子どもの頃から野球を始めて中学校、高校、大学と野球部に所属。日本の県立高校で教職に就いてからは野球部の顧問として野球を教えてきた。世界史の教員として23年間教壇に立ったのち、現職教員特別参加制度を使って協力隊に参加。ブラジルの明るく陽気な人間関係に惹かれ、復職した今は、学校内で「ベレーザ!」というポルトガル語の挨拶を浸透させている。
捕球は中腰で、グローブをグラウンドにつけて構える、バットは手で回すのではなく、体をひねって押すように振る……。そんな細かい野球のフォームを言葉で伝えようにも伝わらない。2016年、日系社会シニア・ボランティア(当時)として野球指導のためにブラジルに赴任した今泉友秀さんは、早々に言葉の壁にぶつかった。
「主な指導対象は、民間の野球クラブの9~10歳の子どもたち。打撃や守備、送球など野球技術の向上などが要請でした。言語はポルトガル語だったのですが、こちらの語彙力が乏しく、言いたいことが伝わらなかったり違うように伝わっていたり。どうやったらうまく伝わるのか頭を抱えていました」
そこで今泉さんが思いついたのが、スマートフォンで子どもたちの動きを写真や動画で撮影、それを見せながら説明すること。データの共有には、SNSを積極的に用いた。
「まずは、毎回の練習時に、子ども一人ひとりのバッティングやピッチングの様子を写真や動画で撮影し、それをいったん家に持ち帰り、エクセルシートに写真とポルトガル語で説明を入れた個別のチェックシートを作成しました。動画もスマホ内のアプリで編集し、コメントを入れて親たちに送りました」
スマホを駆使し、一人ひとりの子どもに対してきめ細かくサポートし始めてから、効果はすぐに表れた。
「やはり画像と文章を合わせて説明されると『ああ、そうか』と自分のできていないところがすぐに理解できるんです。同じ情報を親にも簡単に共有できるので、家での練習にも役立っていたようですし、私のほうでも、一度データを持ち帰ることで適切な言葉を考える時間ができたのはよかったと思います」
チェックシートをデジタルデータで共有したのは、親が毎回の練習ごとに持参する手間を省くためだが、子ども向けにはプリントしたシートを渡すなど、媒体を使い分けた。
「低学年くらいの子どもたちはまだスマホを持っていませんし、やはり練習の場で直接プリントを手渡されたほうが嬉しそうでしたね」
自分だけのチェックシートをもらった子どもたちは、おのずとやる気スイッチが入る。特に中心選手はどんどん上達していき、今まで優勝したことのない大会に優勝することができたのは嬉しかった、と今泉さんは顔をほころばせる。
写真や動画は、すべて日本から持参したAndroidのスマホで撮影。送る時はメッセンジャーアプリのWhatsAppを利用した。今泉さんは、協力隊に行く前から、FacebookやLINE、YouTubeと、SNSはひと通り利用していたため、現地で使うのに抵抗はなかったという。
「ITについては日本より、ブラジルのほうが進んでいて、フリーWiFiの環境に至っては日本のほうが遅れているほどでした。私は60歳以上のチームの方にも教えていましたが、彼らにとってもスマホは当たり前のコミュニケーションツール。私も彼らのWhatsAppのグループに入れてもらいました。そこから、いろいろな情報を得られて、ブラジルのこともよく理解できました」
今泉さんにとって、言葉の壁を乗り越える助けとなったIT関連の技術だが、いったいどれぐらいの知識を身につけておけばよいのだろうか。
「そんなに難しいことはできなくても、スマホアプリで、動画を切ってつなげて、コメントをつける程度の簡単な編集ぐらいはできるといいですね。そういう意味ではAndroidよりiPhoneのほうが、いろいろなアプリが最初から入っていて便利かもしれません」
コロナ禍を経て、Zoomなど、簡便なITツールの選択肢はより増えてきた。難しく考えず、まずは気軽に使ってみるのがよさそうだ。
Text=池田純子 写真提供=今泉友秀さん