[特集]デジタル技術が役立った!  ITを使った活動事例

今や途上国でも多くの人の手にスマートフォンやパソコンが普及して、IT利用は生活の一部となっている。協力隊員も、派遣国の人々と一緒に汗水を流しつつ、同時にデジタルツールを賢く使うことで活動を飛躍させたいところだ。活動の中でITを生かした現役隊員やOVの方々にお話を伺ったので、任地での取り組みのヒントにしてほしい。

現役隊員によるIT活用例
ChatGPTで教員の負担を軽減!

筒井駿樹さん
筒井駿樹さん
パラオ/小学校教育/2022年度1次隊・香川県出身

大学時代に訪れた途上国で、ストリートチルドレンの生活を目の当たりにして衝撃を受ける。現地の人の「子どもたちを救うには、魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教える必要がある」との言葉で、教育の道に進んで途上国と関わることを決意。日本の小学校での5年間の勤務を経て、現職教員特別参加制度で協力隊に参加。自身が去った後の取り組みの継続性を念頭に活動中。


既存のドリルの使い勝手に課題
AIで問題作成を簡単に

パラオ人の先生がGPTドリルで算数のテストを作成する様子。筆算スペースを確保するため、あえて余白を広く取るという工夫をしていた。取り組みはパラオの全国紙でも紹介された

パラオ人の先生がGPTドリルで算数のテストを作成する様子。筆算スペースを確保するため、あえて余白を広く取るという工夫をしていた。取り組みはパラオの全国紙でも紹介された

   現在、パラオの小学校で活動中の筒井駿樹さん。同国では、過去の協力隊員が作成した「マスヒーロードリル」という算数ドリルが教育系隊員に受け継がれ、配属先の学校にも共有・活用されているのだが、課題もあった。

「原本をコピーして使うものなので、カバーされていない単元があったり、生徒のレベルに合っていなかったりした時にアレンジが難しい。また、ドリルの原本が職員室にあり、担任の先生が教室からいちいちコピーしに行く手間も感じました」

   そこで、新しい問題を簡単に作ることができ、教員がPCからすぐ印刷できる方法はないかと考えた筒井さん。着目したのが、AIチャットボットのChatGPTだ。「ChatGPTのソースコードをGoogleフォームに移植し、フォーム上に『かけ算の問題/2の段から5の段まで/10問作って』などと打ち込めば自動的に問題が羅列される仕組みを作りました。私自身、IT系の知識には疎かったのですが、YouTubeで検索すれば参考になる動画がいろいろ見つかりました」。

先生が作ったテストを解く小学校4年生の生徒。テスト結果は成績の評定に加えられた

先生が作ったテストを解く小学校4年生の生徒。テスト結果は成績の評定に加えられた

 〝GPTドリル〟として同僚の先生たちに共有したこのフォームはChatGPTと連携しているので、算数に限らず何の教科でも問題を生成可能。Googleフォーム上の文章をそのまま印刷できるため、初心者でも容易に扱える。もちろん、AIが誤った設問を作成することも考えられ、一度は教員自身が解いてみたりして内容を確認するように周知している。

「自らChatGPTで指導案を作るなど、率先して技術を取り入れて工夫する人も出てきており、AIの存在を伝えることはこれからの時代に即した技術移転の一つなのだと思いました」

各自工夫してプリントを作成した同僚の先生たち

各自工夫してプリントを作成した同僚の先生たち


Text=飯渕一樹(本誌)写真提供=筒井駿樹さん

知られざるストーリー