったりと、新たな発見があるかもしれません。

小鹿原 賢さん
小鹿原さん(剣道)

協力隊経験を通じ、現地で経験してみなければわからなかったことが、この先もたくさん出てくると思います。帰国後は隊員活動を自己満足で終わらせず、日本でその経験を発信していくことも大切だと思います。


Text=新海美保 写真提供=ご協力いただいた各位

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