※人数は2023年8月末現在
PROFILE
建設会社で20年ほど仕事を続け、現場の品質管理、工程管理、安全管理を行う。新しい環境で自分の技術と可能性を試してみたいと協力隊に参加。当初は退職するつもりだったが、会社から快く承諾され、現職参加し、帰国後に復職。ボリビアでの活動中はゆったりとした生活の良さも感じたという。
配属先:アンゴスツーラ灌漑水利利用者組合
要請内容:灌漑施設を管理する事業組合事務所において、開水路の維持管理や補修に必要な測量や設計の技術指導、及びAUTOCADによる設計図の作成方法を指導する。また開水路へのゴミのポイ捨てなどを防止するため、地域住民に対する環境教育活動の実施を支援する。
PROFILE
横浜の自宅近くに外国航路の岸壁があり、海外への憧れがあった。横浜市役所に就職すると、協力隊に参加した同僚たちや、姉妹都市の土木職員との交流もあり、定年後、SVとして4回活動。現在は、JICA無償資金協力事業の施工監理者としてキルギスに駐在。
配属先:タシケント自動車道路建設大学
要請内容:首都タシケントにある大学の再教育センターにて、運輸輸送機器関連、および運輸輸送施設建設関連の省庁職員や国営・民間企業社員に対し、IT利用促進や道路交通情報収集や分析、交通管制についての講義を行う。
「土木」隊員は、省庁や地方自治体などに配属され、道路や橋、上下水道などの調査、設計、施工から維持管理などの実務に携わるほか、インフラ整備へのアドバイスをし技術向上に協力する。また、大学や職業訓練校などでの技術指導を行う。
土木工学の知識と、2~3年以上の実務経験が求められることが多い。コンピュータを使った設計(CAD)、地理情報システム(GIS)の技術指導への要請も増えている。
建設会社から現職参加した西本達也さんが配属されたのは、ボリビア中部、同国第3の都市、コチャバンバ市内の農地を対象とするアンゴスツーラ灌漑水利利用者組合。農地の端から直線距離で20キロメートル余り先に、主に農業の水をためるダムがあり、ダムを起点とする灌漑水路の管理が組合の主な仕事だった。水路には水門があり、流す水の量を調整して、利用する農家から料金を徴収していた。
要請は、水路の改修や新たな水路の建設が必要になった時に必要となる測量や計画作成についての技術指導だった。水路は使用しているうちに、水が流れにくくなったり、老朽化や設備の破損などが発生したりするからだ。
ところが着任してみると、「測量や設計の専門技術を持っている人はいませんでした」。
しかし、現場で測量する時は普段はバラバラに活動していた同僚たちが集まって手伝ってくれた。おおまかな距離と標高を測るGPS測量は行われていたが、ミリ単位の精度までは測れていない。「間違えない方法を取る」ことがモットーの西本さんは、手間と時間をかけて往復しながら正確に測る、日本の測量の方法や技術を紹介した。
水路の工事は、組合から県の担当部署に提案し、採択されれば、県が工事を発注する。他に県に提出する計画を立てられる人がいないため、任期中、西本さんがほぼ一人で、CADを使って計画書の作成に取り組んだ。「しっかりした図面や計画を成果として残しておけば、後々役立つ」と気持ちも切り替えて、最終的には県に提出できる多くの計画書を組合に残した。
着任から約1年半後、工事中だった用水路(幅約2メートル、高さ約1.5メートル)の完成部分の壁が、大雨で約100メートルにわたって崩れてしまいました。自分の業務ではなかったのですが、何度も現場を見ていました。日本だと、継ぎ目に鉄筋の入ったU字型のコンクリートを使いますが、底面と側面のコンクリートを現場で造り、継ぎ目に石を置いていました。アドバイスをしても、なかなか聞いてもらえませんでしたが、もっと強く言っていたら防げたかもしれないと後悔しました。
現地の同僚たちに日本式の正確な測量方法を指導する西本さん
着任早々、配属先の責任者から、過去の図面のデジタル化を頼まれました。本当にCADが使えるのか、腕試しされたのかも、と思っています。30~40枚の図面がありましたが、1枚作るにも3~4週間かかるので、1枚だけデジタル化しました。任期終盤に灌漑水路の改修計画を作成して県に提出する時、責任者は「これは君の成果だから、自分でサインを」と言いました。私の技術を認めてくれたのだと思いました。
横浜市職員として長年、土木畑を歩んだ成川一男さんは、ウズベキスタンのタシケント自動車道路建設大学の再教育センターに派遣された。ウズベキスタンでは、土木技術者は就職して3年たつと、もう一度、教育を受ける。再教育センターは、その拠点だった。
専門知識や技術を伝えようと考えていた成川さんだったが、着任当初は戸惑いが続いた。カウンターパート(以下、CP)やセンター長の専門が車両だった上、授業内容について聞いても明確な回答がなかったからだ。
転機となったのは、道路学部の教授との出会いだった。成川さんのことを知った教授から「道路学部で学生に話してほしい」と依頼された。限られた派遣期間で技術を伝達できる機会だと捉えた成川さんは、週に2~3回、教授の担当授業で日本の先進的な技術について講義した。再教育センターへは大学から、JICA事務所には成川さんから活動の変更について伝えた。
「道路料金徴収の自動化」のテーマは、再教育センターでは関心を持たれなかったが、道路学部では「ちょうど検討していた」と評価された。
土木工事の無人化施工については、どのような機械や車両にどのようなアタッチメントを取りつけて行うか、実例を交えて紹介した。
「技術は知っていたかもしれませんが、実際の使い方は知らなかったようで関心を持たれ、学生から積極的な質問も挙がりました」と成川さん。
授業外でも、教授の研究をサポート。走行する車の速度と舗装の劣化の関係など、学生にも説明しながら、実験や計測を重ねた。国際会議でも登壇したりするうち、成川さんの評価も上昇。名誉准教授の称号も授与された。
再教育センターで何をするのか、答えは得られませんでした。用意していたテーマの中から、「土木工事の無人化施工」と「有料道路の料金徴収の自動化(ETC)」をサポート役の学生にロシア語に翻訳してもらってテキストを作りました。CPに見せたところ、内容がCPの専門外であり、さらに「ロシア語もだめ」と言われました。しかし具体的な内容の擦り合わせも相手が忙しすぎてできず途方にくれました。今思えばJICAの在外事務所に相談するなどしていれば結果が変わっていたかもしれません。
タシケント自動車道路建設大学の道路学部で学部生や院生に講義を行う成川さん
道路学部で講義しているうちに、他大学から「あの日本人の技術者に講義をしてほしい」という依頼があり、任期中に2回、実施しました。内容は、道路建設大学の講義と同じものでしたが、学生が感激して聞いてくれました。その上、一緒に講義を聞いていたその大学の先生が補足や学生の質問への回答をしてくれました。道路建設大学の学生も初めは感激してくれていたことを思うと、「自分の講義は、いい講義だったのかもしれない」と嬉しくなりました。
Text=三澤一孔 写真提供=西本達也さん、成川一男さん